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第8回:それぞれの立場で、家族への捉え方や気持ちも変わってくる(認知症チームより)

第8回:それぞれの立場で、家族への捉え方や気持ちも変わってくる(認知症チームより)

2023.10.04生天目 禎子(帝京大学医療技術学部看護学科 講師)

 みなさんは「もし家族に認知症の症状が出たら……」と想像すると、どんなことを思い浮かべますか?自分の生活にどのような影響があるのか、どのように介護を担っていけばよいか、と考えて、介護は大変だろうな、できるかなと不安な気持ちになることと思います。また、看護師など日頃仕事上で認知症の人と接している人、認知症の家族の介護を行っている人、認知症の人と全く接したことがない人、認知症の当事者の人……など、置かれている状況により思い浮かぶことはさまざまであると思います。
 認知症は誰にでも起こりうる病気であり、誰もが介護する立場になりえます。また、認知症は7~8年ほどかけて進行するため、介護する期間が長くなることで、子育てをしている方にとってはダブルケアを担う期間が長くなることも予測されます。内閣府の調査1)によると、介護が必要となった主な要因では「認知症」が最も多いとわかります。このことからも、高齢の親がいる世代の人たちは子育てをしながら認知症の家族の介護を担うダブルケアラーになることもあると言えるのです。

認知症を患った女性、介護と子育てを担う息子夫婦

 ここで、私が実際に出会ったある女性とその家族の物語をお話ししましょう。
 夫の死後、アルツハイマー型認知症を患った女性は、息子夫婦とその2人の子ども(小学生・未就学児)と5人で暮らしていました。女性は70歳代前半という若さで認知症を発症し、息子夫婦の介護を受けていました。私が女性と出会った時は認知症がかなり進行していましたが、明るく社交的で、いつもニコニコ穏やかにしている人でした。しかし、自宅で息子夫婦の介護を受けていた頃の女性は、記憶を失っていく辛さや怖さを感じていたのでしょう。自分自身でも行動に不安があり、家族からは女性の行動が不可解で奇妙な行動にも見えていたようです。
 やがて息子夫婦の忙しさは子育て、仕事、認知症の女性の介護……と限界を超え、女性を自宅で介護することが難しくなり、施設に入所してもらうことを選択しました。施設入所後、女性の心身は落ち着きましたが、家族に会えないことを理解できずに寂しい思いもしていました。しかし、息子夫婦の面会は数ヵ月に1回と足が向かなかったようです。

 認知症高齢者をケアしている看護師の立場からは、息子夫婦にはもっと女性の面会に来て、女性の「家族に会いたい」という願いを叶えてほしいと思っていました。私自身、DC NETWORKで活動するまでダブルケアについての理解も乏しかったため、子育てをしながら認知症の家族を介護するダブルケアを担っていた息子夫婦の気持ちまでは察することができず、面会に来ない息子夫婦というイメージになっていたのです。今、考えると視野が狭かったと思います。
 しかし、認知症の家族を介護している家族へのケアに看護の視点を変えてみると、2人の子育てと仕事に追われ、助けてほしい時期に頼りであった女性が認知症を発症し、ふらっといなくなったり不可解な行動が増えたりで目が離せず、時には暴言に悩まされたりと、日々気が休まらないことも多かったと思います。家族だけの力だけではどうすることもできずに女性の施設入所という決断に至り、息子夫婦の心身も疲れ果てて面会する気持ちにはなれなかったのかもしれません。母である女性のことは、離れていてもいつも心配していたでしょう。だんだん認知症が進行していく女性と会うことに心を痛めていたのかもしれません。

学生の意見やレポートを通して気がついたこと

 私が携わっている老年看護学の認知症看護教育において使用している教材は、こういったダブルケアの事例です。この事例は認知症高齢者と息子夫婦,孫2人という今では珍しい三世代同居の家族の物語で、介護を中心に担っているのは息子の妻です。認知症の症状や当事者の気持ちを理解することを目的としています。
 事例カンファレンスの中で、「お母さんは週末になると、実家の認知症のおばあちゃんのお世話に行っていて大変そう」とダブルケアを担っている母を気遣い心配している学生の意見を聞きました。カンファレンス後に提出されたレポートの中でも、「同居しているおばあちゃんが認知症で、中学、高校生の頃は何度も何歳になったのか聞かれたり、同じ話を何度も聞いてきたりで、だんだん話すのも嫌になっていた」「看護学生として認知症について学び、あの時、もう少しおばあちゃんに優しくしてあげればよかった」という認知症の家族を支え切れなかった自分を客観的に振り返っている意見を聞くことが何度かあります。この経験を通して、認知症の方、子育てと認知症の家族のケアを担っているダブルケアラーの方、そして、子どもと立場が変わることで家族の見え方が違うという複雑な構造に気づきました。

ダブルケアの悩みや愚痴を分かち合ってほしい

 私たちDC NETWORKは、「ダブルケアを担っている方達を支える」という視点はメンバーみな共通していますが、どのような立場の方をどのチームが支えるかだけでなく、時にはその家族をDC NETWORK内のチーム同士が連携し、ひとつの家族の全体を支援することが大切であると考えています。
 私が所属する認知症チームは、サブメンバーも含めて3名で活動しています。カフェではダブルケアラーの方の経験をお聞きして勉強させていただきました。まだまだ世間では認知症について理解がされていないこと、地域差があること、家族の中でもひとりにかかる負担が大きいケースが多いこと……など、たくさんの課題があることがわかりました。
 認知症のご家族をケアにしている方は、日々大変なことが多々あることと思います。そして、いつも相手を心配する気持ちであふれているのにもかかわらず、つい心配や気遣いの言葉より先に「なんで~」「しっかりしてよ」というような𠮟責の言葉が先に出てしまい、悩むことがあるのではないでしょうか。人は誰にでも感情があり、そのイラつきは特別なことではありません。
 誰かに相談ができればと言っても、誰に、どこに相談すればよいか戸惑ったり、相談することをためらったり……。ダブルケアをしている方が悩みや愚痴を私達と分かち合うことで、ほんの少しの時間でも心が軽くなっていただきいと思い活動しています。

引用文献
1)内閣府:令和3年版高齢社会白書,高齢期の暮らしの動向 健康・福祉,〔https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/html/zenbun/s1_2_2.html〕(最終確認:2023年9月8日)

生天目 禎子

帝京大学医療技術学部看護学科 講師

なばため・よしこ/日本医科大学看護専門学校を卒業後、日本医科大学付属病院へ就職。10年の臨床経験を経て、板橋区医師会看護高等専修学校の専任教員として11年間勤務。2016年に東京女子医科大学大学院博士前期課程を修了、同年より帝京大学医療技術学部看護学科(高齢者看護学)に勤務。2023年4月に現職。趣味は温泉へ行くこと、朝ドラを見ること(現代より明治、大正、昭和の時代のストーリーのものが特に好き、昭和の懐かしい風景を回想しているのかも)。

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