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第7回『十二人の怒れる男』

第7回『十二人の怒れる男』

2023.12.20NurSHARE編集部

 本コラムは、みなさまの休日のおともにおすすめしたい映画作品をご紹介するミニ連載。笑って、泣けて、考えさせられて……医療に通ずるテーマや描写を含む作品を中心に、往年の名作から最新作まで、NurSHARE編集部の映画好き部員がお届けします。
※本文中で作品の重要な部分に触れている場合があります。

『十二人の怒れる男』(シドニー・ルメット監督/ヘンリー・フォンダ主演,アメリカ,1957)

[映画.com:十二人の怒れる男.作品情報,〔https://eiga.com/movie/15997/〕(最終確認:2023年12月18日)より引用]

作品のあらすじ

 舞台は陪審員制度を有するアメリカ。ある事件の裁判で陪審員に選ばれた12人の男たちは、長い法廷での傍聴を終えて審議に入ります。スラム街に住む容疑者の少年は、自宅で父親をナイフで刺し殺したとされており、有罪判決を受けた場合は第一級殺人罪(計画性のある殺人)で死刑が確定することになっていました。
 まずはそれぞれ有罪・無罪のどちらと考えているか意見聴取を行うと、11人の陪審員が有罪に手を挙げましたが、陪審員8番だけは「被告人は無罪だ」と主張します。有罪か無罪かの評決は陪審員全員の意見が一致していなければならないため、早々に審議を終えたい8番以外の陪審員たちはなんとか彼を説得しようと順番に意見を述べていきます。しかし8番は彼らの意見に流されません。それどころか、ほかの陪審員たちの意見に対し理路整然とした反証を始めて……

他人と意見を交わし合う難しさ

 陪審員8番は、有罪の主張に異を唱え積極的に議論を進めようとしたことで、当初は孤立します。それでも検察の証拠や証人の証言に疑問を抱き、「自分たちの結論に1人の人間の命が懸かっているのに、有罪か無罪かを簡単に決めていいのか」との思いから、もっとていねいに話し合おうと主張しました。
 一方、他の陪審員は面倒がってさっさと解決したい者、意見を筋道立てて考えられない者、発言を躊躇して考える時間をもらおうとしたり、自分と意見が対立した相手に腹を立てる者と、審議に臨む姿勢はいろいろで、議論はすんなりとは進行しません。さまざまな人たちに自分の考えを伝えるのは、大の大人であっても難しいのだと思い知らされます。しかし結果的に、8番の論理的な主張を聞いて納得したことで、他の陪審員たちは「容疑者は無罪かもしれない」と考えはじめます。

自分の中の偏見に気付くということ

 この議論には、個人がこれまでの人生の中で培ってきた生活背景や偏見を含む考え方が強く反映されています。たとえば10番の陪審員は「少年はスラム街出身だから嘘をついているに違いない」という意見を述べます。彼は「証人の女性もスラム街出身なのに、なぜ証人だけを信じるのか」と8番に言い返されるのですが、偏見はなかなかに根強く、10番はその後も容疑者の人格を攻撃します。しかし、論理的な話し合いの重要性を理解した他の陪審員たちは、もはや彼を相手にしません。他者に取り合ってもらえないことで、10番自身もやがて自分の愚かな考え方に気付きました。陪審員3番は、議論の終盤まで「こんなやつは有罪でいい」とまくし立てます。のちに3番は自分の息子との折り合いが悪く、息子と容疑者の青年を重ねて感情的になっていたと分かります。彼もまた、最終的には自分の考えを改めます。10番や3番が無罪の意見に同意することは、すなわち自分の心と向き合い、自分の中にある固定観念や感情を認めたことを表しているように思えます。

 議論や相手を理解することが必要な場において、偏見は人間の目を曇らせ、時に取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいかねません。そうであっても、話し合いに先入観や感情を持ち込まないよう努めるのも、そもそも自分に偏見があることに気付くのも、とても難しいものなのだと気づかされました。だからこそ、目の前の議題を真摯に受けとめ議論を尽くそうとする姿勢が大事なのだと思います。
 なお、容疑者が本当に罪を犯しているのか否かは作中で明らかになりません。有罪であった可能性も十分にあるのです。にもかかわらず、無罪を主張して他の陪審員を説得しようとする8番の姿に、鑑賞中はついつい正義のヒーローを重ねてしまいました。これもまたひとつの“偏見のまなざし”なのかもしれませんね。

NurSHARE編集部

とあるNurSHARE編集部員。看護学生向けテキストの編集業務もしています。業務に奮闘する毎日、自らの不出来さに枕を涙で濡らす夜もあるけれど、映画鑑賞とJリーグ観戦で即復活して明日へのエネルギーを充電できるお手軽(?)仕様。人生のベストワン作品は『レイジング・ブル』(マーティン・スコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ主演、アメリカ、1980)。

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