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第10回(最終回):「“成長したい”というケアラーのニーズに応える」(精神チームより)

第10回(最終回):「“成長したい”というケアラーのニーズに応える」(精神チームより)

2023.12.06吉岡 貴美代(神奈川歯科大学短期大学部看護学科 助教)

 皆さんこんにちは。突然ですが、“こころの病を抱えた家族”を支えるダブルケアラーの方は、どのような欲求や希望を持っていると思いますか? 「ケアに追われて辛い」「自分のことがしたい」「自由な時間が欲しい」などと思っている方が多いと想像するのではないでしょうか?

 「こころの病」は目に見えてここが悪いとわかる病気ではないといわれています。その人の価値観や生きてきた過程などその人の人生が病状に影響を与える病であり、同じ病名・症状名でも現れ方はさまざまです。ここを直したら良くなるという具体的な対応方法、決め手となるケアを見いだす事が難しく、日々の生活の中でその時にその人にあったかかわりが求められます。そのため、“こころの病を抱えた人”が家族の中にいるケアラーは、即効薬的な役割をする具体的なケアの見本がない中で、日々奮闘していることでしょう。そこに、もう一つ別のケアをしなければならないダブルケアの状況になると…。ケアラー自身の生活はどうなっているのでしょうか? ですが、私がお話を伺ったケアラーの皆さんからは、思いがけない語りを聞くことになりました。本稿では、そんなエピソードも交えて、DC NETWORK 精神チームの活動を紹介します。

ポジティブな側面を生かした支援

 「DC NETWORK」の活動を始めてみたものの、ケアラーがどのような支援を求めているのかイメージできていなかった当初の私は、「“こころの病を抱えた人”のケアをしていることをケアラーは公表しにくいのではないか」などとケアラーとのかかわりに対して前向きな考えを抱くことができず迷っていました。しかし、とにかく「気持ちを少しでも楽にしてもらおう」ということをポイントとして、体験を語っていただく場としてオンラインカフェ(DC Cafe)を開き、ケアラー当事者の方々に語りあっていただきました。
 その場に来て下さったケアラー当事者の中に、今まさに家族のケアをしてきたばかりという方がいらっしゃって、「日々の生活の中で自分の時間を確保することは皆無です」とお話しくださいました。その他にも「対象者本人(こころの病を抱えた人)の思いを大切にすると治療が上手くいかない」「ケアラーと対象者との間で価値観の違いがあり納得できないままケアをしている」などさまざまな困りごとが語られました。
 その後、こういった困りごとに対して「さて、どうしたものか」とケアラー同士の語らいが始まり、その中で「対象者は病気になったけど、子育てをしてきているから知っていることはたくさんあるし、孫が大好きだから孫の面倒をみてくれている」「受診に行きたがらない時には、好きなことと組み合わせて行動できるようにしたら上手くいくのではないか」などとケアを受ける人のポジティブな側面を捉えて支援へつなげている事が語られていました。

 こころのケアを行う際に対象者のポジティブな側面(ストレングス)を活かすことは、症状の改善やOQLの向上によい影響を与えると言われています。それがケアラーの語りの中で表現されたことに感銘を受けました。そして、彼らに何かを提供しなければと焦っていましたが、ケアラーの力を信じ共に歩むことが大切だと考え改めることができました。「ネガティブな側面に着目するのではなく、ポジティブな側面に働きかける」ことは、ケアラーと私たち支援者の関係においても支援の可能性を広げるキーポイントになると考え、大切にしたいと思っています。

まるでケアラーによる「ケアカンファレンス」

 参加者の皆さんの語りをお聴きしていて、ケアラー当事者の願いが少しだけ観えてきたように感じています。ケアラーは、自分の生活とダブルケアを四苦八苦しながら調整して日々を過ごしています。自分の事は二の次三の次にして、色々な工夫を凝らしながら必要なケアを実践しています。ダブルケアを優先することが多く、自分のやりたいことや自分の考えを我慢していて大きなストレスを抱えていると予測できます。ですから、DC Cafeでは「あれもやりたい」「これもしたい」「自由が欲しい」などケアラー自身の欲求や希望が語られると思っていました。 

 ところが、実際は違っていました。「どうやったら上手くケアが行えるか知りたい」「○○という対応をしたがこれでよかったか教えてほしい」「ケアの事で何か困り事があった時はどこに相談すればよいのか知りたい」「ケアしていて困った時にすぐに頼れる場所がほしい」など、自分たちが行っているケアの事ばかりでした。語りの場がまるで、看護の臨床現場で行われている看護計画のプランを検討するカンファレンスのようで、参加して下さったケアラーの皆さんは自分の実践しているケアに意味を見出し、「ケアの質を高めたい」「ケアラーとして成長したい」と望んでいらっしゃるのではないかと感じました。

目指せ!精神領域ダブルケアのインフルエンサー

 社会福祉法の改正により、現代の人々が直面する困難や生きづらさへの支援ニーズについて、現状の福祉制度や政策では支援のしづらさが生じていたことを背景として、この状況を改善して生きづらさを抱える人の生活を支援するための重層的支援体制整備事業が創設されました1)。その中でダブルケアについても取り上げられ、国として支援する体制が整い始めました。しかし、精神の領域については、まだまだ霧の中を手探りで進んでいる状態ではないかと感じています。日々の生活の中で必要な支援がたくさんあると思っています。DC NETWORKのメンバーとして現状を把握し情報発信を続け、ケアラーの皆さんが手軽に活用できる具体性のある資源を増やすなど、少しでもケアラー当事者の皆さんの願いが叶う活動を続けていきたいと思います。

引用文献
1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング:重層的支援体制整備事業に関わることになった人に向けたガイドブック,p.2-3,2021年3月,〔https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2022/11/houkatsu_09_1-1.pdf〕

吉岡 貴美代

神奈川歯科大学短期大学部看護学科 助教

よしおか・きみよ/看護専門学校卒業後、県立大宰府精神医療センタ―にてキャリアをスタートさせ、その後、武蔵野大学人間科学部心理学研究科卒業(心理学学士)。臨床にて臨地実習指導者や外部講師として看護専門学校での講義の経験をへて、看護教員養成課程受講し修了。その後7年間、看護専門学校にて精神看護学担当勤務。2022年4月より神奈川歯科大学看護学部に助教として着任。順天堂大学大学院スポーツ健康学科組織経営学研究科修士課程修了(スポーツ健康科学修士)。現在、国際医療福祉大学大学院博士課程医療福祉研究科看護管理・政策分野にて修学中。青年海外協力隊員としてジンバブエでの活動経験あり。ヨーロッパの福祉に興味がありイギリスにて看護師免許を取得しRNとして勤務していた経験あり。趣味は旅行。

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