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第16回:記録行動が生まれる過程と社会システム

第16回:記録行動が生まれる過程と社会システム

2022.09.27安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 この連載もだいぶ回数を重ねてきました。第11回から第15回では徐々に成人と社会の人間関係を少しずつ述べていて、第15回では人間の社会的な構造の発展を少し紹介しました。個人の能力としての知的発達の段階から、精神的成熟や社会的発達への変化を扱って、人間の生涯発達を知的側面から扱っていきます。
 さて、今後は職場や家庭等の社会的な場面が扱われていきます。そこで、成人期以降に直面しやすい様々な問題とその背景にある様々なシステムを扱いながら老年期の話へと向かっていきます。今回は、人間の知的発達と成熟を「贈与と記録」という社会的行動から分析します。

 

手渡しと贈与の効果

 この連載の序盤で、人が知的発達を遂げる背景となる行動を2種類紹介しました。1つは、共同注視などによる複数の感覚の同時刺激、もう1つは目があうなどの意図の伝達による手渡しです。この「手渡し」という行為については第1回で紹介しましたが、改めて手渡しの効果を紹介します。
 人は手渡しの前に声や視線で意図を伝えることができるため、視線があうことによって“今から何かが始まるのではないか”と期待をすることができます。期待によっていろいろな準備をしますから、手渡ししようとする相手の動作を見た時に素早く受け取る動作をすることができ、スムーズな手渡しが成立するのです。
 このように、人間社会では「期待」という感情をほかの人間に対して持つことができるようになります。さらに、「期待が叶う」という経験は、他者への安心や信頼、喜びといった感情ももたらすようになります。そのため、愛着を感じている相手(自分の家族など)ではない存在(友人など)に対しても、相手の喜びを予測して一方的に何かを与える「贈与」という行為を行うことができます。友人に対して物を単にプレゼントするだけでなく、プレゼントして仲良くなろうとするような行動は、関係形成を期待しているため贈与とはまた異なります。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

企画連載

人間の知的発達と精神保健

長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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