人間はいつまでも成長できると信じています。これからも、さまざまな挑戦や困難に直面し、それを乗り越えながら成長を続けていきたい、そういう思いから教員の道に足を踏み入れたのが3年前。臨床とは異なる立場、仕事のスタイルに適応するには自分だけの力ではどうにもなりませんでした。教員という仕事に向き合うリアルな姿を通して自分自身の成長と変化を振り返りながら、過去の自分に手紙を書こうと思います。
教員の道を選択することを決めた私を心から応援します
あなたは、専門看護師(以下、CNS)として2011年から10年間活動してきました。とくに補助人工心臓の管理やケアには力を注ぎました。感性豊かで優秀かつ患者思いのスタッフとともに試行錯誤しながら、より良いケアを目指してケアシステムを作り上げました。時には、施設外の看護師や医師、メディカルスタッフと協働して補助人工心臓のケアや心移植ドナーを広める活動もしました。
患者や家族も含めたOne Teamでいろいろな目標を立て、挑戦できることに喜びを感じていました。常々、自分は人との出会いに恵まれていると感じていました。今でも、そんなチームの中で看護師をしている自分が誇らしく、好きだったんだなと、当時を振り返るたびに思います。日々刺激的で、社会人として医療人として成長を実感できました。
一方でCNSとして10年を節目にもっと刺激がほしい、人として成長したいという欲が出てきました。当時2歳と3歳になる娘たちが成長していく姿をみて、父として自分も努力し成長する姿を見せたい! と強く思ったことも教員への道を考えたきっかけでしたね。
でも臨床での積み重ねを捨てきれず、教員になるか半年以上悩みましたよね。噂に聞く教員の仕事は、講義・実習指導・委員会・学生対応など多忙で決して甘い道ではない、臨床とは違って机に向かう仕事が多い、対象は複雑な状況下にある患者ではなく未来を担う学生に変わる…。教員の道に足を踏み入れる決断にはいろいろな思いやジレンマがありました。…教員となって3年、今はあの時の決断をほめたいと思います。一歩踏み出す自分にエールを送ります! 教員の道を選択することで、臨床とは違った成長ができるはずです。もちろん日々、葛藤の連続です。噂に聞いていた教員の仕事…すべて現実でした。未知の世界に飛び込むこと、若い学生から刺激を受けること、それらすべてが自分の望んだ成長への糧になるはずです。
教員になって3ヵ月。自分の強みを失い小さくなっている私へ
教員という職業は、想像以上に事務仕事が多かった…。教員3ヵ月目のあなたはその仕事に疲弊していましたね。自分の想像では、もっと学生と話す時間がもてたり、研究についてじっくりと考える時間が与えられていると思っていました。また、自分が今まで培ってきた能力を発揮して、臨床で困っている患者のことにも少しは時間が使えるはずだと理想ももっていました。でも現実はそんなに甘くありませんでした。気が付いたら、朝から晩までパソコンに向かっている日々…。コロナ禍ということもあり、慣れないWEB会議にも悩まされました。夕方には眉間にしわが寄り、肩が凝り、目も曇る…。
自分が決めた道であるため誰にも相談できず、毎日吐き気との闘い、そんな4月、5月、6月でした。会議や委員会も多く、学部や大学院のスケジュールを把握するだけでいっぱいいっぱいで、今、どの学年の実習の話し合い? これは何を話し合う会議? 自分はこの会議や委員会に参加したほうがいいの?と混乱していましたね。自分らしさを失い小さくなって過ごす3ヵ月でした。
新たな気づきと周りのサポート
でもそんな経験も臨床にいたままではできませんでした。看護師を育てるには、これだけの準備と労力、気遣いがいることを知りました。今の自分があるのは、自分のために心を傾けてくれた人がいたからだと改めて知ることができました。また、慣れない3ヵ月の中で救われたのは、周りの先生たちのサポートでした。慣れない仕事とだと理解してくれ、いろいろな先生が丁寧に仕事を教えてくれました。とくに同領域の助教3人の先生たちには本当に心から救われました。何かと部屋をのぞいてくれて、たわいもない話から愚痴まで聞いてくれ、よき理解者がいてよかったと実感しました。やっぱり私は、人に恵まれています。
教員になって4ヵ月後、7月からはいよいよ実習が始まりました。事務的な仕事から解放され、臨地実習にワクワクしたのを今でも思い出します。パソコンに向き合うより学生に向き合うことで少しずつストレスが軽減されていきました。今まで実習を受け入れていた側から、教員として実習指導をする側になりましたが、立場が変わっても看護を伝えることは同じでした。コロナ禍で実習に飢えている学生は、スポンジのようにいろいろなことを吸収してくれました。学生が笑顔で実習していること、最終日に彼らからもらった「実習が楽しかったです」の一言が励みになりました。このように学生からの刺激や癒しで自分が保てるようになりました。何より、学生と一緒に自分も日々成長していることを実感できました。臨床の生きた教育(日々変化があり動きがある体験学習)の場では、自分らしさを発揮することができました。学生との対話を通して、相互作用で「共育」されていることに気が付くことができました。
やっぱり、人を育てることは面白い
リアルな教育現場では目に見えること以上に裏方の仕事が多いです。表に立って臨床実践をやってきた経験とのギャップが大きく、なかなか適応することが難しいのは事実です。しかし、裏があるから表があるということを体感できたことは大きな財産です。また、臨床という狭い世界にいると経験できない刺激もあります。何より、若い学生との出会いは一番の刺激です。やっぱり人を育てることは面白い。実習を通して、いろいろな学生の感性に触れることができます。そして、長年培ってきた看護や患者の看方を伝承・伝授することもできます。3年前の自分に言いたいのは、教育の現場にも居場所はあるよ、ということ。変化を前向きに楽しもう! フレーフレー!!
2人の子どもは6歳と5歳になりました。私の後ろを小走りでついてきた頃が懐かしい。今や、私を無視して公園を走り回っています。私ももっとのびのび、この場所で成長を続けたいと思います。