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第19回:脳の誤作動と機能低下

第19回:脳の誤作動と機能低下

2022.11.08安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 人の知的発達とメンタルヘルスについて扱ってきたこの連載、徐々に知性と精神性の成熟に視点を移してきました。ここ数回は精神的成熟や社会的発達への変化を扱ってきまして、今回は記憶や行動が思うようにならない状況を扱おうと思います。
 人間の記憶はある程度取捨選択できますが、さまざまな感覚神経から入る情報まで取捨選択して遮断することは難しいです。そのため、壮年期頃から脳の誤作動に伴う苦労も生じるようになります。

 

判断の省略と記憶の活用

 成人期中期以降にある人たちの判断力や知的成熟には、成人期前期までとは少し異なる成熟の工夫があります。というのは、青年期以降の成人が行う判断や思考には、記憶したことをそっくりそのまま再現するというより、定着した記憶を活用することが徐々に多くなっていきます。
 たとえば、カレーライスを作ったことが何度もある人とそうでない人が、クリームシチューを作ることになったとします。カレーライスを作ったことが何度もある人は、おそらくクリームシチューの作り方を少し調べる程度で、カレーライスを作った時の方法(材料の切り方や煮込む時間など)をそのまま応用してクリームシチューを作ることになるでしょう。一方、カレーライスを作ったことがない人は、材料の切り方など含め調理の詳細を一つひとつ調べながら(分析しながら)作っていくことになるでしょう。
 このように、新しい場面に対してじっくり分析して考えるというよりも、過去の経験に照らし合わせて判断を省略しながら物事に対応していくことになるのです。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

企画連載

人間の知的発達と精神保健

長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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