指定規則の改正を受けた新カリキュラムが2022年4月にスタートを迎える。各看護系大学においては、どのような看護人材の育成が必要とされているのか、自学の特色は何かを考え、悩まれたことと思う。そこで本企画では、各校がどのような意図で、どのようにカリキュラムを編成したのか、執筆の先生の専門領域の特性も交えながらご紹介いただいた。既に新カリキュラムは実施を待つ段階であると思うが、今後の実践・評価・改善に本企画が参考になれば幸いである。
企画:野崎 真奈美(順天堂大学)
2020年改正指定規則のねらい
少子高齢化の進行による人口構造の変化は激しく、医療の高度化・複雑化や医療技術の進歩等、変わりゆく社会情勢において、看護サービスに対する期待はますます高まっている。さらに、地域における包括的ケアの推進、ヘルスプロモーションや予防に関する保健活動も重視されている。このような流れの中、看護基礎教育にはこれまで以上に高い実践能力の育成が必要とされていることから、現行のカリキュラムを検討し、社会のニーズに沿った柔軟な思考で見直すことが看護系大学に求められてきた。
加えて、多職種連携(IPW)において看護職者に期待されている役割は大きく、専門職連携教育(IPE)の充実を図ることが求められている。また、高い実践力を修得していくには、臨床判断能力の基礎となる臨床推論力の修得への期待も高く、現行の科目の工夫だけでなく、新規科目の可能性も検討する必要が出ていたうえでの、保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下、指定規則)の改正となっている。
今回の改正指定規則では、総単位数97単位から102単位に充実している。教育内容では、前回の改正で「看護の統合と実践」内容が創設されて10年余り経過した段階であり、看護師養成におけるその位置づけを再考及び再認識する試みがなされた。これは、今般の人口および疾病構造の変化や療養の場の多様化を踏まえて、看護基礎教育の内容と方法について検討されたためである。
これまで、「専門分野」のなかでも画一的に専門分野Ⅰ、専門分野Ⅱから統合分野への順で一方向の学びがなされてきた経緯があるが、今改正では「専門分野」に1本化された。これは、教育の実態や社会一般的な考え方からも、従来の思考の枠を外し、教育の実態に合わせた双方向的に往来しながらの学習もあり得ることから、自由裁量の幅を拡げ、創造的な学習形態への可能性を高めることをねらいとしている。
国が推し進める地域包括ケアシステムの構築、すべての療養者が住み慣れた地域で人生の最期までその人らしく、居心地よく暮らせる社会の実現には、地域看護・在宅看護の考え方が非常に重要になることから、統合分野にあった「在宅看護論」は、「地域・在宅看護論」へと名称が変わり、「基礎看護学」の次に位置付けられた。また、対象者および対象者の療養の場の拡大を踏まえ、3年課程では、現行の4単位から2単位増の6単位となった。また臨地実習では、教育効果を高める観点から各教育機関の裁量で領域ごとの実習単位を一定程度自由に設定できるよう、領域ごとの最低単位数が示された。
教育方法としては、知識伝達型の授業形態から、ブレインストーミング、ロールプレイ、PBL(Problem-Based Learning)、シミュレーション教育等、アクティブラーニングへの積極的な転換をはかる必要がある。ディプロマ・ポリシーを見据えながら、カリキュラムポリシーに則り、講義、演習、実習を有機的に関連付け、組み合わせたカリキュラムとなるよう工夫が必要であり、さらに継続的に教育方法とその評価方法を工夫していくことが求められている。
加えてCOVID-19の社会的状況を踏まえ、対面型授業だけでなく、遠隔授業やオンデマンド授業等、ハイブリッド授業型として組み合わせることで、講義内容や講義進行をより効果的に進められる可能性を模索しなければならない。こうした新たな教育方法では、学生個人の学び方の尊重も一定程度可能となり、お互いのニーズに沿った学びのスタイルの確立への可能性を秘めている。
新カリキュラムの編成において看護系大学に求められたこと
看護系大学を取り巻く環境は、『「卒業認定・学位授与の方針」「教育課程編成・実施の方針」「入学者受け入れの方針」の策定及び運用に関するガイドライン』(2016年,中央教育審議会大学分科会大学教育部会)により、個々の大学は、自大学の精神や強み・特色を踏まえ、3つのポリシーを適切に策定し、それらに沿った充実した大学教育を自主的・自律的に展開するとした方針が出された。その後、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(2018年,中央教育審議会)により、各大学が自大学の教育の質を保証するためには自ら示した3つのポリシーに基づく体系的で組織的な大学教育を展開すること、また成果を評価するための質的水準や具体的な実施方法などを定めた方針を策定活用し、自己点検・評価を実施したうえで、教育の改善・充実に繋げるよう示された経緯がある。
さらに、大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(2016年設置)によって、学士課程における看護系人材養成の充実と社会に対する質保証のため、看護系のすべての大学(学士課程)における看護師養成の教育において、共通して取り組むべきコアとなる内容を抽出し、カリキュラム編成の参考となるよう学修目標が列挙された「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(2017年)が策定された。
これらを踏まえて、今般のカリキュラム改編では、今後の社会情勢の変化や国民のニーズに対応できるように、各看護系大学は担うべき役割を明確にし、大学自ら教育課程を編成するという、大学設置基準に示されている前提に立ち、指定規則の適応および運用をしていく方針となった。
教育課程の編成として、卒業時に修得できている能力だけに着目するのではなく、卒業後、自分自身で物事を考え組み立て、学習した知識・技術を統合していく力を獲得できるように教授していくことが重要とされた。また、指定規則は、国家試験受験資格取得に係る必要最低限の基準であり、看護学教育モデル・コア・カリキュラム等の外部基準を参照しながらこれまで以上に効果的かつ効率的な独自の体系化された教育課程を、各大学が自ら編成していくことが必要となる。
新カリキュラムの実施に向けた課題
新カリキュラムの実施に向けた課題は大きく4点あげられる。
1つ目は、臨地実習の質の保証及び充実に向けた検討の継続の必要性である。これは、看護学教育モデル・コア・カリキュラムの項目「臨地実習」にて、臨地実習の学修目標から、さらに教育方法や実習科目の体制づくりまでに踏み込んだ内容への検討が必要といえる。臨地実習施設の一定程度以上の質保証の確保等、課題が考えられる。
2点目は、教育方法の向上に向けた取り組みの必要性である。教員の量的確保だけでなく、学位を有していることに加え、臨床実践力等の教員の教育力の保証の検討が必要である。また、アクティブラーニングの活用の工夫により、同じ単位、時間の中でより多くの学修となるよう、講義や演習、実習の教育方法の検討をしなければならない。さらには、カリキュラムを検討する際、教育方法に関する研究知見を積極的に活用するとともに、自大学における活用効果についても適切な評価を行い、より効果的な教育方法に関する研究を積み重ねていくことが必要である。
3点目は、教育課程・教育方法の評価の仕組みを検討する必要性である。学生が生涯にわたる自己学習力を強化できる教育課程および教育方法となるよう評価し、工夫の継続が必要である。
4点目は、指定規則の在り方を含めた教育の質保証に関する課題である。教育の質保証に関しては、指定規則に替わる教育の質保証の仕組みの必要性が指摘されており、第三者評価によって教育水準を担保するなど、指定規則の趣旨を上回る教育の質を保証する体制が必要である。
以上あげた4点の課題を総合的に俯瞰して捉え、効果的に介入をしていくために、現行の水準よりも一定程度以上高い具体策を掲げ、PDCAサイクルの中に落とし込みながら常に向上を図り続けることが重要といえる。
1)新カリキュラム徹底解説.看護展望 45(4),2020
2)一般社団法人日本看護系大学協議会HP,2020年度文部科学省・厚生労働省からの情報提供,(1)令和2年度保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正と大学における適用の考え方,〔https://www.janpu.or.jp/mext_mhlw_info/〕,アクセス日:2021年12月22日