はじめに
本校は、栃木県壬生町にある獨協医科大学2番目の附属看護専門学校(図1、図2)として、埼玉県三郷市に2015年に開校しました。また、三郷市に隣接する越谷市には、本学の関連施設である獨協医科大学埼玉医療センターがあり、越谷市だけでなく、埼玉県東部地域の基幹病院として地域医療の中核を担っています。本校はこれまでに延べ411人の卒業生を輩出し、彼らは看護師として埼玉医療センターをはじめ近隣の医療施設でも働いています。
開校当初、埼玉県の看護師需給率は全国で最も低く、さらに三郷市と近隣3市(吉川市・八潮市・草加市)には看護師養成施設がなかったために、超高齢社会において地域の医療機関に貢献できる看護師の育成が渇望されていました。そのため、学校運営および教育に際し、三郷市だけではなく近隣の施設および住民の皆様の多大な理解と協力を得ながら今日に至っています。
地域住民と連携した教育実践の紹介
地域住民と連携した授業の概要
本校では、学生の技術向上と対象に合わせたかかわりを学ぶため、開校当初より、模擬患者(Simulated Patient,以下SP)を利用した演習を多く行っています。SPには埼玉県三郷市内の老人会の方々にご協力いただいていましたが、昨年度はそれ以外に近隣団地自治会などへ募集活動を行った結果、40~70代の幅広い年齢層の方々にご協力を得ることができました。また、基礎看護学の技術SPとしてだけではなく、昨年度より地域ボランティアとして科目(演習)「サクセスフルエイジングを支える看護」にもご参加いただきました。その結果、昨年は、延べ92人にご協力いただきました。今回は、おもに「サクセスフルエイジングを支える看護」についてご紹介します。
地域住民と連携した授業の計画については、次年度の教育計画作成に組み入れています。年間計画の作成、募集方法、当日の対応については、カリキュラム検討ワーキンググループが担当しています。参加協力していただいている授業科目は、表1の通りです。公募については、ポスターを作成(図3)し、近隣の自治会や団地の掲示板に掲示させていただいています。なお、ボランティアとしてご協力いただく方には、不測の事態に備え、事前にボランティア保険加入の手続きを行っています。
授業科目 | 時期 | ボランティア登用の目的 | 演習内容 |
---|---|---|---|
ボランティア論 | 1年通年 | ボランティア活動への参加を通して、地域貢献への関心や意思を高める | 三郷市社会福祉協議会と協力し、オレンジリボン活動に参画 |
安楽と癒しのケア | 1年後期 | SP(模擬患者) | 手浴・足浴、ハンドマッサージ |
対象把握の技術(看るちからⅠ) | 1年後期 | SP(模擬患者) | バイタルサイン測定 |
子どもの成長発達と養育 | 2年前期 | 乳児期・幼児期の成長・発達を学ぶ | 吉川美南きらり保育園児との交流 |
サクセスフルエイジングを支える看護 | 2年後期 | 老年期の方の対象理解 | 老人クラブの方々にインタビューを行う |
技能試験 | 2年後期 | SP(模擬患者) | 事例患者の観察と援助 |
科目「サクセスフルエイジングを支える看護」の授業の実際
科目の概要
2022年度からのカリキュラム改正時、老年看護学に「サクセスフルエイジングを支える看護」(15時間1単位)を新設しました。「高齢者が加齢・疾病に伴う社会活動の不適応に対する課題を明らかにしより良い人生を送り天寿を全うするための支援を考える」という内容としました。
学習目標は、以下のとおりです。
1.疾病・機能低下のある高齢者の特徴を理解できる。
2.生活行動モデル(ICFモデル)に基づく看護のプロセスが理解できる。
3.対象の課題と願いを明らかにしサクセスフルエイジングのための支援を考える。
学習方法は、プロジェクト学習の手法を取り入れています。本科目では、企画書(図4)を読み、学生がビジョンゴールおよび戦略をたて、2回のインタビューを通して高齢者と直接かかわりながら、個人ワークとグループワークを交互に行い主体的に学んでいきます。
1回目のインタビュー
1回目のインタビュー当日(図5)は、8名の方にご参加いただきました。授業前に、名札やボランティア保険加入証の配付、簡単なオリエンテーションを行いましたが、「サクセスフルエイジング」という聞きなれない言葉に、スマートフォンでインターネット検索をする方もいました。学生6~7人のグループに高齢者1名が入り、グループで話をする授業であると説明しました。教員からは、「サクセスフルエイジングは、参加している皆様そのものです。今日は、皆様がどのように生きてきたのか、これまでの生き方、今、これからについてなど、自由に学生に語ってほしい」とお願いをしました。
いつもはSPとして患者を演じていただいていたので、自分について話すことにとまどう方もいましたが、教室で各グループに迎えられると笑顔になり、集団就職で地方から東京に来たこと、仕事について、結婚・子育て、現在の家族との関係・健康についてなど、さまざまなことを話して下さいました。聞くのに精いっぱいで、なかなかインタビューができない学生達に対して、「後は、何を話せばいいの」など参加者の方がリードしてくださっていました。
2回目のインタビュー
2回目は12名の方にご参加いただきましたが、引き続きの方と新規の方がいましたので、学生には事前に1回目とは違う方にインタビューすることになると伝えました。
学生たちは、1回目の体験をふまえ、時代背景・当時の出来事や、流行した歌などについても調べ、話題についていけるよう準備しました。また、インタビューの内容もグループ内で相談し、ウェルカムボードや名札を作成したり、会場を飾りつけたり、ゲームを用意したグループもありました(図6、7)。1回目よりも、どのグループも会話が弾み、賑やかであっという間に時間が過ぎました。最後は、握手をしたり記念写真を撮ったりし、学生達も感謝の気持ちを表して、それぞれがお見送りをしました。参加された方々も「楽しかった」「これ、学生の〇〇さんが作ってくれたの」と、嬉しそうに花やウェルカムボードを持ち帰っておられました。
学生の学び
インタビュー後、「サクセスフルエイジングを支える看護」とは何かについて、グループでの学びをまとめプレゼンテーションをしました。その後、他のグループの発表での学びをふまえ、プロジェクト学習の「再構築」フェーズに準じて、個人でサクセスフルエイジングを支える看護についての提案書を提出してもらいました。提案書の内容は、食事・運動・健康などの日常生活に関するもの、趣味や生きがいに関するもの、人との交流や社会参加についてなどでした。どれも参加者の方からうかがった話から、学生たちなりに色々と考えられた内容の提案でした。
学生にこの科目を通して「成長できた」と感じた点について報告してもらいましたので、その内容を多い順に示します。まず、高齢者の方とのコミュニケーションの取り方として、傾聴や相槌・ミラーリング、話題・環境づくりについて学べたという点が挙げられました。次に「高齢者の方の理解が深まった」「その人の生き方や、生きてきた背景を理解し、その人の価値観を大切にすることを学んだ」という声がありました。その他、「看護者として、出会う方一人ひとりがその人の望む生活ができるよう支援を考えたい」「高齢者の方の生き方に触れ、自分もどう生きるか考える機会になった」と報告した学生もいました。また、高齢者の方とかかわりさまざまな体験談を聞く中で、尊敬の思いが募ってきた、という学生もいました。1回目は受け身のかかわりでしたが、2回目は学生主体のかかわりになり、その根底には、尊敬や感謝の思いがあったことがうかがわれます。
今回、高齢者の方から学生たちは多くのことを学ばせていただきました。私自身、高齢者の方々の生きてきた力やかかわりを通して学生達の成長する力を実感しました。参加者の方々にとっても、今回の授業への参加が、異世代との交流の場となり、他者に役立つ社会参加の場となっていると考えられます。今後も、臨地実習だけでなく、日々の授業でも地域の方々と関わりながら学ぶことを大切にしていきたいです。
おわりに
前述のように、これまで、地域の方々にSPなどで多くのご協力をいただいてきました。また、昨年度より本校では、「地域共創プロジェクト」も始動しています。このプロジェクトでは、地域の人々と協働しながら持続可能な地域社会を創出すること、また、学生・教職員が自主的に未来型共存社会に向け、地域とともにある学校を目指し活動しています。
今年度、本校は、開校10年目になります。これまでの地域や関連施設の協力に感謝し、次の10年も人と地域と繋がり、未来に輝き続ける学校を目指していきます。