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第9回:日常から離れて過ごす時間が大切(地域チームより)

第9回:日常から離れて過ごす時間が大切(地域チームより)

2023.11.01元田 貴子(あじさい看護福祉専門学校 教務主任)

地域で多重ケアの状況にあるさまざまな人を支援する

 DC NETWORKの地域チームは現在3名のメンバーで活動しています。メンバーは弁護士、社会福祉士、保健師、養護教諭、介護支援専門員などの資格を持ち普段は地域や教育機関の仕事に従事しています。地域チームでは、これまでに当事者の座談会であるDC Caféを2023年の4月と8月の2回開催しました。
 地域チームは際だった専門性がある他のチームと他のチームとは異なり専門性が特化されていないところが特徴といえます。そのため、初回のDC Café開催の計画ではそもそも参加してもらいたい対象は? と考えるところから始まりました。
 メンバー間で意見を交わし、対象を多様な課題を抱えている多重ケアの状況にある人とし、そのような人の中には適切な支援につながることができていない人も多いと考え、間口を広げ対象は広く募りたいと考えました。重層的支援を視野に入れた取り組みとして年齢や状況を問わない「地域」をキーワードに、縦割りになりがちな世代間を横串するイメージでDC Caféを開催することにしました。さまざまな事情でつながることが困難である人へアウト(out)リーチ(reach)でこちらから呼びかけ、つながる機会をつくり、迷っている人には気軽にお試しで参加してもらいたいと思っています。

 DC Caféでは、一人ひとりが、それぞれの思いを吐き出し、心安らぐ時間を私たちも一緒に過ごし、抱えている様々な課題について一緒に考えて行こうというスタンスで、支援する側・される側の関係ではなく、人と人との関係でつながり支え合うことを大事にしたいと思います。
 DC Caféに参加して下さった方から、『常に心身が疲弊している状態で、ケアマネジャーや看護師の「無理って言っていいよ」「助けてって言っていいよ」という言葉やその存在が大きな支えになり、一人ではないと感じることができた』という声や、『つらいことや大変なことがあるからこそ、育児や介護から離れて楽しい時間や自分だけの時間を作ることが、心身を癒やし解放するとても大事な時間であることに気づいた』という声がありました。

他者のサポートを得たことで同窓会に参加できたダブルケアラーの友人

 中学校の同窓会で20年ぶりに会った私の友人の話をします。友人の夫は単身赴任で別居中です。そのため、自宅で子育てをしながら、車で2時間程の実家へ母親の介護に数年間通う生活をしていましたが、いろいろあって現在お母様は施設に入所されています。介護に通う回数は少なくなりましたが、会う度に母親が自分のことをわからなくなっていると話しました。
 実家で暮らす母親を介護している時は「一人で大丈夫だろうか」といつも心配し、介護に通うための時間的・体力的負担も大きかったようです。施設に入所後は、母親の心身がどんどん衰えていく現実への無力感や寂しさを感じるつらさがありながらも、他者のサポートが得られたことでそれまでの心配事や時間的・体力的負担は軽減され、今回同窓会にも参加することができました。久々に再会できた同級生のみんなと黙々とカニを堪能し、思い出話に腹を抱えて笑い、気持ちはすっかり中学生のあの頃に戻りただただ楽しい時間を過ごしました。
 友人は私に助けを求めようとこれまでの話をした訳でなく、私も友人に何かしてあげられたわけでもありません。ですが、日常から離れて過ごすこういう時間が実はとても大切なんだと思いました。

 改めて「ダブルケア」の状況にある人が私の身の回りにも多く存在していることに気づかされます。それは予期せず突然だったり、とても長く続いていたり、年齢も性別も関係ありません。現状を今すぐ変えることはできないかもしれませんが、育児や介護から離れ一人になる時間や場所によって心身の疲労や負担を軽減することができることを改めて感じています。地域チームはDC Caféでつながってくれた人の「逃げ場」的なプラットホームとして継続的にサポートをするだけでなく、より専門性のある他のチームへつなぎ共にサポートしていけたらとも考えています。

これからも逃げ場や癒しの場を地域に作るために

 地域チームのDC Caféに参加して下さった方や私の友人に起きていることは、個人的課題ですが社会全体の課題でもあります。「複数の方にインタビューをしてみてわかったのは、支援をうまく利用して、すべてを継続できることが、ダブルケアラーの精神的な支えになることです」1)と相馬先生、山下先生は著書で述べられています。大事なものを諦めるのではなく、できる状況を作るためのフォーマル・インフォーマルの支援が大切なのだと思います。

 ダブルケアラー支援団体であるDC NETWORKの代表である寺田氏とは、2008年に看護教員養成の研修で出会いました。寺田氏から誘われDC NETWORKの一員となりましたが、私はダブルケアの支援者としては素人で、経験や知識の豊富なメンバーの皆さんにいつも支えられながら活動をしています。
 活動を共にする地域チームのメンバーの皆さんとはこの活動を通して知り合い、実はオンラインでしかお会いしたことがありません。そして、メンバーの皆さんからいつも温かい言葉や心づかいに私自身がとても癒やされています。このほどよい距離感をとても心地よく感じています。
 DC Caféでは私が感じているこの感覚を参加して頂いた皆さんにも感じてもらいたいです。毎日忙しくがんばっているケアラーの皆さんの心身の疲労や気がかりなことが、ほんの少しでも軽くなればいいなと思います。逃げ場や癒しの場はいくつあってもいいと思います。今後も地域チームのメンバーとして私にできることは何かを考え活動を続けていきたいと考えています。

 私は看護教員として、地域・在宅看護論の講義を担当しています。学生には患者さんや療養者さんの看護や支援で生活背景をよく知ることの大切さを伝えていますが、退院支援や地域生活での支援では、制度の狭間や多重ケアの状況にある人にも出会います。教員として将来看護師となる学生や、医療や教育に携わっていらっしゃる読者の皆さんにも広くダブルケアについて知ってもらい、支援者仲間が増えるよう、これからもこのような執筆の機会や支援活動を通して伝えて行きたいと思います。

【引用文献】
1)相馬直子他:ひとりでやらない育児・介護のダブルケア,p.196,ポプラ新書,2020
【参考文献】
1)厚生労働省:重層的支援体制整備事業の実施について(実務等),〔https://www.mhlw.go.jp〕(最終確認:2023年10月18日)

元田 貴子

あじさい看護福祉専門学校 教務主任

げんだ・たかこ/愛知県の看護専門学校で看護師免許取得。県内外の病院で内科、外科、精神科、訪問看護等で看護を実践しながら2001年名城大学法学部法学科で法律を学ぶ。介護支援専門員の資格も取得。2008年厚生労働省看護研修研究センター幹部看護教員養成課程修了。あじさい看護福祉専門学校に専任教員として着任。地域・在宅看護論(在宅看護論)を担当し教務主任として現在にいたる。地域における多職種連携や重層的支援の重要性を感じ看護基礎教育に活かしたいと考え2021年日本福祉大学で社会福祉を学び社会福祉士資格を取得。趣味はサウナ・ヨガ・仏像・寺社巡り(御朱印収集)・ダイビングなど。

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