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第4回:インシデントを報告しやすい風土、学びにつなげる文化を醸成する

第4回:インシデントを報告しやすい風土、学びにつなげる文化を醸成する

2022.06.29山中 真弓(独立行政法人国立病院機構岩国医療センター附属岩国看護学校 副学校長)

IBL/ABLとは?

 ある看護教員の方から「インシデントやアクシデントは学生が主体的に考え学ぶきっかけになる」とお聞きする機会があり、そのような学習方法を何か言葉で表現できないかと、Incident-based learning(インシデントを基にした学習)、Accident-based learning(アクシデントを基にした学習)というふたつの造語を考えました。IBL/ABLはその略語です。
 取材を進めると、実際にIBL/ABLにあたる学習・指導をされている先生方がいらっしゃり、今回はその知見をお寄せ頂きました。本企画がインシデントやアクシデントを通した学生の学びや成長につながれば幸いです。(NurSHARE編集部)

 

インシデント報告が少ないことは良くないこと

 筆者は日頃から「インシデントの報告が少ないことは良くないこと」と学生に伝えている。報告が少ないということは、インシデントが起きているのに報告されていない、あるいは、インシデントが起こっていることに気付かず見過ごされている可能性が高いからである。
 インシデントやアクシデントの報告の目的は、個人の責任の追及や懲罰ではなく、原因を分析し、再発の防止につなげることである。そして、発生したインシデント・アクシデントに対し、教員・学生が共にしっかり向き合うことで、結果的に学生の学びにもつながる。

 筆者はこれまで、複数の学校でこうした視点で教育を行ってきたが、いずれの学校でも学生にとってよい効果がもたらされたという実感がある。ここでは、筆者の経験から得たインシデント・アクシデントを学びの機会にするためのヒントについて整理してみたい。

インシデント報告が少ないことの背景

 そもそもいくら注意喚起をしていても、看護学生にとって未知である臨床の現場に足を踏み入れたら、ヒヤッとする出来事が起こるのは当たり前と言えるだろう。通常、臨地実習では、2~3週間ごとに学生が身を置く臨床の現場が変わる。すなわち、学生がそれぞれの病棟の物品等の配置、手順やルールに慣れる頃には、その現場での実習期間は終了してしまうのである。彼らがインシデントやアクシデントを多数経験するであろうことは想像に難くない。
 では、このような状況の中であってもインシデント・アクシデントの報告が少ないということの背景には、どのようなことがあるのか。いくつか考えられることを挙げてみる。

① 報告の目的や意義が学生や教員、実習指導者に共有されていない
② 教員における学生の人権を尊重する態度が希薄である
③ インシデント・アクシデントを隠したいという心理が働く
④ 報告様式が複雑、もしくは報告ルートが不明瞭である

 裏を返せば、上記4点の要素がクリアされれば、インシデントやアクシデントを報告しやすい風土を作り学びの機会とすることができるのではないだろうか。

インシデント報告を促し、学びの機会とするために

報告の目的と意義を伝え続ける

 ①「報告の目的や意義が学生や教員、実習指導者に共有されていない」については、インシデント・アクシデントが「失敗」や「ミス」として扱われ続けてきたという背景が影響していると考えている。
 インシデント・アクシデントが発生すると学生、あるいは教員も悔んだり傷ついたりするかもしれない。しかし報告・検討を通して、当事者となった学生は自分の傾向を知り、同じことを繰り返さないよう対策を考えることができる。教員や実習指導者であれば、ヒヤッとする出来事が発生した事実から「これまでの教え方には何か足りない点や改善を要する点があったのではないか」と考え、教育や指導の内容や方法、教えるにあたっての体制を再検討できる。

 筆者は1年次の医療安全の授業において、上で述べたインシデント・アクシデントを報告することの目的や意義を学生に必ず説明するようにしている。病棟内の物品の配置や医療器具の形状など、当たり前のように思われることも、過去のインシデントやアクシデントがエビデンスとなって蓄積され、改善が繰り返されてきた結果であるということを伝えると、学生は「報告は必要なものである」ときちんと理解してくれるものである。

 インシデント・アクシデントを報告する意義についての適切な説明は、②「教員における学生の人権を尊重する態度が希薄である」や③「インシデント・アクシデントを隠したいという心理が働く」の解消にも通ずる。学校の運営に携わる者としてインシデント・アクシデント発生についてのスタンスや対応策を示し、説明責任を果たすという行いは、そこで学ぶ学生の人権を尊重した教員の態度の現れと言える。
 教員からの説明に納得してくれた学生は、隠したいという心理が働いたとしても、勇気を出して報告してくれるだろう。これは報告の意義を理解し、学生自身が成長できたということに他ならない。

報告様式を明瞭にして取り掛かりやすく

 ④「報告様式が複雑、もしくは報告ルートが不明瞭である」については、インシデント・アクシデント報告時に「何を報告させ、どのような分析をしたいのか」を明確にすることである。それに沿って報告様式のあり方や報告ルートを改良することで、不明瞭さや複雑さを解消できると考えている。

 レポートを用いた報告であれば、自由記述よりも容易に埋められるチェック式の設問を中心とした書式とし、問題点を焦点化しやすくする。当校でもインシデント・アクシデント発生時の報告様式はチェック方式のレポートを採用しており、その内容は学校内でデータベースとして蓄積し、日時、場所、内容、原因を確認できるようにしている。
 状況は簡潔に文章化させることで把握する。何を書くべきか理解できていない学生や文章を書くことに苦手意識がある学生であっても、記載すべき内容が定まっていればレポートに取り掛かりやすくなるだろう。
 これはつまり、報告を受ける側が得るべき情報が定まっていれば、報告様式もより簡便で適切なものにアップデートできるということである。

 レポートでの報告時は、事実を淡々と記述してもらうよう努めている。学生の考えや思いは尊重して向き合うが、レポート上に書かせることはしない。後悔や悲しみはあくまで教員がかかわりの中でフォローしていくべき領域だと認識しているからだ。

指導時の留意点

 報告を受けた際の対応にも留意すべき点は多いと感じている。例えば、インシデント・アクシデント発生時のレポートで、学生がその原因として「知識不足」を挙げてくることがある。しかし、実際には知識不足というより考え方が浅かったり、忘れていたりということも多いし、掘り下げていくとそもそも指導体制に要因が見つかる場合もある。何がどう「知識不足」であったのか、教員が中身を掘り下げていかないと、学生が自分のウィークポイントを掴むのは難しい。
 学生を直接指導する教員には、ここという場面でより適切な声掛けを行えるよう、「こういう発問をしてみたら」「この点を詳しく聞いてみたら」とアドバイスをするようにしている。

 また、学生には段階を踏んで考えさせることも重視している。状況を振り返り分析する、といっても、人が考えを深めるには、時間をかけて経験を積むことが必要だ。いきなり深く考えさせるのは学生にとって大きな負担になるだろう。
 的確に思考を深め、広げてもらうためには、思考の質・思考にかける時間共に「今はここまで」とセーブできる教員の力も大切だと感じている。少しずつ考えさせ、蓄積し、忘れないように教員が導くのである。

インシデント・アクシデントを学びにつなげる指導の実際

 ここからは、筆者が実際にふだんどのように指導を行っているか、またその効果について、臨地実習における実践例を交えながら紹介する。

インシデント・アクシデント発生時の報告から共有までの流れ

 実習においてインシデント・アクシデントが発生した際は、学生はまず、教員と実習指導者に報告し、レポートを書く。レポートは実習科目の担当教員へ提出させる。報告が上がった後、担当教員は朝のミーティングで全教員へ情報共有し、他教員からアドバイスを得て、事例について学生と共に分析する。その後、他の学生への情報共有の可否について意思確認し、実習グループ内でカンファレンスを行い、ホームルームで事例発生について伝える。なお、この一連の流れは実習要綱に明文化することで、あらかじめ学生に伝えている。

学校と臨床とで協力し、認識を統一する

 前述の通り、実習開始前にはインシデント・アクシデント報告の目的と意義をていねいに説明している。そのため学生はホームルームでただ漠然と報告を聞くのではなく、事例を「自分にも起こりうること」として聞きやすい状態ができている。
 一方教員には、事例をもとに指導体制や方法について検討し、学生の反応と臨床側の反応を教員会議で報告してもらい、学校としての教育方針について再検討する。また臨床の実習指導者会議でも毎月インシデント・アクシデント報告内容をデータ化し、警鐘事例を挙げることで、学生の傾向の理解の促進と指導方法の工夫についてお願いする。

 このように学校と臨床とが協力し、組織全体としてインシデント・アクシデントへの取り組みを行うことで、臨床の指導方法の変化を学生が感じとり、自分たちの報告が現場の改善につながると理解してくれるようになり、勇気をもって報告するようになるものである。それを実感したのが、以下の事例である。

 3年生の母性看護学実習にて、切迫早産の妊婦を受け持っている学生が、観察項目として「乳房の状態」を挙げていた。しかし、指導看護師と共に患者の元を訪れ、看護師の観察の様子や患者への説明を聞き、学生が考えていた乳房の状態の観察を行うと、早産傾向を増強させていたかもしれないということに学生自身が気づき、ヒヤッとした。

 学生は乳房の状態の観察を実際に「行った」わけではなく、患者に不利益をもたらしてしまったわけでもない。しかしこの学生は、これを「ヒヤッとした出来事、インシデント」として実習後のカンファレンスで報告したのである。インシデント・アクシデントを、自分に起こりうるものとして理解しているからこその行動である。事例の分析にあたっては、筆者はまず初めに本件を報告したこと自体が素晴らしいことであると学生に伝えた。

 分析を進めると、乳頭への刺激は子宮収縮を促進すること、すなわち切迫早産の妊婦においては危険な状態にさせてしまうことを学生が理解していなかったことがわかった。学生は、自身のメカニズムの理解が浅かったと知り、すぐさまそのメカニズムを学習し直した。さらにこのことを実習グループメンバー、学年全体でも共有した。この学生からは、「観察するには、メカニズムを深く理解しておく必要性があると身に染みてわかった」という言葉を聞くことができた。

 また、実習の担当教員から実習指導者にもこの報告を共有し、学習のためにも、患者の安全のためにも欠かせないことだとして、行動計画を確認する際には学生が挙げた事項に対してその根拠を尋ねてもらうなど確認を重視する認識を高めた。看護師にとって当たり前の知識は学生にとってはそうではない、と改めて感じてもらうためのきっかけともなった。

おわりに

 学校全体としてインシデントやアクシデントをきちんと報告し、教育の改善や学生の学びの機会と捉える風土をつくることで、教員が水を向けたり、強制したりしなくとも、学生自身が自発的にインシデントの報告をしてくれるようになると常々感じている。
 また実感として、ヒヤッとする出来事があった際、学生が自ら疑問をもって調べ、考えること、他の学生と意見を交換することも活発に行われるように思う。これにはやはり、インシデントやアクシデントを報告することの意味を学生が正しくとらえ、組織としての取り組みによって心理的安全性が保障されていると感じられていることが大きいと考える。
 インシデント・アクシデントを報告できる文化を醸成することこそが、学習の機会を拡大するものなのではないだろうか。

山中 真弓

独立行政法人国立病院機構岩国医療センター附属岩国看護学校 副学校長

やまなか・まゆみ/国立療養所再春荘病院附属看護学校卒業。国立病院再春荘病院に勤務後、教員となり、その傍ら熊本学園大学社会福祉学部を卒業。厚生労働省幹部看護教員養成講習会を修了し、国立病院機構附属看護学校の教育主事。その傍ら福岡大学大学院人文科学研究科教育・臨床心理専攻修了(教育学修士)。厚生労働省九州厚生局、活水女子大学看護学部でも勤務。2022年4月より現職。休日の楽しみは娘とのショッピング。

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