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あとがき:ダブルケア支援のこれから 

あとがき:ダブルケア支援のこれから 

2024.01.15寺田 由紀子(帝京大学医療技術学部看護学科 講師)

 読者の皆様、全10回の連載記事をお読みいただきありがとうございました。多くの方がアクセスしてくださったようで、DC NETWORKメンバー一同、大変嬉しく思っております。
 私たちの連載により、看護の現場で出会うダブルケアラーの姿がわかり、看護基礎教育にもつなげていただけることを願って記事を執筆してまいりました。看護教員や臨地実習指導者をされていると、「対象の個別性を尊重した看護」について学生たちに説明する機会が多いことと思います。連載を通して、目の前にいる対象者のみならず、ケアラーとなる対象者をケアする家族の背景も捉える必要性を再確認いただけたのではないでしょうか。

早急な支援が求められるヤングケアラーの存在

 お陰様で、連載は1年近くに及びました。その間にもケアラー支援は着々と進んでおります。ダブルケアラー支援を語るときに、ヤングケアラーに関する課題も一緒に考える必要があることは連載第3回で述べました。
 大人に代わって日常的に家事や家族の世話をするヤングケアラーの支援について、こども家庭庁は2023年12月26日、子ども・若者育成支援推進法に明記し初めて法制化する案を児童虐待防止対策部会に示しました。政府は2024年通常国会への同法改正案提出を目指しています1)。しかしながら、ダブルケアラーの中には、自分の子どもがヤングケアラーと位置づけられてしまうのでは、と懸念している方もいらっしゃいます。ヤングケアラーの認識が進むにつれ、逆に不安を感じる方もいることを知っていただきたいです。また、連載第5回の記事でも、医療的ケア児のきょうだい児についても説明しておりますので、ぜひこちらも併せてお読みください。

年間14回のDC Café開催を通して得られたこと

 連載でも何度かお話ししてきたように、私たちはDC Caféというダブルケア当事者の集まるお話し会を主にオンライン上で開催しております。2023年は年間17回のカフェを予定し、14回開催し、27名の参加がありました2)。そのうち1回は、一番新しいチーム「がんチーム」のDC Caféで、初の対面開催を2023年5月に仙台で行いました3)。DC Caféは、当事者のみならず、元当事者や支援者の集まる場でもあり、元当事者の方は当時誰にも言えなかった思いを吐露してくださっております。また、支援者にとってもダブルケアラーの本音を知る機会にもなっております(ただし、支援者参加を募集してないカフェもあります。ご承知おきください)。
 私は代表を務めておりますので、全てのチームのカフェに同席しましたが、参加された当事者たちは医療専門職である私たちに向けて、「看護師さんたちにこういう点を気づいて欲しかった」「こんな声掛けが欲しかった」というご要望を寄せてくださいます。ケアラーとかかわる際には、ケアラー自身を気遣う声掛けとして、「お子さんを連れて病院まで来るのは大変ですよね」などといったダブルケアの状況を察するような言葉をかけていただけると、安心してご自身の状況をお話しくださると思います。

 DC Caféでは看護職への感謝の声も頂戴することが多くあり、ダブルケアラーにとって看護職は非常に頼りになる存在であり、ご家族の支えにもなっているのだと逆に私たちの方が勇気をいただきました。リピーターのダブルケアラーの方の場合は、カフェ参加の度ごとに成長するお子さんの姿を一緒に喜べるのも嬉しいですし、ご家族の様子を継続してうかがうこともできます。そういった方からも「心の拠り所になっている」とおっしゃっていただいております。医療に関する状況は非医療職者にはなかなか理解が難しい部分もありますが、医療専門職ばかりの団体なので、細かい状況を説明しなくともすぐに理解してもらえて話しやすいと好評を得ております。
 今後は、対面開催のDC Caféも増やしていく方針でおります。対面開催の場合は、参加者同士の距離が近く、孤立を防ぐことにもなります。また、地域における情報交換の場にもなりますし、より一層ダブルケアラーの個々の状況にあった支援が見つかるのではないかと期待しております。

誰にとっても住みやすく、幸せな地域社会を目指して

 連載第10回でもご紹介した重層的支援体制整備事業の創設背景には、「人びとのニーズに目を向ければ、たとえば、社会的孤立をはじめとして、生きる上での困難・生きづらさはあるが既存の制度の対象となりにくいケースや、いわゆる『8050』やダブルケアなど個人・世帯が複数の生活上の課題を抱えており、課題ごとの対応に加えてこれらの課題全体を捉えて関わっていくことが必要なケースなどが明らかとなっています」とダブルケアという語が明示されております4)。これまでの連載でも述べてきたように、ダブルケアラーの置かれている状況はさまざまであり、一括りにはできません。それが故、福祉のみならず、医療職でもある私たちの視点と支援が求められているように思います。
 私自身もダブルケアを知り、多くのダブルケアラーと出会い、自分がこれまであまりにも「地域」を知らなかったことに気づき、愕然としました。私自身も助産師であり、地域で子育てをしておりましたが、自分の目線でしか起こりうる事象を捉えることができていませんでした。加えて、DC Caféで災害時の不安についてもうかがうことがあり、育児と介護を抱えた人が被災した場合の対応の難しさも痛感しました。そこでより一層支援を行き届かせるため、また地域に密着した災害対策を進めるために自分にできることは何かを考え、2022年7月から東京都助産師会板橋地区分会災害対策担当を拝命し、2023年6月より地域のNPO法人の理事も務めることを決めました。NPO法人は、「みんなのたすけあいセンターいたばし」といい、重層的支援体制整備事業の話で述べたような、訪問看護や介護保険制度が適用にならない制度の狭間にある人々の支援を行っております。ダブルケアを知り、私自身も全国各地のダブルケア支援者やダブルケアラーとつながることができました。地域においてもさまざまな活動を通して支援の輪を広げております。まさに「DC NETWORK」という団体名そのものの「ダブルケアネットワーク」を構築しております。

 毎年2月は「ダブルケア月間」5)です。私たちDC NETWORKも、初回の2022年2月から参加しており、今年は3回目になります。DC NETWORKでは、対面の講演会とDC Caféのオンライン開催の準備を進めております。より多くの方にご参加いただき、この機会にぜひダブルケアをもっと知っていただきたいです。
 「ダブルケアは磁石」6)という言葉もあるように、ダブルケアは多くの方を引き寄せます。「ダブルケア」をキーワードに、温かな輪をこれからも広げ、ダブルケアラーの皆様はもちろんのこと、誰にとっても住みやすく、幸せな地域社会を創りたいと願っております。

引用文献
1)日本経済新聞:ヤングケアラー支援、政府が来年法整備めざす 地域で対応差、解消へ,2023年12月27日,日刊38面
2) DC NETWORKホームページ:開催が終了したDC Café,〔https://dc-network.amebaownd.com/pages/5812537/page_202202201107〕(最終確認:2024年1月9日)
3) DC NETWORK - Double Care, Diversity Care -:DC NETWORK初の対面カフェ in 仙台,2023年5月28日,〔https://ameblo.jp/dc-network/entry-12804963540.html〕(最終確認:2024年1月9日)
4)厚生労働省:社会福祉法改正による新たな事業の創設の背景.重層的支援体制整備支援事業について,〔https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/jigyou/〕(最終確認:2024年1月9日)
5)ダブルケア月間実行委員会:ダブルケア月間 HPトップページ,〔https://wcaremonthly.jimdofree.com/〕(最終確認:2024年1月9日)
6)相馬直子,山下順子:ダブルケア(ケアの複合化).医療と社会 27(1):63-75,2017

寺田 由紀子

帝京大学医療技術学部看護学科 講師

てらだ・ゆきこ/東北大学医療技術短期大学部看護学科、同専攻科助産学特別専攻にて看護師・助産師免許を取得。東北大学大学院医学系研究科博士後期課程修了(看護学博士)。公認心理師資格も所持している。DC NETWORK以外にも、流死産を経験した方や家族のための会「ANGEL TRAIN」や、親のがんを知らされた子どもと保護者のための安全基地「KOALA CAFE®」などの支援活動に尽力。研究テーマは、新しい男性性である「ケアリング・マスキュリニティ」。著書『子育てと介護のダブルケア:事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版、2023年;分担執筆)。趣味は、音楽鑑賞とグルメレポート。人とのかかわりがパワーの源であるアラフィフ。

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