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第6回:あきらめず、支援を求める手を離さない(母子チームより)

第6回:あきらめず、支援を求める手を離さない(母子チームより)

2023.08.02横濱 幸恵(岩手県立二戸病院 看護師長補佐)

 DC NETWORKの母子チームには、私を含め5名の保健師・助産師が所属しています(メインメンバー3名、サブメンバー2名)。メンバーは現在、看護教育機関や医療機関、地域でそれぞれの専門性を発揮した仕事をしており、そこで培われた経験を活かしたダブルケアラー支援をしています。私自身は医療機関の助産師・看護師として勤務しており、少子高齢化によるダブルケアラー支援の必要性を日々感じながら、妊産褥婦とかかわっています。
 ダブルケアラー支援者としてまだまだ経験不足ではありますが、母子チームでの取り組みや私自身の臨床経験を踏まえ、ダブルケアラー支援の課題や実際について述べていきます。

妊娠・出産・育児期の女性ケアラー特有の課題・問題

 少子高齢化による育児と介護の同時進行の中には、多くの人がイメージする認知症者の介護と育児のダブルケアの他に、医療的ケア児とそのきょうだい児のケアの同時進行や精神疾患を有する家族のケアと育児、がんや難病などを患う家族のケアと育児など、ダブルケアの内容もさまざまです。育児とのダブルケアのみならず、複合ケアも多くあります。
 さらに、もともと家族のケアを行っていたヤングケアラーが妊娠・出産を契機にダブルケアへと移行するケースも見受けられます。家族のサポートがとくに必要な妊娠・出産・育児期の女性がやむをえずケアラーとなり、より支援が必要にもかかわらず、その実態が見過ごされている現状にあるのです。

「助産師に介護の相談はしにくい」と思われている

 ダブルケア中の妊産褥婦が産前に医療機関などに相談しているケースは少なく、産後ケア中に実はケアラーだったことが分かることがあります。産前に相談しなかった、できなかった理由をお聞きすると、「産婦人科では妊娠や出産にかかわることだけしか相談できないと思っていた」「外来も病棟もスタッフが忙しそうで、混み入った相談はできないと思っていた」「家族の病気(介護)は自分たちの家族の問題だから、相談しても仕方ないと思っていた」「助産師さんは介護に関する知識はあまりないと思ったから」「楽しいマタニティライフではないから、相談するのも気が引ける」といった声が聞かれています。
 約10か月間の妊婦健診、出産後7~10日間程度の入院期間中に看護師や助産師がかかわっているにもかかわらず、本人が実態を訴えなければ、支援者が問題に気が付くことが難しい現状にあると言えます。そのため、ダブルケアラーという見えない存在を妊産褥婦とかかわる助産師がいかにいち早く見つけ、手厚い支援ができるかが今後の課題となります。ダブルケアの実態や、彼女たちが「助産師に介護の相談はしにくい」と感じていることを、助産師は知る必要があります。

ダブルケアラー支援の実際

 こういった現状を踏まえ、母子チームの活動として、私たちは主にオンラインのお話し会(以下DC Café)を行っております。これまで、団体立ち上げ以来、母子チーム主催のDC Caféを3回企画し、2回開催しました。1回は参加希望者がおらず、開催できませんでした。しかしながら、潜在的なダブルケアラーは多くいらっしゃるようですので、今年度は3回行う予定で準備を進めております。第1回は6月に開催したばかりです。

 母子チームのDC Caféでは、ケアラーがダブルケアをする中で感じた素直な気持ちや実体験をありのままに話せる雰囲気づくりを心掛けています。メンバーは医療従事者ではありますが、専門的な見地からの積極的な指導や助言はしません。ダブルケアラーのお話を聞きながら、彼女たち自身がメンバーとの対話を通じて、自分自身で課題の整理ができるよう意識した働きかけを行っております。またメンバー自身が、自らの育児や介護の経験について語ることもあります。これにより、参加者との心理的な壁を作らず、両者が思う存分語れる場になっていると感じています。

 現在DC Caféはオンラインのみで開催していますが、育児や介護でなかなか相談する時間が取れないダブルケアラーにとって、Web上のDC Caféは気軽にアクセスでき、有効に時間を活用できると好評を得ています。また、参加者からは「話をよく聴いてもらえて良かった」とダブルケアラーの体験をありのままに話して頂くことの意義を感じています。今後も継続してダブルケアラーの思いに寄り添いつつ、私たちの活動の成果を客観的に評価し、継続性のある活動をしていきたいと思います。

どんな時もあきらめない看護実践者であるために

 当団体代表の寺田氏は、ダブルケアラー当事者の方が以前助産院で介護の話をした際に「私、介護のことはわからないから」と助産師に言われたことをお話され、涙を流されていたことにショックを受け、この団体を立ち上げました1)。実は私自身も認知症の母を在宅介護中、訪問介護サービスを頑なに拒否する母の対応について介護の専門家に相談した際、思いもよらない返答に途方に暮れてしまったことがあります。
 「もう、私たちではどうすることもできないのでサービスをやめて頂いて構いません。力になれず、申し訳ありません。」看護職であっても介護に関しては無知なことも多く、その時の私は藁にもすがる思いでした。介護の専門家ですら対応ができない母と今後どう付き合っていけばいいのか・・・とてつもない孤独感に苛まれた瞬間を昨日のことのように思い出します。

 令和になり5年目を迎えましたが、私たち看護職を取り囲む社会や環境は今後も刻々と変化し、きっとこれからも私たちの想像を超える事態が待ち構えているでしょう。しかし、どんな時でも私たち看護職は、健康生活支援を必要としている人々を見捨ててはいけない、過酷な状況であっても支援を必要としている人の手を離してはいけないのだ、と身をもって感じています。
 ダブルケアラー支援を通じて「どんなときも、どんな状況であっても支援をあきらめない」「支援を求める手を決して離さない」看護職であり続ける、看護を目指す学生たちや学生のサポートに携わる方々、少しでも多くの医療・介護従事者の方々に、私たちの支援活動からそのマインドを感じとってもらえるよう活動していきたいと思います。

引用・参考文献
1)寺田由紀子:第1回:ダブルケアとの出会い-支援団体「DC NETWORK」を立ち上げて.連載『ダブルケアラーへの支援 ―「DC NETWORK」の活動を通して』,看護教育のための情報サイト「NurSHARE」,2023年3月22日〔https://www.nurshare.jp/article/detail/10392〕(最終アクセス日:2023年6月29日)
2)相馬直子・山下順子:ひとりでやらない育児・介護のダブルケア,ポプラ新書,2020

横濱 幸恵

岩手県立二戸病院 看護師長補佐

よこはま・ゆきえ/1997年岩手県医療局に入局。県立病院において看護師・助産師として9年間勤務。その後県立の看護師養成所へ異動となり看護教員(母性看護学担当)を10年経験する。看護師養成所へ異動した年に実母の認知症が発覚し、以後約17年間の認知症介護が始まる。2008年厚生労働省看護研修研究センター看護教員養成課程修了。この研修時代に代表の寺田氏と出会う。14年日本赤十字秋田看護大学大学院看護学研究科修了(看護学修士)。16年より岩手県立二戸病院へ異動。同年、日本助産評価機構レベルⅢ認証 アドバンス助産師を取得。看護師兼助産師として6診療科からなる混合病棟勤務を経て、今年4月より外来勤務。昨年、岩手県職員として永年勤続25年を迎えた。コロナ禍を機に、休日は愛犬2匹と夫婦でキャンプを楽しんでいる。

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