看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

第5回:ケアを要するこどもの家族にも、それぞれの人生がある(こどもチームより)

第5回:ケアを要するこどもの家族にも、それぞれの人生がある(こどもチームより)

2023.07.05髙田 恵理(心身障害児総合医療療育センター 小児看護専門看護師)

 こんにちは! 高田と申します。私はDC NETWORKのこどもチームに所属しています。こどもチームは、主にスペシャルニーズ(医療的ケアなど)のあるこどものケアと、そのきょうだいの育児とのダブルケアをしている親御さんを支援の対象として活動しています。この活動を通して私が感じたことや、今後への想いをお話ししようと思います。

医療的ケア児の家族は「支援者」なのか?

 私は看護師として、NICUや小児科病棟などを中心に働いてきました。しかし数年前、DC NETWORKの代表から、ダブルケアの支援をする団体に参加しないかと声をかけられたとき、恥ずかしながら私にはダブルケアやヤングケアラーという視点がほとんどありませんでした。
 団体に参加してから、普段私がかかわっている家族の方々は支援が必要なダブルケアラー・ヤングケアラーなのだという事実を知り、「目からうろこ」でしたし、自分の視点があまりに狭かったことを突きつけられました。それまでの自分も家族やきょうだいたちに目を向けてケアすることは大切なことと思っていましたが、あくまでも対象となるこどもが中心で、彼らについては「○○ちゃんの親御さん」「○○君のきょうだい」という認識でした。対象となるこどもに対してのサポートを充実させるために動いていたけれど、対象となるこどもを支える家族やきょうだいを、そのこどもを支える“支援者”として見ていたのです。

 そんな自分自身に気がついてから、これまでの実践についてもっと家族やきょうだいたちへ手を差し伸べることができていたら・・・と振り返りました。そして、「○○ちゃんのお母さん」や「○○君のお兄ちゃん」ではなく、しっかりとご本人と向き合っていきたいと思いました。

「きょうだい」としてではなく、自分自身に目を向けられて

 この原稿の執筆依頼があった時、幼い頃から脳性麻痺の妹さんの介護をしている友人に話を聞きました。友人は妹さんの介護と自身のお子さんの育児を担うダブルケアラーです。私の「小さいころから妹さんの介護をしていたんだよね」という質問に、友人は少し考えた後「うん。だから今思えば、私もヤングケアラーだったかもしれないな」と言いました。「介護パートナーのような感じでなんでもやっていた」「やって当たり前みたいな雰囲気があった」「高校受験の勉強をしながら妹の介護をしていた」・・・それが友人にとっては日常でした。

 妹さんはしばしば命に関わる急変が生じ、入院することが多かったのですが、小学生だった友人は15歳未満だからという理由で、病棟の中には入れず、しばらく病棟の外の待合室で母親が戻ってくるのをひとりで待っていたこともあったそうです。まだ幼かった友人には病状の詳しい説明はされず、非常に心細く寂しい気持ちで待っていたことでしょう。すると当時の病棟師長が友人を見つけ「○○ちゃんのお姉ちゃん?」と気づき声をかけてくれました。そして「ちょっと待ってて」と言い、病棟にいる母親と妹さんの主治医に確認を取って妹さんと対面させてくれたり、「妹さんはね、今ね・・・」と病状を分かりやすく教えてくれたそうです。「私に目を向けて、私に説明してくれたことが嬉しかった」と彼女は言います。

 友人が高校生のころから、妹さんのケアに地域の支援が入るようになりました。訪問看護師やヘルパーなど、地域の色々な人が家に出入りするようになり、「私に気づいてくれる人が増えて、私を助けてくれる人が出てきた」「自分のために時間を使うことができるようになった」「私もケアを受けていい人間なんだ」と思えるようになったそうです。
 「障がいのあるこどもの姉としてではなく、個人として自分を見てくれる喜びがあった、嬉しかった」と友人は当時の気持ちを振り返っていました。そして、「障がいをもつこどもの親もきょうだいも、そのこどもとは別々の個人なんだと認識してほしい」と話していました。「親だから、きょうだいだから家族で取り組んで当然、ではなく、色々な人や制度の支援を受けてより良い状況をつくっていくことが必要だと思う」と彼女は強く語っていました。友人の語りは、私の看護師としての役割や、看護師として何に視点を当てるべきなのか改めて考えさせられる内容でした。

短期入所は家族の生活や人生を支えるためのケアでもある

 私は現在、医療型障がい児入所施設で看護師として働いています。私の所属している病棟は、主に在宅で生活している重症心身障がい児が短期入所を利用して入所される病棟で、家族はほとんどがダブルケアラーです。
 私が勤務する病棟でよく見かける場面ですが、病棟の外で漫画を読みながらお母さんが出てくるのを待っている小学生のお兄ちゃん、姉の短期入所に荷物運びのお手伝いで共にくる大学生の妹さん、そういったきょうだいの方々を見かけると、彼らの家庭では医療的ケアの必要なこどもを中心に家族の日常があるのかもしれないと思います。また、「今日はおばあちゃんの訪問看護師さんがくる日なの」と忙しそうに病棟にわが子を送り届けるお母さんや、短期入所の間に自分の外来検査の予約をふたつ入れているお母さんもいます。短期入所の目的のひとつにご家族のレスパイト(休息)がありますので、少しでも休息の時間がとれているといいなと思います。

 ある日、退所するお子さんをお迎えにいらしたお母さまに、「休めましたか?」と尋ねると、「休めました!リフレッシュできました。」と笑顔でお返事くださいました。リフレッシュできてよかったですね、という何気ない会話のやり取りの後、「この子にはこの子の人生、この子のきょうだいにはきょうだいの人生、私には私の人生があるんです。お互いに楽しく元気で過ごすために、ここの短期入所は必要なんです」とおっしゃるその笑顔はとてもキラキラしていました。
 短期入所はレスパイトケアだけではなく、家族の生活を支え、人生を支える役割があるのだと強く実感した言葉でした。受け入れる側の私たちも、そのような家族の思いをしっかり受けて、「私たちがしっかりお子さんを看させていただきます!お子さんが楽しく過ごせるようにケアするからね!安心していってらっしゃい!リフレッシュして戻ってきて!」という気持ちでケアをしています。

 地域には、自分がダブルケアラー・ヤングケアラーと気づかずにいるご家族の方、気づいてもなかなか声を上げられずにいるご家族の方がたくさんいると思います。これからもDC NETWORKの活動を通して、地域で生活するこどもとその家族やきょうだいたちへ、そっと手を差し伸べたいと強く思っています。

髙田 恵理

心身障害児総合医療療育センター 小児看護専門看護師

たかだ・えり/山形県米沢市出身。獨協医科大学付属看護専門学校卒業後、NICU、小児科病棟、緩和ケア病棟、看護専門学校で看護教員としても勤務。2018年日本赤十字看護大学大学院修士課程修了後、2019年に小児看護専門看護師資格取得。現在は医療型障がい児入所施設に勤務している。趣味は、アニメ・漫画・舞台観劇、ぬい撮り(ぬいぐるみ撮影)。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。