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第2回:下関看護リハビリテーション学校における新カリキュラム構築の取り組み

第2回:下関看護リハビリテーション学校における新カリキュラム構築の取り組み

2022.02.09森寺 智子、 小林 愛、 田中 亜紀子、 鮫島 陽子(学校法人巨樹の会 下関看護リハビリテーション学校)

2022年度の入学試験が一段落し、指定規則の改正を受けた新しいカリキュラムのスタートが、いよいよすぐそこまで迫ってきている。地域に必要とされる学校とは何か、地域とどうつながれるのか、そして学生たちに何を教えるべきなのかと、教員間で議論を重ねた日々。それは同時に、自校の理念や教員一人ひとりの教育観を改めて見つめ直す機会になったことだろうと思う。
本企画では、その結晶として構築された貴重なカリキュラムの実例を紹介する。地域医療構想、地域包括ケアといったテーマだけでなく、各校の特色を踏まえた取り組みから、よりよい教育実践のためのヒントを感じ取っていただければ幸いである。

企画:片野 裕美(東京警察病院看護専門学校)

 

はじめに

 当校では、2022年度のカリキュラム改正に向けて、医療が病院から地域・在宅へシフトしていること、またICTの発達による教育や臨床への影響という2点で大きな転換期になると考え、3年前から学科会議において検討を重ねてきた。指定規則改正の主旨を受け、地域で活躍できる人材育成を目指すためには、現在の教育内容を地域・在宅をより意識した視点へとシフトしなければならない。ICT活用に関してはデジタル教科書導入を開始し、並行して現行カリキュラムの評価と入学生の状況について分析を行い、カリキュラム改正に取り組んだ。以下、取り組んだ経緯に沿って述べる。

 

改正カリキュラムに求められる能力の検討

 まず、今回の改正で求められる能力を大きく4つ考えた。1. ICT活用能力、2. 気づきと臨床判断能力、3. 地域・在宅看護と健康支援能力 、4. 多職種連携・協働能力である。
 加えて、教育方法の方向性として、医療においてICT技術が取り込まれてきていること、現代の学習者はアクティブ・ラーニングやパソコンを用いた教育になじんでいることを踏まえ、ICTの活用や自分たちで動いて調べて討議する形式を積極的に採用することとした。

 

4つの能力の育成に向けた授業・科目の構築

1)ICT活用能力

(1)タブレットの導入

 現在、入学してくる学生の大半は情報社会に生まれ、初等・中等教育において情報基礎を習得し、情報活用能力を育成する教育を受けてきた年代である。俗に言う“デジタルネイティブ世代”である。彼らはスマートフォンを駆使して多くの情報を取り込み使いこなしている。こうした学生を教育する看護基礎教育にも変化が必要と考えた。そこで2018年度にタブレットを導入し、一部を除いて授業のテキストはデジタル教科書に切り替え、講義資料は学生個々のタブレットに送信して授業を実施し、クラスの連絡もすべてアプリケーションを用いて行うようにした。外部講師の先生方にも主旨説明のうえ、意欲的に協力してもらうことができた。
 専門分野の授業では臨地に即した状況で演習できるように高機能シミュレーターを用いて演習を行うが、その際もタブレットを活用しデブリーフィングに役立てている。このほか、ほとんどの教科でタブレットを使用しており、課題提出や授業評価に関してもすぐに反応がわかるので、タイムリーな指導に活用できるのが利点である。
 なお、タブレットの活用を始めて2年目にCOVID-19の感染拡大が起きたが、すぐに遠隔授業に取り組み、臨地実習においてもウェブ会議システムでカンファレンスを行うことができ、学習状況の把握や、個別の支援を行うことができた。学生からは、自宅で孤独に学習をしている時でも、このシステムで友人と顔を合わせて意見交換し、助言を受けられて安心したという意見が多く寄せられた。

(2)「情報リテラシー」の教授内容の整理

 臨地実習ではほとんどの施設が電子カルテシステムを用いた情報管理・共有を行っていることから、「情報リテラシー」の科目では電子カルテについても教育内容に取り込み、倫理面とともに使い方も教授できるようにした。

2)気づきと臨床判断能力

(1)「生活を営む人体機能演習」の新設

 臨床判断には相手の反応をとらえる「気づく力」と、知識を用いて「分析する力」が必要になる。この力を鍛えるために、その土台となる「人体の構造と機能」の知識について、看護教員が“生活する者”としての視点から教授できれば、より看護に活きる知識が得られると考えた。そこで、「生活を営む人体機能演習」という科目を設置し、既修の学修をもとに、たとえば「食べる、呼吸する、移動する」などの切り口から人体の構造と機能の知識を看護に活用できるよう授業を工夫した。授業は看護教員が担当し、ペーパークラフトを用いた人体模型(図)をチームで作製する、また人体機能のメカニズムを学ぶためにマインドマップを用いるなど、演習を行い、解剖見学につながるようにした1)

図 学生が作製したペーパークラフトの人体模型
(2)「臨床推論」の新設

 また、健康障害と治療について学んだあとに「臨床推論」を配置した。各看護学領域の事例を用いて、症状、年齢から健康障害を推論したり、さらに薬物療法の情報や検査データなども事例に加え、より深く推論を進めていくように計画した。これらは各科目で学んだ知識を活用できるように、学生どうしが協働して考える演習型の授業としている。

3)地域・在宅看護と健康支援能力

 医療が病院から地域へとシフトしている今、地域包括ケアシステムの構築が推進され、地域医療を担う人材育成が求められている。今回の指定規則改正において地域・在宅看護論が6単位となったが、超高齢社会の現在、今後地域に暮らす人々の健康に働きかける能力はますます必要になると考え、地域看護を3単位、在宅看護を3単位として構成した。

(1)地域看護を構成する科目の新設

 学修の早い段階から地域の特徴を把握するために、1年次に地域における人々の健康や暮らしを能動的に知る「地域リサーチ」の科目を配置した。この科目では当校が位置する下関市内の人口、世帯、病院、学校、産業等をリサーチし、インタビューによって地域の暮らしはどうなっているのか、どのような健康問題があるかなど調査する。さらに地域の健康支援を行うために必要な活動について「地域看護概論」で、健康支援活動を支える技術については「地域看護援助論」で学び、その学びを臨地の場で結びつけられるよう地域看護実習を1単位設定した。これらの科目をとおして、障害の有無にかかわらず、地域住民がより良い健康状態を目指して生活するその場で健康支援できる能力を修得できるように計画した。

(2)「在宅看護」での教授内容の整理

 地域看護では健康支援能力の修得を中心としたが、一方で在宅看護の場合は複数疾患をもち医療処置が必要な対象とその家族の看護が中心となる。対象は小児から高齢者まで幅広く、看護の目的も多岐にわたる。また在宅看護実習で訪問する対象の健康レベルも様々であることを踏まえ、在宅看護においては人生の最終段階にある対象も含めその家族のグリーフケアまで考えられるよう、教授内容を整理した。

4)多職種連携・協働能力

 一人の患者に多くの職種が協働してかかわる現代のチーム医療において、専門職連携・協働は不可欠である。地域での看護師の活動がますます求められる将来を考えると、基礎教育の段階からいくつかの専門職間で協働学習に取り組み、各職種の専門性を理解し連携・協働を学習することは、教育内容として必須となる。しかし、効果的な教育を行うためには、共に学ぶカウンターパートを探し、学習内容、日程、場所の調整など多くの障壁が生じる。幸い当校は理学療法学科を併設しているため、2019年度より理学療法学科の教員に協力を求め、多職種連携教育に取り組むことができた。
 具体的には、教科外の時間に各専門職の役割と責務について共有したのち、事例をもとに両学科で専門性の視点から分析やシミュレーションの協働学習を行った2)。ここから多くの示唆を得たことを受け、今回の改正カリキュラムでは1年次から3年次までをとおして学修を積み上げていく蓄積型とし3)、1年次に「専門職連携教育Ⅰ」で各職種の役割やチームビルディングを学び、2年次に「専門職連携教育Ⅱ」で事例による協働学習に取り組み、3年次では臨地実習で合同カンファレンスに参加するという、学修のつながりを大切にした計画とした。

 

今後の課題

 地域に根差した看護学校として、地域で暮らす人々の健康に貢献できるようにと、地域清掃の活動や地域の医療施設への学生の就職などにこれまで取り組んできてはいたが、地域住民ともっと触れ合うことで地域の生活者をさらによく知り、障害の有無にかかわらず、人々がよりよい健康状態を目指すことを支えるための実践的な教育への転換が課題である。
 医療は地域へとシフトし地域包括ケアシステムが推進される中、病院での看護を基盤としてきた看護基礎教育を見直し、さらなる教育内容の精選と教育方法の工夫によって地域で活躍できる看護師の育成を目指したい。

 

おわりに

 当校では、タブレットの導入から1年後には学内会議のペーパーレス化にも取り組み、コロナ禍での会議はウェブ会議システムで行うなど、多くの体験を重ねてICTは欠かせないものとなった。思わぬ産物として、「いつもは学生から質問はないのに、チャット機能では質問が多くあった」という外部講師からの反応もあった。今後も、対面・非対面にかかわらず、その機能を最大限に活用し学習支援に取り組みたい。
 

1)田中亜紀子ほか:人体模型作成を中心としたプロジェクト学修;解剖見学との学習の併用によるアクティブ・ラーニングの効果について,日本看護学校協議会学会集録,2019
2)田中亜紀子,伊織信一,森寺智子ほか:専門学校における新カリキュラムに向けたIPEの検討;看護学科と理学療法学科の合同シミュレーション演習を実施して,看護展望46(13):76-82,2021
3)酒井郁子ほか:看護師等学校養成所における専門職連携教育の推進方策に関する研究 平成29年度総括・分担研究報告書,2018

 

森寺 智子、 小林 愛、 田中 亜紀子、 鮫島 陽子

学校法人巨樹の会 下関看護リハビリテーション学校

森寺 智子(もりでら・ともこ)学校法人巨樹の会 下関看護リハビリテーション学校 副学校長兼教務部長/小林 愛(こばやし・めぐみ)同教務副主任兼実習調整/田中 亜紀子(たなか・あきこ)同教務主任/鮫島 陽子(さめしま・ようこ) 同顧問

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