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第5回:新カリキュラム策定までのプロセスと新カリキュラムのポイント

第5回:新カリキュラム策定までのプロセスと新カリキュラムのポイント

2022.01.26三国 久美(北海道医療大学看護福祉学部看護学科 教授)

指定規則の改正を受けた新カリキュラムが2022年4月にスタートを迎える。各看護系大学においては、どのような看護人材の育成が必要とされているのか、自学の特色は何かを考え、悩まれたことと思う。そこで本企画では、各校がどのような意図で、どのようにカリキュラムを編成したのか、執筆の先生の専門領域の特性も交えながらご紹介いただいた。既に新カリキュラムは実施を待つ段階であると思うが、今後の実践・評価・改善に本企画が参考になれば幸いである。

企画:野崎 真奈美(順天堂大学)

はじめに

 看護教育を行う上で重要な提言として、2017年9月に「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」1)、同年10月に「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」2)、2018年6月に「看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーと卒業時到達目標」3)が示された。これらとほぼ同時期の2018年4月には看護基礎教育検討会が組成され、2019年10月に「看護基礎教育検討会報告書」4)が公表された。この報告書を受けて2020年に指定規則が改正され、2022年度から新たなカリキュラム(以下、新カリキュラム)が開始されることとなった。時代の変遷とともに、看護職に対するニーズも変化することから、2010年のカリキュラム改正から約10年経て、このような看護教育をめぐる様々な動きがあったことは、必然といえる。

 看護基礎教育検討会報告書を受け、大学における看護系人材養成のあり方検討会から、2019年12月に「第一次報告」5)、2020年3月に「第二次報告」6)が出された。第一次報告では、新しい指定規則を看護系大学に適用するにあたり、各大学がどのように対応すべきか示された。「ディプロマ・ポリシー」「カリキュラム・ポリシー」「アドミッション・ポリシー」の3つのポリシーに基づき、体系的で組織的な教育を自主的・自律的に展開すること、卒業時に習得できている能力だけに着目するのではなく、卒業後、学生が自ら、学習した知識・技術を統合していく力を獲得できるように教授することなど、カリキュラムを検討するうえで参考になる内容が書かれていた。

 筆者の所属大学では、2019年11月に学部長、学科長、教務副部長に加え、各実習領域の代表者を含めた新カリキュラム検討委員会(以下、新カリ検討委員会)を組成し、新カリキュラムを検討するために、月1回定期的に委員会を開催した。本稿では、新カリキュラムを策定するまでのプロセスと新カリキュラムのポイントについて述べる。

新カリキュラムを策定するまでのプロセス

1)改正指定規則のポイントの共有

 第1回の新カリ検討委員会では、まず看護基礎教育検討会報告書4)に沿って、改正指定規則と現行指定規則との違いや、改正指定規則のポイント、改正指定規則で提示された基本的考え方のうち本学の現行カリキュラムで取り入れている内容を共有した。例えば改正指定規則のねらいであるコミュニケーション能力の向上については、精神看護学や老年看護学の科目で当事者が講義に参加し、学生が当事者と会話する演習を取り入れ、日常的に接点の少ない対象者とコミュニケーションを図る機会を意図的に設けており、多職種連携については、他学部と合同で行う全学教育科目の中に多職種連携関連科目が含まれていることで既に対応していた。

 また、現行では統合分野に位置づけられていた在宅看護論が、改正指定規則では地域・在宅看護論として単位数が増え、地域における様々な場での看護の基礎を学ぶという位置づけに変更されたが、本学では保健師養成が選択制となった後にも、地域看護学は全学生が学ぶ必要があると考え、地域看護学関連科目の一部を必修に位置づけ低学年に配当しており、現行カリキュラムですでに反映されている内容であった。

 臨地実習のうち6単位が学校の裁量で自由に設定できるようになったこと、病院のみならず多様な場での実習が推奨されていることについては、新たに取り入れられる検討のポイントとなった。

2)本学の特色を踏まえた新カリキュラムの検討

 新カリ検討委員会では、本学の建学の理念、教育理念、ディプロマ・ポリシー(以下、DP)をもとに、DPに到達するために学生が身につけてほしい力を具体的に話し合った。委員からは学生が身に着けてほしい力に関する多くの内容が出された。
 「対象者のからだだけでなくLife(生活・生命・人生)全体をみることができる」、「問題だけでなく強みを見出し看護する」、「言われたことに応じるだけでなく、自分で考え、自分で看護を創る」、「病院内だけでなく、人々が暮らしているどの場にも看護が必要だという視点をもつ」、「シームレスなケアを提供できる」「チームワーク、リーダーシップ、メンバーシップの在り方を考えられる」「多職種や地域住民と連携して活動する意義や重要性がわかる」、「社会の変化に柔軟に対応できる」などの内容を委員間で共有する作業を通して、本学のDPを踏まえ、科目の編成を考えるうえでの目指す方向を共通認識することができた。

 また、DPの達成のために、指定規則で示された教育内容にこだわらず、「キャリア開発論」、「セーフティマネジメント論」、「多文化看護論」など、領域横断的な科目を充実させる必要性についても意見交換し、新カリキュラムに反映させることとした。

3)学科全体での新カリキュラムの方向性や進捗状況の共有

 学科の全教員の理解を得ることが重要だと考え、新カリ検討委員会で話し合った内容を随時、学科会議で共有した。また、新カリ検討委員会には、全領域から代表者が委員として参加しているため、話し合われた内容について、各領域に持ち帰って進捗状況を報告するとともに必要に応じて意見を集約し、次回の開催時に共有した。

新カリキュラムのポイント

1)新カリキュラムの全体像

 新カリ検討委員会で共有した新カリキュラムの全体像を図1に示した。

図1 北海道医療大学における新カリキュラムの全体像
出典:北海道医療大学看護福祉学部看護学科新カリ検討委員会・会議資料

 すべての土台に「基礎分野」と「専門基礎分野」があり、「専門分野」のなかでも基礎看護学と地域・在宅看護論は全ての基盤に位置づく。従来の領域として母性、小児、成人、老年、精神看護学の柱があり、これらを取り巻く形で領域横断的な科目が位置づいている。本学では、この図を踏まえて新カリキュラムの編成を行った。

2)既存カリキュラムからの変更点

 本学における主な変更内容を述べる。暮らしの場を問わず、あらゆる健康状態の人々に対する看護を修得するという観点に立ち、実習科目には従来の指定規則の教育内容に沿った名称ではなく、修得すべき内容を示すこととした。具体例として、既存科目の基礎看護学実習を「看護実践基盤実習」、成人看護学実習を「健康回復支援実習」、小児看護学実習を「健康生活支援実習(こどもと家族)」などとし、統合実習を「人々の暮らしを理解する実習(1年次)」「人々の暮らしを支援する実習(4年次)」とした。

 また、少子化の進行に伴い、筆者の専門領域である小児看護学では、実習先の確保が課題となっている。小児看護の対象者はあらゆる健康レベルの子どもとその家族であることを踏まえ、実習についての検討も行っている。その際、小児科病棟や外来に限らず、訪問看護ステーションや障害児の通所施設などを実習先に含め、様々な子どもたちが生活する場での実習を考えていく必要があることを確認している。さらに、子どもと接する経験の少ない学生が増えていることから、小児看護学関連科目では子どもを理解してもらうために動画の視聴や子どもの観察を取り入れており、今後も継続する予定である。

 本学のDPの1つとして、「社会環境の変化や保健・医療・福祉の新たなニーズに対応できるよう自己研鑽し、自らの専門領域において自律的・創造的に実践できる能力を身につけている」ことをあげている。この達成には、学士としての研究的態度を身につける必要がある。そのため、4年次に配当していた「卒業研究」の単位数を増やすとともに、開講時期を3年次に前倒しし、臨地実習を通して臨床で起きている現象や看護実践を研究的視点でとらえ、研究力を養うことをねらいとした。さらに、前述したような「キャリア開発論」等の領域横断科目を新たに設定した。
 なお、本学では、臨地実習前に臨床の場により近い状況で臨床判断を養うために模擬患者やOSCEを活用した既存の科目がある。これを新たに「看護実践統合演習」と名称変更し、新カリキュラムにおいても設定した。

 教学マネジメント指針7)では、学修者本位の教育の実現に向け、学生自身が学修の成果を自覚し、説明できること、学修成果の可視化を目指すことが示された。そのためにはまず、教員が学生に身につけてほしい力を明確に意識する必要がある。1年以上に及ぶ教員間での新カリキュラムの検討のための意見交換は、その機会となったと考えている。

新カリキュラムの実施に向けた課題

 本学では、新カリキュラムの開始に伴い、保健師教育を大学院に移行することとした。これは看護師および保健師教育課程の単位数の増加を受け、4年間の学部教育に保健師教育課程を含めることの限界やデメリットを踏まえた措置となる。新カリキュラムによる学習成果に加え、4年間で看護師教育に集中できるようになったことの評価は、今後の課題である。

引用文献
1)文部科学省:看護学教育モデル・コア・カリキュラム~「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標~、https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/078/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2017/10/31/1397885_1.pdf、アクセス日:2021年12月1日
2)一般社団法人日本看護系大学協議会:看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーと卒業時到達目標、https://doi.org/10.32283/rep.5618b431、アクセス日:2021年12月1日
3)日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会:大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 看護学分野、https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h170929-9.pdf、アクセス日:2021年12月1日
4)厚生労働省:看護基礎教育検討会報告書、https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/000557411.pdf、アクセス日:2021年12月1日
5)文部科学省:大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会第一次報告・大学における看護系人材養成の充実に向けた保健師助産師看護師学校養成所指定規則の適用に関する課題と対応策、https://www.mext.go.jp/content/20200616-mxt_igaku-000003663_1.pdf、アクセス日:2021年12月1日
6)文部科学省:大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会第二次報告・看護学実習ガイドライン、https://www.mext.go.jp/content/20200330-mxt_igaku-000006272_1.pdf、アクセス日:2021年12月1日
7)中央教育審議会大学分科会:教学マネジメント指針、https://www.mext.go.jp/content/20200206-mxt_daigakuc03-000004749_001r.pdf、アクセス日:2021年12月1日

三国 久美

北海道医療大学看護福祉学部看護学科 教授

北海道医療大学看護福祉学研究科博士課程修了(看護学博士)。北海道立保健所勤務の後、北海道医療大学看護福祉学部看護学科に助手として入職。同講師、助教授を経て2007年4月より現職。趣味は多肉植物を育てること。

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