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第1回:松下看護専門学校における新カリキュラム構築の取り組み

第1回:松下看護専門学校における新カリキュラム構築の取り組み

2022.02.02水方 智子(パナソニック健康保険組合立松下看護専門学校 副学校長兼教務部長)

2022年度の入学試験が一段落し、指定規則の改正を受けた新しいカリキュラムのスタートが、いよいよすぐそこまで迫ってきている。地域に必要とされる学校とは何か、地域とどうつながれるのか、そして学生たちに何を教えるべきなのかと、教員間で議論を重ねた日々。それは同時に、自校の理念や教員一人ひとりの教育観を改めて見つめ直す機会になったことだろうと思う。
本企画では、その結晶として構築された貴重なカリキュラムの実例を紹介する。地域医療構想、地域包括ケアといったテーマだけでなく、各校の特色を踏まえた取り組みから、よりよい教育実践のためのヒントを感じ取っていただければ幸いである。

企画:片野 裕美(東京警察病院看護専門学校)

 

はじめに

 今、私たちは「人生100年時代」の到来とともに「人口減少」の時代が間近に迫り、社会制度も医療も看護も急激に変化していくさなかにある。看護が人々の健康状態の維持・改善に寄与し、教育が未来を創るものであるならば、看護基礎教育はどのように地域の健康改善に貢献し、必要とされる養成所になれるのか、教育課程の変更の視点から考えてみたい。

松下看護専門学校の紹介

 松下看護専門学校(以下、当校)は、パナソニック健康保険組合立の1学年定員40名の小規模看護師養成校(3年課程)である。パナソニック健康保険組合は、1937年に松下幸之助創業者が、従業員とその家族の健康福祉を向上させるとともに、地域社会に貢献していくことを目的に設立し、現在は、先進的な医療・積極的な健康づくりや疾病予防・介護など多彩な事業を展開している。
 当校は、大阪府守口市にあり、1973年に開設されて以来、卒業生約1,400人を輩出し、卒業生のうち約1,200人が同組織の松下記念病院(1940年設立、病床数323床、地域医療支援病院、大阪府がん診療拠点病院指定病院、7対1急性期看護体制)に就職するという特徴をもつ。現在、46~48期生が看護師を目指して学修中であり、現役生9割、社会人経験者1割程度、男子学生1割程度が在籍している。

当校における、第5次教育課程変更までの道のり

1)2019年度の教育課程変更

 当校では、2008年度頃から休退学者率が増加傾向となり、2011年度の卒業生が全体の6割程度になるとともに、就職後の早期離職者も増加するようになった。このような学校存続にとって危機的状況に陥ったのは、「知識伝授に偏った講義」「デモンストレーションありきの演習」「思考重視の実習」など、教員が実施する授業に課題があり、「学生が活き活きと看護を学ぶ授業を創れていなかった」結果であると分析し、その状況を打破するために、2012年頃より教育改革1)を進めてきた。
 このような経緯から、2008年度に変更した第4次教育課程と教育内容・方法が一致しなくなり、2014年頃から教育課程変更の検討を開始した。変わりゆく日本や医療行政、変化する科学技術・教育・人々の気質のただなかにあって、変わらないといけないもの・変えてはいけないものは何かを教員間で何度も話し合った。その中で、当校には「ナイチンゲール看護論」という揺るぎない看護観、「看護と教育は同形」であるという教育観、そのうえで「経験を重視し学生の自主性を奪わない」という教育方法があり、それらこそ変えてはいけない大切なことであることを確認しつつ、看護実践能力の育成と地域から学ぶことを軸に、2019年度に教育課程の変更2)3)を行った。

2)2022年度の教育課程変更

 前述のような経過からさらに、指定規則の第5次改正によって6単位に増えた「地域・在宅看護論」に成人看護学領域の内容を移行させる等の微調整を行い、構築した当校の教育課程の4つの特徴(以下)を述べる。

① 3つのポリシーで標記(図1、図2)

 中央教育審議会による「『卒業認定・学位授与の方針』(ディプロマ・ポリシー)、『教育課程編成・実施の方針』(カリキュラム・ポリシー)及び『入学者受入れの方針』(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン」4)を参考に、次のように3つのポリシーを整理した。
 「人との関係を作りながら、自分のなりたい看護師像に向かい、諦めずにやりぬくことができる人」を受け入れ、「Ⅰ. 人間尊重に基づいた看護を実践する力/Ⅱ. 根拠に基づく個別的な看護実践をする力/Ⅲ. 心身の状態をセルフマネジメントする力/Ⅳ. 看護師として成長し続ける力」を身につけて卒業することを目指す。そのために、「ナイチンゲール看護論を基盤に、三重の関心<知的な関心・心のこもった人間的な関心・技術的な関心>を重ねて注ぎ続けることができる看護師の育成を目指す」。これを踏まえ、学生個々の意志を大切に、様々な人々との学びを深め合い、体験をとおして看護実践能力を身につけることができるよう、教育課程を編成した。
 

図1 3つのポリシー(P)に基づいた教育課程の構築

 

図2 カリキュラム構造図
② 独自の科目群を創出(図3)

 看護実践はすべて統合されたものであるため、基礎分野から専門領域・統合分野へ、という積み上げ式の教育課程を再考した。その結果、当校が大切にしてきたナイチンゲールの看護論を基盤に、「すべての人に健康への最善の機会を与えられるように」、三重の関心<知的な関心・心のこもった人間的な関心・技術的な関心>を重ねて注ぎ続けることを目指し、「人と暮らしの理解」「健康の理解」「他者の尊重と関係発展」「看護観の表現」「看護の探求と自己成長」という5つの独自科目群を創った。
 

図3 独自に創出した科目群
③ 地域に出向く形の講義や実習を早期から導入

 人間は、ある国のある地域のある家族の一員として生まれ、その場の環境条件との相互の関係において健康状態が作られていく。すなわち、地域や在宅の場における看護は、新しい考え方ではなく、看護の原点であると捉えた。今後も急激に変動する社会や人々のニーズを実感し、病院という施設を含めた地域において必要とされている看護について学ぶと同時に、居宅から病院/病院から居宅へと続く看護の継続性や、多職種との連携、疾病・健康障害の予防の大切さを学べるように、すべての看護学領域で地域と施設の両方で実習できるように構築した。
 入学して初めての基礎看護学実習の段階から、訪問看護ステーション・病院外来・病院病棟で実習を行い、成人看護学実習でも同組織にある健康管理センターで実習を行う。
 また、当校のある守口市は、2015年の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は29.3%であり、全国平均(26.6%)よりも2.6ポイント高く、2045年までに44.1%に達し、おおよそ10人に4人が高齢者になると見込まれているため、子育て支援にも力を入れた施策が展開されている地域である。このような状況を踏まえ、10年以上前から実施している“看護学生として守口市にできること”をフィールドワークにて提案する科目に加え、地域で暮らす市民生活に実際に参加し、地域において健康な生活に向け行われているフォーマル/インフォーマルな取り組みを理解できる科目も構築した(図4)。
 

図4 地域・在宅看護論と主な関連科目
 
④ 異学年交流による学び合いの構築

 卒業後は常に年齢も経験も異なる人たちと一緒に仕事をしていくことになる。そのため、看護専門職として不可欠な能力である「協同」や「対話」を大切に、互いに成長していくことを目指し、学年を縦割りにした小グループに対してAEDトレーニングや技術指導・実習オリエンテーションなどを行う、異学年による学び合いを科目外活動として進めてきた。この取り組みは15年以上前から実施してきたが、これを教育課程内科目として発展させた。1年次には教育学の基本を学び、2年次には1年生へ看護技術を教える演習を実施する。そして3年次最後の看護の統合と実践実習では、1年生へ看護実践を教える実習を実施し、「自分が成長するために後輩育成にかかわる」という教育観をベースに異学年の学び合いができることを目指した。

現在の学生の姿

 看護実践能力の育成と地域から学ぶことを軸とした2019年度からの教育課程で学習した学生が現在3年生となり、間もなく卒業を迎えようとしている。彼らがすべての実習を終えた2021年12月に、全校生による看護研究発表会を実施した。学生たちが目の前の対象に真摯に向き合い、看護師として成長していくための課題を自分で探求し、自分の言葉で伝えることができるということに、教員は感動しうれし涙を流すという出来事が起こった。2020年から続くコロナ禍の影響で予定どおりの講義・演習・実習ができなかったハンディを乗り越え、実践と省察を積み重ねる中で、「自分の目の前にいる看護の対象から学び続ける」という看護師としての基礎的能力は育成できたのではないかと自負している。

おわりに

 松下幸之助は、「企業は社会の公器である」5)と述べている。つまり、企業は社会に存在させてもらっているものであるという考え方である。すなわち、看護学校も単独で存在するものではなく、看護の対象となる方々・医療福祉施設・地域などがあって初めて存続が可能になるのであろう。
 コロナ禍を経て、従来よりも世の中の動きが早くなった。約10年ごとに行われる指定規則改正に準じて自校の教育課程を後追いで変更するのではなく、常に社会情勢を把握し、地域の状況や目の前にいる学生たちの姿を大切に、現状に応じた教育課程を先駆けて構築していかなければ、社会や地域から必要とされる養成所であり続けることは困難になる。よって、看護とは何か・教育とは何か、を常に自問しつつ、変化を味方につけた看護基礎教育を創造する必要性を痛感している。そして、人々の健康に寄与しうる、今はまだない未知の看護を、卒業生たちが創り出してくれることを楽しみにしている。
 

引用・参考文献
1) 水方智子,大谷弘恵,西山玲子:国家試験合格率UPのために;学生の夢をサポートするため,学校が病院と一緒に行った改革,看護教育56(11):1090-1097,2015
2) 水方智子,大谷弘恵,山之内由美,ほか:学生の「看護師になりたい」を支える教育課程;授業改革からカリキュラム開発へ,看護教育60(7):560-567,2019
3) 日本看護学校協議会:カリキュラム編成ガイドライン&地域・在宅看護論の教育内容 令和2年5月,http://www.nihonkango.org/report/pdf/report_200603.pdf,アクセス日:2022年1月18日
4) 中央教育審議会大学分科会大学教育部会:「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン 平成28年3月31日,https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2016/04/01/1369248_01_1.pdf,アクセス日:2022年1月18日
5) 松下幸之助:物の見方 考え方,PHP研究所,1986

水方 智子

パナソニック健康保険組合立松下看護専門学校 副学校長兼教務部長

みずかた・ともこ/大阪府立看護短期大学(当時)第1看護科、放送大学大学院文化科学研究科教育開発プログラムを卒業。淀川キリスト教病院勤務後、大阪府立千里看護専門学校を経てパナソニック健康保険組合立 松下看護専門学校で教員として勤務し、2010年より現職。2021年度より一般社団法人 日本看護学校協議会会長に就任。趣味は、愛犬との戯れ、ミュージカル鑑賞、グレイヘア談議。

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