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【座談会】「新・学生支援」を考える(4) : 教育を語る文化の創造

【座談会】「新・学生支援」を考える(4) : 教育を語る文化の創造

2022.05.25NurSHARE編集部

これまで本企画で共有された学生支援における課題を踏まえ、これからの学生支援として何が求められるのかを掘り下げるべく開催した、本企画プランナー・三森寧子先生(千葉大学教育学部)と3名の執筆者による座談会の様子をお届けします。

※この座談会は2022年3月25日に開催しました(ただし、本文中の学年などは2022年度に合わせています)。

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教育を語る文化を創る

三森:そうしてお互いの教育観や考え、価値観を語り合っていけるといいですよね。私は川越先生の「教育を語る文化を創る」という言葉が、すごく心に響きました。実はもう何回も先生の講演で同じことをうかがっているのに、毎回そうだなってかみしめているんです。

川越:ありがとうございます。「教育を語る文化を創る」というのは、看護の先生方含め、いろいろな分野・領域の方々に教育について講演をさせていただくときに、必ず最後に私がお伝えしていることです。これは私の大学時代の恩師であり、初職時代の上司でもあった方の言葉で、私自身も大学教員になってからずっと大切にしている言葉です。分野や学校種を越えて共通言語になり得るものだと思っています。教育改革をするうえでも学生支援をするうえでも、大きな柱になる考え方ですね。

三森:そうですよね。私は、学生にどういう力をつけたいかとか、どういう看護師を、養護教諭を育てていくのかとかいうことだけではなくて、“人”としてどう育んでいきたいかということを、教員間で共有できるといいなと思うのですが、教員が意識をもつことからなのかなと。

池口:私も本当に大事だと感じていて、今の大学に着任してまずどうしようと考えたときに、周りの先生方と教育を一緒に語れる仲間でありたいなと思って、領域の教員全員で教育改革をしようと取り組んだんです。そういう取り組みを通じて、みんなで教育について語る場が欲しかったんですよね。それこそ、互いに知らない同士で組織にポンと入って、みんなで何をやるかって考えたときに、教育をしに集まっている仲間なので、教育のことを語りたいと思ったんです。そういう仲間ができるっていうのは、本当にありがたいことです。だから川越先生がおっしゃる「教育を語る文化を創る」というのは本当に意味があると感じます。教育を語るって、どこか気恥ずかしいし勇気がいるし、まだまだ自信があるわけでもないのですけれど。でも素直に、自分が何を大事に思っていて、学生を支えたい、育てたいと思っているのかが語れないと仲間は集まってこないのではないかな、なんて。

矢野:今、池口先生がおっしゃったのは、コミュニケーションの視点でいうと「自己分析後の自己開示」です。自分が何を大事に思っているのか、だけでなく、なぜ自分は教育に携わっているのか、なぜ自分は看護を専門にしているのか―。こうした自己分析をしないことには自己開示はできない、自己開示・自己発信ができないと他者とはつながれません。キャリア教育の中でもそう学生に教えているんですが、ひるがえって、教員の我々がまず自己分析しないといけないですよね。

川越:それから、なぜ看護を教えているのか、とくになぜこの学校・大学で教えているのかということも、自己分析していただくとよいと思います。学校や大学には理念があって、教育しているはずです。そうすると、どのような学生を育てたいのかという話につながってくると思うんですね。私は学生にもキャリア教育科目の中で「なぜ熊本大学を選んだの?」と考えさせているのですが、今の場所を選んで来ているという意味を、学生も教員も自問自答することが自分自身のキャリアを考えるきっかけにもなりますよね。

矢野:そのときに、明確な答えが見つからなかったり、誰かに語れるような理想や大義名分がなかったりしてもいいと思うんです。今はお金を稼ぐためですとか、生活のためですっていうのがあるのも当然のことで、むしろそれが現実かもしれません。人生100年時代ですから、長い時間の中で数年はありますよ、今はそんなに熱意をもてないでいるんですという時だって。そんなときは理由を後づけしても問題ありません。学生にもそうアドバイスしているんですが、そうして人に発信して伝えているうちに、自分自身も本当にそんな気がしてくるんですよね。それは人から与えられた答えではなくて、自分で導き出した自己分析だからでしょう。「私はこういう思いで看護の学生への教育をとおして、未来の保健・医療をつくっているんです」なんて言い続けていると、本当にそうなってくるんです。
 

 

おわりに:教育について語り続けるために

三森:今日は「学生支援」というテーマから、本当にさまざまなすてきなお話をうかがうことができたと思います。“教育を語る”時間が終わるのは惜しい気もしますが…、最後にそれぞれ、お感じになったことなど、言葉をいただきたいと思います。

池口:私は常日頃から、看護と教育はとてもよく似ていると思っていて、本当に私たちは学生に育てられているなあと感じています。経験を重ねれば重ねるほどそう思っているので、自分も楽しみながら、周りの先生たちとも楽しんで、これからも教育をしていけたらいいなと、とても純粋にそう思っています。大変なことも山積みですが、それでも仲間がいるからそう思えるんだなと。今日は本当にありがとうございました。また視野が広がった感じがしています。

三森:ありがとうございます。池口先生の“看護と教育は似ている”という一言が、今の私に本当にフィットします。“ケア”という概念がその両方に通ずると思っていて、看護のケア、教育のケア、それらの中核概念って実は一緒なんじゃないかと考えています。個人の勝手な興味でケアという言葉を使ってはいるのですけれども。まさしくケアしケアされているというか、学生がいるから我々は教員をやれているし、患者さんがいるから看護師をやれているわけです。相手が、ケアの対象がいるからこその私たち、ということを、これからも大事にしていきたいと改めて思いました。そしてなぜ自分が今この場で教育をしているのかという問いは、学生にもいつも話しているけれど、確かに自分にも投げかけないといけないなと刺激をいただきました。今回の座談会は読者の方々といろいろな思いを共有したいというところから企画しましたが、なんだか私が一番のギフトをいただいたような気がします。

矢野:今日は大変貴重な時間をありがとうございました。まさに今日この4人で一つのコミュニティができたなという感じがします。そして、「NurSHARE」を介して読者の方々も含めた新たなコミュニティが生まれたのではないかなとうれしく思います。今回のテーマは学生支援でしたが、学生がそれぞれの人生の選択をする時に、その一コマに私たち教員がどれだけかかわれたかということが支援だと思います。人生は選択の連続だと言います。学生の岐路という大きな選択だけでなく、日々の小さな選択においても「あの先生が授業でこういう話をしていたから」とか、「実習先でこういう経験をしたから」とか。教員とは、学生の人生の選択に影響を与えられるすばらしい仕事なんじゃないかなといつも感謝しています。教員同士でも同じです。お互いに影響を与え合いながら、より良い教育、学生支援ができるようなコミュニティをつくることを願っております。

川越:では私からは最後に一つ、ご紹介させていただきます(下図)。

 

川越:コロナ禍で2年が経過して、初年度は今回共有したように、私たち教員は目の前の学生の学びと成長を止めないためにあれこれ試行錯誤をしてきました。そして2年目には学びと成長をいかに加速させられるかということを考え始めました。それは、授業をより良くしていく、教育をより良くしていくという意味で、私たちがさらにがんばってきたことだと思うんですよね。方法や手段が変わったとしても、教育そのものの本質というのは変わらないはずです。そういった中でも、このコロナ禍によって図に示した真ん中の学生たちの情緒の部分が切れてしまいました。だからそこをなんとか私たちがつないであげなければと、一つひとつの授業もそうだし、授業以外のところでも、学生の認知と情緒と行動をうまくつないであげようという意識をもってきました。そして今回この座談会をとおして感じたのは、私たち教員もやはりここが切れちゃったんじゃないかなと気づかされました。人とつながること、人とかかわることがなかなかできにくい環境になってしまった。だけど、やはり何をするにもコミュニティってすごく大事ですよね。だからこそ私たち教員もコミュニティをつくり、学生たちとともに学修コミュニティをつくる。これが学校全体のコミュニティとして一つの文化をつくっていくということなんだろうと思います。私たち教員も認知と情緒と行動というのをうまくつないでいくということを、どこか心の片隅においておく必要があるのではないかというのを感じましたね。

 

三森:ありがとうございます。今回、学生支援というテーマでしたが、同時に教員同士の支援という視点もいただき、明日からのエネルギーをいただいたように思います。今回の座談会をとおしてできた教員のコミュニティを活かして、学生のために、自分たちのために、それぞれの学校や大学で教育を語る文化が創造できるといいなと、心から願います。先生方、今日は本当にありがとうございました。

<終わり>

NurSHARE編集部

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