この連載では、人間の知的発達とメンタルヘルスの関係について述べてきています。ここ数回は社会性や社会システムの発展を扱いつつ、成人で社会集団に属する人のメンタルヘルスに焦点をあてて、ストレスモデルや社会構造との関係から社会集団における心の健康について述べてきました。
この回では、まず脳の機能を脳内ネットワークの種類から整理して、自分の心の健康状態を知ることの大切さと、脳の健康増進のために有効な活動や考え方について述べたいと思います。
安静時間の必要性
読者の皆さんも、「睡眠中に記憶が定着する」ということは聞いたことがありませんか? 実際に、睡眠中の脳はワーキングメモリ(⇒第12回参照)などに一時保存された記憶を、長期記憶へと変換することがわかってきています。脳の健康やメンタルヘルスにおいて、睡眠は大変重要な意味を持っているのですが、睡眠と同様に重要な時間の使い方として、「安静時間」というものを扱いたいと思います。
皆さんは、起きているのにボーっとしている時間を幸福に感じたことはありませんか? たとえばコーヒーを飲みながら遠くを見てぼんやりしたり、読書をしている時に途中で本から視線を外して読書に関連した思い出や想像に頭を巡らせたり、自転車や徒歩で風を感じるだけの時間をとってみたり、温泉に入ってゆっくりしてみたり。このような時間は「安静時間」とよばれます。また、起きていながらボーっとしている時間に、新しいアイデアが浮かんだり、自分の気持ちが整理されたりすることはありませんか? ここで述べたような脳の活動は、いわゆる計算や順序立てた行動を行う時とは別の活動が起きているのです。