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コロナ禍の卒業生/新人看護師への基礎教育機関による支援:湘南医療大学における実践報告

コロナ禍の卒業生/新人看護師への基礎教育機関による支援:湘南医療大学における実践報告

2022.03.17NurSHARE編集部

 コロナ禍での学びを余儀なくされて丸2年が経ち、講義や実習を予定どおりに受けることができなかった学生たちの卒後を、基礎教育の側からも支援することの重要性がますます高まっている。
 今回、組織をあげて支援策を講じた湘南医療大学の川本利恵子看護学科長、片山典子准教授(精神看護学領域)に話を伺った。同学は、厚生労働省が行う「新型コロナウイルスの影響に係る看護職員卒後フォローアップ研修事業」も取り入れながら、臨地実習の補完やメンタルヘルス面の支援を行ったという。さまざまな不安のなか卒業し入職していく卒業生/新人看護師への支援のあり方の一例として、参考にしていただければ幸いである。

 

湘南医療大学の概要

 湘南医療大学(神奈川県横浜市)は、2022年4月で開学8年目を迎える。開学以来、看護学科のほかリハビリテーション学科(理学療法学専攻、作業療法学専攻)を擁する保健医療学部を主として歩んできた同学は、2019年度には大学院修士課程を、2021年度からは薬学部も開設した。実践能力と豊かな人間性、地域社会に貢献できる力を備えた医療従事者を多職種において輩出するため、日々教育にあたっている。
 2022年4月には看護学科の新キャンパス「横浜山手キャンパス」の稼働を開始するとともに、1学年定員数を増やし、同学における教育課程のさらなる発展を見込む。

看護実践に役立つ思考力やスキルを鍛える:特長ある科目群

 同学では、看護師を志す学生らに備えてほしい能力として以下の6点を挙げている。

「人間の命と個を尊重できる力」
「エビデンスに基づく実践力」
「援助的コミュニケーション力」
「チームで連携し協働する力」
「安全を保障する力」
「看護の発展に対応する力」

 これらの力を養うべく、すべてのライフサイクル・経過に共通する重要科目として、①多様な場で生活するあらゆる年代の人を対象とし、健康状態を的確にアセスメントする力をつける「フィジカルアセスメントⅠ・Ⅱ・Ⅲ」、②アセスメント結果を踏まえて確かな看護実践ができるよう、エビデンスに基づいた問題解決思考を養う「ナーシングプロセスⅠ・Ⅱ」、③多職種連携・協働を学ぶ「チーム医療論Ⅰ・Ⅱ」、④看護師は専門職者であると自覚し自主的・自律的な態度と自己教育力を身につける「プロフェッショナル論Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」を設置し、4年間を通じて多くの時間を充てている。
 科目設計におけるもう一つの大きな特色が、4年生を対象とした「保健医療看護の最前線」だ。時勢に合わせた看護に関するトピックスについて、基礎的知識を養いつつ現場感覚をもって捉え、課題に対処できるようになることが同科目のねらいだ。

看護の実践力を育む臨地実習の構成

 同学は医療・保健・福祉関連施設を有する「ふれあいグループ」を母体とすることから、県下や周辺地域に根差した17ヵ所のグループ関連施設において臨地実習を展開できることを強みとする。
 川本学科長は「看護は何よりもまず実践から」と強調する。そこで、臨地実習の組み立てにも注力した。従来のように短期間で展開せざるを得ない構図にはならないよう、領域別実習の概念を取り払い、1年次前期に行う「看護基盤実習Ⅰ」を皮切りに、2年次以降は「看護基盤実習Ⅱ」「ヘルスプロモーション実習」「急性期看護実習」「慢性期看護実習」「統合実習」と展開する。こうすることで、時間をかけて患者の心に寄り添いながら、対象の健康・健康障害に応じて根拠に基づき健康問題にアプローチしていく実践力を養うことができる。

卒後のキャリアサポートも重視する

 同学では、看護継続教育においても多岐にわたる学びの環境を提供している。専攻科(助産学、公衆衛生看護学)のほか、大学院における専門看護師教育課程、また「看護キャリア開発コアセンター」における認定看護師教育課程や認定看護管理者教育課程、実習指導者講習、さらにグループ関連病院における特定行為研修課程も開講している。これらを入学時から学生に案内し、卒業後、生涯にわたる看護職としてのキャリアがイメージできるようにサポートする。

十分に実習に出られない現状の認識

実践力は十分に養われたのか

 COVID-19の感染拡大によって、2020年度以降、看護師養成所における従来どおりの臨地実習の貴重な機会は大きく失われてきた。同学においても「これまでの実習と完全に同じことを続けるのは難しい」との判断から短縮版の実習計画を組み立て、臨床現場の理解も得、万全な感染対策をしながら試行錯誤を繰り返したものの、今に至るまでなかなか満足できる実習は達成できていないという。もちろん、コロナ禍で実施したシミュレーション教育や学内演習からも、今後の糧として得られるものは多い。しかし、やはり充実した実習期間なしに実践力を養うことは難しい、と同学では考えた。

入職後に予測されるメンタル面への影響

 コロナ禍における臨地実習の変容で、入職後のメンタル面への影響も危惧される。学生らは満足に実習に出られず、実際の患者を相手としたコミュニケーション能力や対人スキルを十分に鍛えられなかった状態で、新人看護師として臨床の現場に飛び込むことになる。技術的な実践や経験が不足しているため、以前と比べて業務の習得や職場適応にも時間がかかることが予測される。かねてより看護業界では、基礎教育での学びと実際の現場で求められる能力のギャップに新人看護師が苦しむ、いわゆる「リアリティショック」が問題視されてきたが、片山准教授は「コロナ禍におけるリアリティショックの度合いは、例年のそれよりも増大しているのではないか」と分析する。
 さらに片山准教授は、精神障害や発達障害など精神面に不安を抱える学生の増加も指摘する。「もともと問題として認識されていた親子関係の複雑さやコミュニケーション能力の未熟さ、ストレス耐性の低さなどに加え、コロナ禍のさまざまな状況が重なって、不可抗力として若者のメンタルヘルスを脅かしているのではないか」と状況を捉える。

現状認識を踏まえ、卒後のフォローアップを計画

研修を企画し、県内の新人看護師らへ呼びかける

 以上のような背景から同学は、新人看護師に対して臨地実習の経験不足を補うとともに、彼らのストレス状況を把握し、必要に応じてサポートを行うことが必要であると判断し、メンタルヘルス支援プログラムの開発を兼ねた卒後フォローアップ研修事業の実施に踏み切った。事業を神奈川県へ申請し、一部運営に係る経費が県から補助されるための認可が下りたことを受け、同事業は同県との共同実施という位置付けとなった。組織体制としては川本学科長が事業代表者、片山准教授が統括研究者を務める形をとった。同学精神看護学領域の講師、助教が研究事務局としての役目を担い、全体として同学看護学科の教員33人が携わった。
 研修の実施にあたっては県内の300床未満の病院248施設1)に所属する、2020年度に看護基礎教育を修了した新人看護師が対象とされ、同学の卒業生だけではなく他校で学んだ新人職員も受講できるものとした。300床未満の病院に勤める者を対象に定めたのは、新人看護師への現任教育の開催状況を把握するための調査2)から、施設の規模が300床未満になると研修プログラムの実施率が芳しくない、ということが明らかになっているからだ。
 周知にあたっては、各施設の看護部長宛にフライヤーのPDFデータを添付したメールを送るなどダイレクトなアプローチを行った。反応は良好だった。看護部長らも研修に強いニードを感じたのか、同学の関連病院でない施設からも問い合わせがあった。なかには2021年度の新人看護師全員を研修に参加させた施設もあったのだという。

専用サイトを活用した研修運営

 今回の研修にあたっては、専用に作成したポータルサイト(研修についての情報や各種フォームなどがまとめられたWebサイト)から受講希望者の応募を受け付けた。この専用ポータルサイトは同学の研修事業において要となる。受講者にとっては申し込みや登録内容の確認・管理、開催側にとっては申し込みの受け付けや受講者向けのお知らせの発信など、と双方の利便性向上はもちろんだが、Webアンケートを行い受講者に回答してもらうことで、彼らが現在置かれている状況を詳細に把握することができるためだ。
 Webアンケートへの回答は研修受講者の必須事項とし、申し込みの一環として答えてもらえるよう設定した。卒業校や現在の所属施設についての詳細、実習の形式や臨地実習の不足によって感じる不安などの情報を収集した。
 このアンケートによってメンタルヘルス状況悪化のハイリスク群と判断された受講者に対しては、研修事業とは別に片山准教授が個別のカウンセリングをとおしたメンタルサポートを行った。継続的に2次、3次調査も行ってデータを取ったり、都度連絡したりと、一時的なサポートで終わらないよう心がけた。なお、これらのサポートはハイリスク群の受講者以外であっても、希望すれば受けられるよう、ポータルサイトにユーザー登録することで作成される受講者用の「マイページ」機能上にも「ご相談窓口」を設置し、不安なことなどがあれば随時相談できるようにした。細やかな配慮を意識し、不安を抱えて勤務する新人看護師らを支援する体制を整えた。

臨地実習の補完とメンタルヘルス支援

 研修そのものに関しては、「体験型研修」と「メンタルヘルスセミナー」から構成されるプログラムを作成した(図1)。いずれの研修も複数日程の中から都合のよい日を選べるようになっており、またそれぞれ別日に受講してもらった。これにより多忙な看護師であってもスケジュール調整が行いやすくなり、また臨床現場で行う「体験型研修」においては、1日に多くの参加者が集まることで発生する“密”を回避できた。

図1 研修の全体像
実践して学ぶ「体験型研修」

 「体験型研修」は同学のグループ病院で2日間かけて実施するもので、病棟での実技研修がスケジュールの多くを占める(図2)。すでに臨床の現場に出ている新人看護師を対象とするため、講義のようなレクチャー形式のプログラムは少なく、ジョブトレーニングのように実践しながら学ぶ実用的な内容を用意した。参加者らを複数のグループに分け、研修日程中は1日ごとにどんな体験をしたか、どんな学びをしたか整理してグループ別に発表してもらうことで、確かな振り返りを図った。 

図2 体験型研修のスケジュール

 受講者の配置は、受け入れ部署や受講者の希望を聞きながら計画した。Webアンケートの内容を踏まえて受講者の不安が解消できるような配置を考えたり、ICUや救急外来など、受講者の日常業務ではなかなか体験できない部署へとあえて配置したりすることで、受講者らの満足度を高めた。救急外来であれば救急車の受け入れ見学、搬送先への移動時の見学など、部署ごとに特色ある研修を企画したことも、受講者の満足度向上につながった。
 また日頃から学部実習生を受け入れている病院の場合、学部実習生と受講者が入り乱れることで混乱も想定される。ICUや救急外来など、学部の実習では訪れることのない部署であえて研修を行うことは、こうした混乱の解消にもうまく機能していたという。

オンラインでの「メンタルヘルスセミナー」

 「メンタルヘルスセミナー」ではオンラインビデオ会議ツール(Zoom)を利用し、オンラインで聴講する参加者へ向けて片山准教授が講義を行った。「自分の短所を捉え直してそこから長所を見つけ出し、看護実践に活かす」「自分を落ち着かせる」など、臨床の現場で働くうえでの心のもち方、困難への対処方法といった実用的なレクチャーを展開し、受講した新人看護師らが不安に対応できるようなヒントを提供した。先述した個別支援と併せて、新人看護師に特化したメンタルサポートを試みている。
 片山准教授は“若者のメンタルヘルスと早期介入”を継続的な研究テーマとしており、自分の専門性を生かしたい、との意欲をもって今回の事業に臨んだ。落ち込みは悪化すると適応障害などの精神疾患にもつながり、回復するには長い時間がかかる。精神看護学の知見からもなるべく予防的にかかわったほうがよいと言われていることから、「新人看護師らに早期からかかわり、彼らが精神状態を良好に保てるようなサポートができれば、看護人材不足の予防にもつながる」と考え、メンタルヘルスセミナーを企画したのである。

研修の実施にあたって直面した課題とその対応

 川本学科長と片山准教授は、研修を実施するにあたって苦慮した点として3つのポイントを挙げた。それぞれのポイントについて同学はどのように対応したのだろうか。

行政からの費用負担範囲に制限がある

 一つは、「運営費を負担してもらえるのは、あくまで対象経費として認められているもののみである」という点だ。厚生労働省の「新型コロナウイルスの影響に係る看護職員卒後フォローアップ研修事業」では、経費負担の対象となる事業について以下のとおり定めている。

「新型コロナウイルス感染症への対応により、基礎教育において経験が不足していると考えられる臨地実習での学びを補うことを目的とし、就業先の新人看護職員研修では補えない領域や分野の臨床現場での体験学習を主とする研修」

  本研修事業の場合、厚生労働省が定める規定を満たし資金補助を受けられる研修として認定されたのは、図1のうち青枠で囲まれた「臨床現場における体験型研修」にとどまった。
 そのため、青枠の外にある「メンタルヘルスセミナー」や専用ポータルサイトを活用した継続的支援については補助の認定外とされ、別の方法で資金を調達することが求められた。神奈川県が策定する「地域医療介護総合確保基金」への補助金交付申請も考えたが、COVID-19に関する対策で自治体も財政状況は芳しくなく、最終的には不足経費を同学の資金で賄う決断をしたという。

看護教員が研修現場に行かなければならない

 さらに、厚生労働省は経費補助申請を受理する研修の要件として「看護師養成所の教員が臨地に出向き、指導を行うこと」などを挙げていることに苦慮したという。2021年度は、COVID-19感染拡大の再燃で同学の計画が遅れ、体験型研修の時期が学部生の臨地実習と重なり、限られた教員数で研修と実習を並行して両立させなければならなかったからだ。
 そこで同学では、研修先の病院としてすでに実習生を受け入れている施設を選び、実習指導に入っている教員が新人看護師の体験型研修にも携われるように工夫した。もちろん、研修に携わる時間帯は実習指導と重ならないようにずらすなど、なるべく関係者に負担がかかりすぎないよう、教員の配置や研修のかかわり方には最大限配慮した。
 手探り状態の初めての試みであったが、教員からはポジティブな声が聞かれた。普段の臨地実習とは異なり、受講者らと一定の距離をとりながらオブザーバーのような形で客観的に彼らを見守ることで、“経験の浅い新人看護師”の姿から臨床の場面を俯瞰することができ、今後の実習指導に役立てられると感じたのだという。学生の指導をしながら研修にもかかわるというと、多忙をきわめる教員にとっては重荷のようにも思われるが、むしろ学生の指導につながる気付きを得られたのである。

COVID-19感染拡大状況に右往左往させられた

 研修実施期間初期の2021年7月末から9月上旬は、COVID-19感染拡大の第5波を受けて神奈川県内に緊急事態宣言が発令されていた時期でもあった。オンライン開催とした「メンタルヘルスセミナー」は予定どおりに開催できたものの、病院に受講者を集めて実施する「体験型研修」は、やはり大きな影響を受けた。本来であれば8~9月中にすべての受講者が研修を終えられる日程を組んでいたところ、初回の開催を9月30日に延期したように、実際の感染状況を考慮しながら進めていくことが求められた。

現場からの期待以上の反応に手応え

 同学では体験型研修の受講者にアンケート調査を行い、どんな内容が参考になったか、臨床に役立てられるかを聞き取った。受講者が体験型研修で補えたと感じた主な内容として「治療・処置」「自部署では経験できない看護」「基本的な看護(を改めて学ぶことができた)」「チーム医療・看護管理」が挙がった。また体験型研修で得られた主な学びとしては、「他施設・他部署の特徴的な業務や看護」「経験・見学できた治療・処置・看護ケア」「アセスメント能力」「患者、多職種とのコミュニケーション能力」が挙がっている。
 本来であれば、臨地実習で「看護職者が行う実践の中に身を置き、看護職者の立場でケアを行う3)」ことによって定着を図る実践能力に関して、コロナ禍の制限下で不安視された点を補える内容になっていたことがわかる。
 受講者らの所属施設の看護管理者からも、「当初は例年に比べて不安が大きいという印象だった新人看護師たちが、研修を通じてすごくいい学びをして、生き生きとして帰ってきた」と感謝の声が届いたそうだ。

基礎教育現場にも求められる、卒後のサポート

 今回、事業に踏み切った背景にはコロナ禍の影響があるものの、ここ最近の学生や新人看護師を取り巻く生活・環境について川本学科長は、「生活様式が変わり、人間関係が希薄になったことで、社会生活の変化やこれまで抱えていた問題が浮き彫りになっている」と考える。これが社会人・職業人としての歩みにも少なからず影を落としているのではないか、と。
 かつて新人看護師の早期離職が問題となり、保健師助産師看護師法および看護師等の人材確保の促進に関する法律の改正によって、2010年4月から各医療施設における新人看護職員研修が努力義務化された経緯がある。川本学科長は「多くの新人看護師が辞めていったあの頃をもう一度思い出し、同じことを繰り返さないよう今こそ新人看護師たちに手を差し伸べないといけない」と警鐘を鳴らす。少子化の現代に看護職を志す貴重な人財が、ひとりでも多く現場に適応できるよう、看護師養成所としてもフォローが求められるのではないか、という考えだ。
 「卒業させたから終わり、ではなく、私たち看護教員には卒業後に学生たちがどう社会に入っていくか見届ける義務もある。看護のプロとしての意識をもち、良好な社会人生活のスタートを切ってもらうためにも、卒後の学生のフォローを今後も続けていかなければならないと実感している。」

引用文献
1)厚生労働省:令和元年医療施設(動態)調査,都道府県編 第8表,https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450021&tstat=000001030908,アクセス日:2022年3月10日
2)日本看護協会 政策企画部編:2005年 病院における看護職員需給状況調査(日本看護協会調査研究報告〈No.76〉),p.15-16, 74,2006,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/research/76.pdf,アクセス日:2022年3月10日
3)看護学教育の在り方に関する検討会:大学における看護実践能力の育成の充実に向けて,p.20,2002
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