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第4回:東京警察病院看護専門学校における新カリキュラム構築の取り組み

第4回:東京警察病院看護専門学校における新カリキュラム構築の取り組み

2022.02.24片野 裕美(東京警察病院看護専門学校 副校長)

2022年度の入学試験が一段落し、指定規則の改正を受けた新しいカリキュラムのスタートが、いよいよすぐそこまで迫ってきている。地域に必要とされる学校とは何か、地域とどうつながれるのか、そして学生たちに何を教えるべきなのかと、教員間で議論を重ねた日々。それは同時に、自校の理念や教員一人ひとりの教育観を改めて見つめ直す機会になったことだろうと思う。
本企画では、その結晶として構築された貴重なカリキュラムの実例を紹介する。地域医療構想、地域包括ケアといったテーマだけでなく、各校の特色を踏まえた取り組みから、よりよい教育実践のためのヒントを感じ取っていただければ幸いである。

企画:片野 裕美(東京警察病院看護専門学校)

東京警察病院看護専門学校の紹介

 当校は、1学年40名の小規模養成所で、一般財団法人自警会を設置主体とし、並列の組織としてある東京警察病院を主たる実習施設としている。卒業生の進路は、5割前後が同組織の施設への就職、残りの約5割は進学および他組織の病院への就職という内訳である。

当校のカリキュラム改正で目指したこと

 当校では、厚労省が打ち出す「医療構想」「地域包括ケアシステムの推進」以外の事柄について、今回の新カリキュラム構築において以下3点を要点として検討を進めた。

1.理念から教育目標までを見直し、「ケアリング」を強調する
2.3つのポリシーで自校の特徴を明確にする
3.科目以外でも育む力を体系化する

 以上を踏まえ、今回は新カリキュラム構想のなかから「領域横断」「臨床判断」「カリキュラムにおける水平軸」を中心に紹介したい。

「領域横断」を、課題解決の方策として取り入れた

 カリキュラム改正を数年先に控えた2018年頃から「領域横断」の考え方が話題になり、教務全体で当時からその必要性を読み取るために研修に参加したり雑誌等の特集記事に目を通し、当校の課題と照らし始めた。そして今回のカリキュラム改正では領域横断を「成人看護学」と「老年看護学」に焦点を当てて検討した。

課題

 課題として、以下2点が浮き彫りとなった。

①これまでの成人看護学実習の受け持ち患者の年齢層は高齢者が多く、目標達成が難しい
②成人看護学と老年看護学、双方の目標のつながりに乖離がある

 そこで両者を領域横断の科目に位置づけ、講義と臨地実習を「成人・老年看護学」として1つにまとめることとした。

領域横断の要点

 社会の駆動的役割である成人期から、社会的交流が変化していく老年期の長きにわたる道を、その人らしく時を過ごし、生き抜くことをイメージして構想した。すなわち看護師は、老年期までの将来を見据えて成人期を過ごしている人たちに対し、健康面を中心に“生活する人”として支える医療チームのメンバーであると捉えた。
 また、臨地実習のフィールドは、医療施設中心から地域へ広げ、両者をつなげる力を育成するようにした。

科目内容と名称に、教員の思いを投影させる

 従来の領域別看護学の科目名は、発達段階の名称をそのまま用いていたが、新カリキュラムでは、その段階の“意味合い”に焦点を当て科目の名称に反映させた(表1)。それは、科目名を目にした学生たちが、一人の人間の生涯を「切れ目のない“一本の糸”」のように連続したイメージを描けるようにという、教員たちの思いが込められている。
 

表1 意味合いを反映させた科目名
従来の科目名 新カリキュラムにおける科目名
母性看護学 生命の発育を支援する看護学
小児看護学 成長発達を支援する看護学
成人看護学 成熟過程にある人への看護学
老年看護学

 さらに、臨地実習も同様に、その意味合いを読み取れる名称に変更した(表2)。学生たちが、対象の人生のさまざまな状況と、その時々の生き方や思いに注視することを期待した。

表2 新カリキュラムにおける臨地実習の科目名

(地域看護学、成人・老年看護学の例)

従来の科目名 新カリキュラムにおける科目名

成人・老年看護学

臨地実習

医療を受けながら社会生活を送る人を支える看護実習
健康障害と回復過程を支える看護実習
生き抜くことを支える看護実習
その人らしく人生をおくることを支える看護実習

地域・在宅看護論

臨地実習

地域暮らしの看護実習
医療ケアで暮らしを支え、生き方と思いをつなぐ看護実習

卒後を見据えた「臨床判断力」の育成

 臨床判断の構成要素を「気づき・解釈・反応・省察」とし1)最初に就職後のレベルを検討したうえで、次に基礎教育における育成をそれぞれの要素ごとに設定した。
 また、基礎教育で育成する臨床判断力については、3年次卒業時(領域別実習・統合実習修了時)のレベル・2年次(基礎看護学実習Ⅱ /基礎看護学最後の実習)のレベル・1年次末(基礎実習Ⅰ)のレベルの、目指す3段階を設定した(図)。さらに、講義と臨地実習の関連を学生・教員間で共有できるように具現化した。
 このように、臨床判断についても「講義で学び臨地実習でやってみる」という連続性・発展性をもたせるようにした。

図 「臨床判断」と関連科目の構成

看護過程と臨床判断

 なお、臨床判断力の育成の検討にあたっては、従来から大切にしてきた「看護過程」との関係性にも着目した。
 看護過程はナーシングプロセス=看護実践過程(情報収集から評価まで)全体を示すもの(型と思考)であり、臨床判断は対象と共にいる空間における“その場その場”に推論を用いながら対応するための思考であると区別し、お互いの関係性を「点と線」で整理し、位置づけを明らかにした。

自校の特徴をカリキュラムに落とし込む

ケアリング

 当校ではこれまで、その理念に「ケアリングを教育の核として」と表現しており、日々の教育活動においても教員自身の省察を心がけていた。臨地実習の評価会議では、学生の目標達成に教員としてどのようにかかわったのかも含めて意見交換を行ってきた。しかし、今回の新カリキュラムを検討する機会に、改めて理念・教育目標以下の全体を評価したところ、ケアリングの行方が言語化されておらず、曖昧な状態にあることを認識せざるをえなかった。そこで、理念そのものから見直す作業を始めた。

理念の変更

現行:本校は「看護も教育も互いに働きかけることによって人間として成長しあうことができる」というヒューマンケアリングを基盤に、多様な看護の対象を全人的立場から支援できる広い教養と高い倫理観、豊かな人間性を兼ね備えた専門職業人を目指す。
 ↓
:ともに学び、ともに成長

 そして教育課程には次の内容を載せ、学生たちへケアリングを案内することにした。

 看護師は、患者様に対し気づかい察し、相手の反応から自己を省察し、より良いかかわりを再考します。そのことが可能になるまでは、日々の学校生活でも相手を気づかう経験を積み重ねることが大切です。また、学生同士が学び合うことで、個人の学習をさらに高めることが可能になります。
 当校では、授業、それ以外の交流でも、思考や認識、行動力を高め合い、皆で人としての成長を目指します。

 このように、理念を端的な表現として、学生と教員が合言葉のように用い、“目指し”なおかつ“立ち戻るところ”として設定し直した。さらにケアリングを理念→教育目標→教育内容へと浸透させるように全体での検討を進めた。なお、現行の理念の、看護師として必要な内容は、教育目的・目標において網羅することにした。 
 加えて、教員全体が社会への誓約としてケアリングを保証することを以下のように教育課程に盛り込むこととした。

<教員の基本姿勢:ケアリングに基づいたカリキュラムを運用するために>

 私たちは、看護師を目指す学生たちを育成するにあたり、次のことに取り組み続けます。

1.学生の頭と心にあることに関心をもち、そこで得たことを活かす「対話的教育」を大切にする。
2.公平で効果的な教育を提供するために、学生の反応から自身を省察し、よりよい教授方法を目指す。
3.育成の過程で発生する「ジレンマ」「難問」「曖昧さ」を創造の基として向き合い、柔軟に誠実に対応する。
4.学生の個性を支持しながら、就職後の状況へよりよく適応できるように、共に考え取り組む。
5.自らがケアリング実践者としてのモデルとなり、教員同士で切磋琢磨しながら組織の成長へ向かう。

 カリキュラムにおける水平軸:“成長する人”としての要素の追加

 当校では、これまでの約10年間にさまざまな課題と向き合ってきた。たとえば、「卒業後の就業継続」「学生間の学習能力差」「自己課題の受け入れ状況」などがあり、そのつど、「入学時から社会人としての力を身につけるシステムづくり」などの対策を講じてきた。しかし、カリキュラムとして体系化しないままで運用していたという経緯があり、その意味においての弱さが課題だった。
 したがって、このたびのカリキュラム改正では、「ケアリング」「社会人基礎力」「チーム形成」「主体的学習」の4つをカリキュラムの水平軸とし、入学時から卒業後まで、授業・学校行事などをとおして全体に浸透させながら高められるようにした。この4つの力については、それぞれに必要な力を可視化し、目安となるレベルを設定し、学生が自分の成長を自覚しながら前へ向いて進めるように工夫した。なお、これらはあくまでも“形成的な成長確認”として用いることとし、「科目認定の評価視点」と区別することを教員間で共有した。

 以上が、当校の新カリキュラムにおける概要である。これまで学校として大切にしてきたことを、国から発せられた使命に加え、いよいよこの4月からの運用が始まる。コアな部分を見直し、何度も全員で検討を重ねてきたカリキュラムだけに、非常に愛着を感じる。4月以降は、運用しながら、より育成に役立つカリキュラムとなることを目指して検証を繰り返し、成長し続ける組織でありたい。

引用文献
1)Tanner CA,後藤桂子訳,堀内成子訳:看護師のように考える;研究に基づく看護の臨床判断モデル,看護管理 26(11):p.994-1005,2016

片野 裕美

東京警察病院看護専門学校 副校長

かたの・ひろみ/東京警察病院看護専門学校、日本女子大学人間社会学部教育学科を卒業。東京警察病院勤務後、同病院看護専門学校へ教員として異動。一度退職し、大学と専門学校で非常勤講師を務めた後、現学校に復帰。幹部看護教員養成課程(旧厚生労働省看護研修研究センター)を修了し、2010年より現職。東京都看護系学校連絡協議会の会長等兼務。趣味は下町散歩と近距離サイクリング。

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