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第5回『最強のふたり』

第5回『最強のふたり』

2023.10.25NurSHARE編集部

 本コラムは、みなさまの休日のおともにおすすめしたい映画作品をご紹介するミニ連載。笑って、泣けて、考えさせられて……医療に通ずるテーマや描写を含む作品を中心に、往年の名作から最新作まで、NurSHARE編集部の映画好き部員がお届けします。
※本文中で作品の重要な部分に触れている場合があります。

『最強のふたり』(エリック・トレダノ,オリビエ・ナカシュ監督/フランソワ・クリュゼ,オマール・シー主演,フランス,2012)

[映画.com:『最強のふたり』,作品情報〔https://eiga.com/movie/57365/〕より引用]

作品のあらすじ

 パラグライダーの事故による頸髄損傷で首から下が麻痺した富豪のフィリップは、住み込みの新しい介護人を雇うため、パリの邸宅で秘書と共に候補者の面接を行うことに。気難しいフィリップが候補者をなかなか気に入らない中、面接を受けにスラム街出身のドリスがやってきます。しかし彼には介護人として働く気はなく、給付終了期限が近づく失業保険をもらい続けられるように「面接を受けたが不合格になった」と証明する書類にサインをもらうため、フィリップの屋敷にやってきたのでした。
 いきなり秘書を口説こうとしたり、大金持ちである自分にも雑な態度を取ったりするドリスをフィリップは面白がり、介護や看護の資格・経験がない彼を雇います。ドリスは訝しがるも、試用期間としてフィリップのもとで働き始めることに。しかし案の定、正反対の2人は反発しあいます。それでも自身を障害者や富豪としてではなく、ひとりの人間として扱ってくれるドリスに、フィリップは次第に心を許すようになり……

偏見(一般常識)を持たないからこその接し方

 実話を基にしたコメディドラマ映画として人気が高い本作。その見所は、白人の富豪一家に生まれた障害者のフィリップと、前科持ちでスラム街で育った黒人のドリス、性格も境遇も異なるふたりが衝突しながらもお互いを受け入れ、心を通わせていくという、あたたかく笑いにあふれたストーリーです。
 初対面時から一貫して、ドリスは誰に対しても驚くほどフラットに接します。それはフィリップも例外ではありません。介護の経験や知識だけでなく、一般常識に触れてこなかったことも影響しているのでしょう。目上の人と接する経験もなかったであろうドリスは、相手が身分の高い雇い主、かつ障害者であるフィリップであっても、友人とのやりとりと同様の言葉遣いで接することしかできません。しかし、はたから見ると失礼にすら思えるこの“気兼ねないやりとり”によって、フィリップはさまざまな偏見にさらされて固く閉じていた心を徐々に開いていきます。

生い立ちも境遇も、障害の有無も関係ない友情

 看護師からフィリップの介護方法を指導され、むくみ防止のストッキングを履かせたり、抵抗感を持ちながらも排泄を手伝ったりと、悪戦苦闘しながらも介護に挑むドリス。
 ある日フィリップと外出することになり、彼がこれまで使用してきた車椅子対応のリフト付きワゴン車を見たドリスは、「馬みたいに荷台へ載せろと?」とこれまた容赦ない反応を見せます。「福祉車両は実用的だから」と言うフィリップをよそに、ドリスは福祉車両ではなくその隣で埃避けカバーを被っていたマセラティにフィリップを乗せて、そのエンジン音や通り抜ける風をふたり満喫するのでした。
 高級車を所有するフィリップは、かつて車が好きだったのかもしれません。そんな彼がワゴン車のバックドアから乗車するなどという行為は、利便性こそあれ、彼らしい人間的な生き方とは思えなかったのでしょう。障害者への知識がないドリスだからこそ、これまでの概念に対して鋭い視線を向け、フィリップ自身すら抱いていた「障害者だから」という思い込みを打ち壊したのです。

 フィリップもまた、スラム街出身で前科者のドリスに偏見を持ちません。ドリスを忌避する親類に対し「彼(ドリス)は私に同情していない」と言い放ちます。障害者だからと不要な特別扱いや同情を受けてきた彼にとって、心理的な壁を感じさせないドリスの態度は本当にうれしいものだったのでしょう。ドリスが自分をひとりの人間として見てくれるように、自分もまた目の前のドリスを受け入れたい。フィリップのふるまいからは、そんな思いがストレートに伝わってきます。
 作中、何度も軽口を言いあったり、ふざけて遊んだりしながら、ふたりは本当に楽しそうな笑顔を見せます。境遇も、障害の有無も関係なく対等な立場の友人として日々を満喫する彼らの様子に、こちらまで明るい気持ちになれる作品です。

NurSHARE編集部

とあるNurSHARE編集部員。看護学生向けテキストの編集業務もしています。業務に奮闘する毎日、自らの不出来さに枕を涙で濡らす夜もあるけれど、映画鑑賞とJリーグ観戦で即復活して明日へのエネルギーを充電できるお手軽(?)仕様。人生のベストワン作品は『レイジング・ブル』(マーティン・スコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ主演、アメリカ、1980)。

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