この連載もだいぶ回数を重ねてきました。第11回から第15回では徐々に成人と社会の人間関係を少しずつ述べていて、第15回では人間の社会的な構造の発展を少し紹介しました。個人の能力としての知的発達の段階から、精神的成熟や社会的発達への変化を扱って、人間の生涯発達を知的側面から扱っていきます。
さて、今後は職場や家庭等の社会的な場面が扱われていきます。そこで、成人期以降に直面しやすい様々な問題とその背景にある様々なシステムを扱いながら老年期の話へと向かっていきます。今回は、人間の知的発達と成熟を「贈与と記録」という社会的行動から分析します。
手渡しと贈与の効果
この連載の序盤で、人が知的発達を遂げる背景となる行動を2種類紹介しました。1つは、共同注視などによる複数の感覚の同時刺激、もう1つは目があうなどの意図の伝達による手渡しです。この「手渡し」という行為については第1回で紹介しましたが、改めて手渡しの効果を紹介します。
人は手渡しの前に声や視線で意図を伝えることができるため、視線があうことによって“今から何かが始まるのではないか”と期待をすることができます。期待によっていろいろな準備をしますから、手渡ししようとする相手の動作を見た時に素早く受け取る動作をすることができ、スムーズな手渡しが成立するのです。
このように、人間社会では「期待」という感情をほかの人間に対して持つことができるようになります。さらに、「期待が叶う」という経験は、他者への安心や信頼、喜びといった感情ももたらすようになります。そのため、愛着を感じている相手(自分の家族など)ではない存在(友人など)に対しても、相手の喜びを予測して一方的に何かを与える「贈与」という行為を行うことができます。友人に対して物を単にプレゼントするだけでなく、プレゼントして仲良くなろうとするような行動は、関係形成を期待しているため贈与とはまた異なります。