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日本各地に飛び出す看護学生たち 『全国ぶっコミプロジェクト』

日本各地に飛び出す看護学生たち 『全国ぶっコミプロジェクト』

2022.01.24NurSHARE編集部

 授業や実習、予習や復習・記録など、看護学生の毎日は言うまでもなく多忙。日々学業に追われる中で、自分の目指す看護がわからなくなり悩んでしまう学生も少なからずいることでしょう。そんな悩みの中から、自分のやりたいことを見つけ、理想に向かって頑張る学生たちがいます。
 今回は、看護学生が自ら主体となって活動し、全国各地の看護学校に向けて学びや気付きを共有しながら新たな看護の在り方を提案する「全国ぶっコミプロジェクト」について取材を行いました。未来の看護を変えたいと奮闘する彼女たちの取り組みについてお伝えします。

 

新たな形の看護実践を伝えたい

 「全国ぶっコミプロジェクト」は、筑波大学医学群看護学類4年の總山萌(ふさやま・もえ)さん、岐阜大学医学部看護学科4年の野村奈々子(のむら・ななこ)さんらが2021年上旬からスタートした活動だ。書籍『コミュニティナース|まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師』(矢田明子著)に登場する「コミュニティナース」の考え方を看護学生や看護教員らに知ってもらうため、全国各地の看護学校へ書籍を寄贈して学内で展示してもらったり、時には学校に出向いて講演を行ったりしているという。

『コミュニティナース|まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師』
(矢田明子著、木楽舎、2019年2月発行)

 コミュニティナースは、職業や資格ではなく実践のあり方。「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得たコンセプトを指すものだ。同書著者の矢田明子さんが掲げる看護のあり方のひとつで、まちの巡回や施設への常駐など、医療施設に行く前の段階から地域の人の暮らしの身近な存在となることで、『毎日の“嬉しいや楽しい”を一緒につくり、“心と身体の健康と安心”の実現』を目指す。
 資格を有する必要があるものでも、実践にルールや定義があるものでもない。目指すところは、専門性を生かしながらも人々の多様な生き方や地域の特性に合わせ、それぞれの日常に寄り添うケアの実践だ。
 この考え方に感銘を受けた学生たちが「全国ぶっコミプロジェクト」を立ち上げた。彼女らの手によって、これまでに47都道府県700校以上の看護師養成所に書籍が届けられ、6校で講演が行われている(2022年1月末時点)。

看護の在り方、看護師としての働き方を見つめ直した

 プロジェクトリーダーの總山さんは、養護教諭を目指して大学に進学した学生だ。多忙な毎日の中で、ある日「看護という手段を生かして誰かを笑顔にしたかったはずなのに、いつの間にか国家試験に合格して看護師の資格を取ることが目的そのものになっていた」と気付いたという。“自分が本当に実践したい看護とは何か”を見つめ直すために大学を休学し、様々な人とのかかわりを深めていく中で、コミュニティナースの考え方を知った。
 その後島根県に赴き、矢田さんが代表を務めるCommunity Nurse Company株式会社にインターンシップ生として入社。矢田さんのもとで勉強をしながら地域に出て活動し、地域住民や同じ志を持つ仲間とも交流した。思い切って看護師養成所の外に出ると、実体験に基づいた多くの貴重な学びを得られたことに喜びを感じた。自身の経験から、自分の心がときめくものや挑戦したいことに積極的に触れること、その過程で得た感情を大切にして生き方やキャリアの選択を決めていくことの大切さを知った。自らの気付きを「他の看護学生にも伝えたい」と思い立ち、全国の看護学校に書籍を届けてコミュニティナースの考え方を広報する活動を立ち上げた。これが「全国ぶっコミプロジェクト」の原点だ。

 野村さんは、そんな總山さんの活動に共感して同プロジェクトに参画した学生のひとり。以前から看護師の生き方や働き方に関心を持っており、高校時代の卒業研究では看護師の離職理由とその対策について調べた。自身の経験やキャンパスライフを通して「看護学生が将来やキャリアを考えるきっかけづくりをしたい」と強く思うようになり、看護学生に向けて情報を発信するWebメディア「看たまノート」を立ち上げた。
 メディアを運営する中で總山さんと出会い、「自分が何に心を動かされるのか、自分は誰にどんなケアを届けたいのかを改めて考えるきっかけづくりをすることで、看護学生のキャリア形成を支援したい」とプロジェクトに加わることを決めた。

全国各地の看護学校へと、「コミュニティナース」や
「看たまノート」紙面版の「看たまブックス」をぶっこむ

 總山さんらは書籍「コミュニティナース」の寄贈を「ぶっコミ」と呼び、同書を全国の看護系大学や看護学校へ「ぶっこんで」いる。賛同する学生の所属校に同書を置いてもらったり、すでに各地で活躍する現役コミュニティナースの紹介を得て看護学校とのつながりを作ったり、担当者にアポイントメントを取って直接看護学校に赴いたりと、様々なルートで「コミュニティナース」の考えを広めてきた。

看護教員も学生らの取り組みを応援する

 若い学生が自ら看護の未来を思って活動に取り組む姿には共感も大きく、学生たちの頑張りを応援する教員も多い。松下看護専門学校(大阪府守口市)の水方智子副学校長は、自身が会長を務める日本看護学校協議会が開催した副学校長・教務主任会(2021年12月開催)に總山さんらをゲストとして招き、多くの看護教員に、同じ看護学生が真剣に活動に取り組んでいることをと知ってもらいたい、またそれをきっかけに学生たちが自分のやりたいことに気が付いたり、熱意を持ったりしてもらいたいとして、会場参加者やオンライン配信の聴講者らに向けて同プロジェクトの活動を紹介した。

日本看護学校協議会の副学校長・教務主任会へも赴いた

 水方副学校長は「彼女たちの取り組みについて『大学の看護学生だからできる』『時間があるからできる』と考える人もいると思うが、そうではない」と話す。どんな環境であっても、自身の将来に向き合っている学生はいるだろう。挑戦したいことや考えていることがあっても、表現できる場や時間がないために、自分から発信することができない学生もいるかもしれない。いろいろな理由で一歩踏み出せない彼らの背中を押すことも、未来を創る看護教員の役割のひとつという考えだ。

 応援の輪は各地の看護学校に着実に広まり、寄贈された書籍を見やすく展示するなど、様々な形で同プロジェクトを盛り上げる学校も増えている。


 

目指すは全国各地への“きっかけ”づくり

 同プロジェクトの目標は、2021年度中に全国各地1,000校の看護学校で書籍「コミュニティナース」を置いてもらうこと。「看護学生たちに今一度自分のキャリアを考えてもらいたい」「ぜひ地域に飛び出してもらいたい」「みんなが自分を大切にしながらまちと結びついていくきっかけを作りたい」など、總山さんらが同プロジェクトにかける思いや目標はとどまるところを知らず広がっている。總山さんのように国家試験の受験を控えるメンバーもいるが、試験以降は目標の「ぶっコミ」1,000校制覇を目指して取り組みを加速させる意気込みだ。

 社会が急速に変化し将来が不確かな現代において、看護学生の側から看護職の可能性を広げようとする取り組みがなされていることもまた、時代の要請なのかもしれない。

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