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第2回:離島ならではの課題と看護師の役割とは?

第2回:離島ならではの課題と看護師の役割とは?

2025.06.04伊藤 千晶(ジャパンハート メディカルHR/RIKAjob 看護師)

 国際医療NGOジャパンハートが提供する離島・へき地への看護師派遣支援プロジェクト「RIKAjob」では、17ヵ所の病院や施設と提携し、累計588名の看護師・助産師を派遣しています(※2025年4月現在)。その提携している病院・施設の半数以上は「離島」と呼ばれる地域にあり、その地域の医療を支えています。
 前回の記事で離島・へき地における医療者確保の実態やその背景についてお伝えしましたので、ぜひそちらもご覧ください。

 「離島」という言葉に、どんなイメージを持っていますか? 温暖な気候で、綺麗な海があって、リゾートのような魅力的な響きに感じる方もいるかもしれません。では、「離島医療」となると、どうでしょうか? 
 ゆったりと時間が流れていそう、プライベートも楽しそう、患者との距離が近そう、などポジティブなものから、一方、忙しそう、経験が必要そう、若者の医療者にはハードルが高そう……など連想するイメージはさまざまかと思います。
 今回は、実際の離島医療とそこでの看護師の役割などについて、体験者の声を含めてお伝えします。

離島医療の現状と課題

 前回の記事で離島・へき地における医療者確保の実態やその背景についてお伝えしましたので、ぜひそちらもご覧ください。
 まず、離島医療の現状と課題を整理していきます。

人口減少と高齢化の進行(全国平均以上) 

 離島では全国平均より速いペースで人口減少と高齢化が進行しています。離島地域の高齢化率は39%を超えています(全国平均26.6%,2023年)1)。また、人口減少についても、離島は全国や他の条件不利地域と比較しても厳しい状況にあります2)。たとえば、RIKAjobの提携先である隠岐島前病院のある島根県西ノ島町の高齢化率は48.5%であり、人口増減率は-2.24%という現状です (2024年) 3)。 

医療資源の不足 

 医療者の確保困難については前回の記事でお伝えしましたが、その他にも医療資源の不足が課題に挙がっています。高齢者人口が占める割合が高いため、医療需要とのギャップがより深刻で、医師不在の離島が約4割を占めるといいます4)
 また、離島では常勤の内科医はいても外科・小児科・産婦人科・精神科などの専門医が不在であるケースが多数あります。 精密検査や緊急手術、分娩の対応が困難なところもあり、そのような島では本土や他島への搬送を余儀なくされます。とくに出産可能な医療機関がない離島が多く、2012年の古いデータではありますが、産婦人科医がいる離島は10島しかないと示されています4)

 検査機器が十分でないことや、専門医の不在などにより適切な診断や対応できる治療に限界があり、ヘリ搬送や海上搬送となるケースもあります。離島での急変対応は限られた人材・物資の中での対応となるため、医療者は常時「搬送の必要性」を考えながら対応しています。 台風などの自然災害が発生した際には通院や搬送が困難となり、波の影響により1週間以上も船が来島しないこともあります。生活物資や医療物資などが不足するリスクに見舞われたり、医療者が来島できないといった状況に陥ります。
 上記を見ると、「離島で働くことは大変」「ハードルが高い」「キャリアの選択肢として選び難い」と感じてしまうかもしれません。しかし、もちろん人的・物的資源の不足による大変さはあるものの、離島での医療だからこそ学べる、経験できる、得られる魅力があります。

離島看護の魅力

 ここからは離島で看護師として働く魅力について、4つお伝えします。

幅広い対応力の習得

 離島では限られた医療者があらゆるニーズに対応するため、看護師一人ひとりが子どもから大人までフィジカルアセスメントや応急処置、救急対応まで幅広く担当します。幅広い実践を通して「判断力」「先を読む力」「異常の早期発見力」などアセスメント能力が習得できます。さらに、離島では物資の供給が限られるため、今ある資源で最大限対応するための創意工夫が求められ、応用力も身につきます。

暮らしを支える看護の実践 

 離島医療の大きな魅力のひとつとして、一人ひとりの患者の「暮らし」そのものを支える医療にかかわれることがあります。治療だけでなく、患者の生活全体を支える介入が求められるため、「療養環境づくり」「自立支援」「家族支援」など、生活に寄り添うケアを行うことで、生活に根ざした看護の実践ができます。

地域包括ケアの実践

 離島では小さいコミュニティだからこそ、患者が隣人や親戚、家族であるケースも日常的にあります。さらに地域とのつながりをとくに大切にしているため、「地域に生きる」「地域を支える」人として、医療人としての使命感がはぐくまれます。また多職種連携を超え、地域で顔の見えるチーム医療が実践できる環境です。

リーダーシップの醸成

 規模が小さいチーム医療の中は、自ら考え動くことが求められる一方で、個々の意見も反映されやすい環境です。そのため日々の看護判断の意見やアイデアが、患者ケアやチーム運営に直結していくことを実感できます。その中で医療人材としてのリーダーシップが醸成されていきます。

本土とは異なる環境でスキルを磨きながら、その土地で暮らす看護師たち

離島で活動する看護師の声

 では、実際に離島医療に従事する看護師の体験レポートをお届けします。離島医療は、本土の医療機関とは異なる多くの特徴を持っています。体験談を通して離島医療に携わる看護師の葛藤や不安、それを乗り越えた先にある喜びを感じていただけると嬉しいです。

Aさん(大阪府出身 看護師5年目)

 私はこれまで、ある総合病院で3年半働いてきました。消化器外科の急性期病棟だったため、毎日目まぐるしく、休憩もままならず、15分程で食事を終えて仕事に戻るという忙しさでした。そんな仕事に追われる中、自分がやりたいこととはなんだろうと疑問に感じ、一度退職して学生の頃から興味があった海外留学へ行ってみようと思いました。
 しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により留学を断念せざるを得ず、ふとしたきっかけでRIKAjobを知り、名前も知らなかった奄美大島にある離島、喜界島へ行くことになりました。ここには全国各地から多くの看護師が集まります。皆さんが喜界島で働く理由はさまざまで、年齢や経験、職歴も違いますが、やりたい看護や将来の夢を持った方々との出会いはとても刺激的でした。当初、喜界島で働くのは3ヵ月の予定でしたが、気がつくと半年以上が経っていました。
 私が働くところは、島唯一の病院ということもあり、さまざまな疾患を抱えた患者さんが入院してきます。消化器外科しか経験のない私にとっては分からないことが多く不安な日々でしたが、スタッフに教えてもらいながらさまざまな疾患の勉強をすることができました。これまでの勤務の中では、島外搬送が印象に残っています。初めての自衛隊ヘリでの搬送、ヘリで揺れる機内での血圧測定や患者さんの状態観察…。不安と緊張でいっぱいでしたが、とても貴重な経験となりました。
 ここで働く看護師は、日頃からさまざまな疾患を診ているため幅広い知識があり、いろいろな事態に臨機応変に対応しています。島外からの応援看護師が多いため、その対応にも慣れており、小さなことでも気軽に相談をしやすい環境です。島のお菓子を食べながら談笑する休憩は、心休まる楽しい時間でした。

 島外に行けば治療を受け長生きできるかもしれないけれど、「もう十分に生きたし、最期は好きな島で過ごすよ」と、限られた資源しかない喜界島に残る選択をする患者さんもいました。病気と共に、住み慣れた島で、最期まで暮らす人たちを支える。そんな離島の医療を通じて地域医療に興味を持ち、ソーシャルワーカーの資格を取りたいと思い看護部長へ相談しました。期間限定で来た私が、好き勝手なことを言って怒られるかもしれないと思っていましたが、看護部長へ思いを伝えると、自分の予想とは真逆の答えが返ってきました。希望の部署へ異動させてもらうことができたのです。そして現在、地域医療連携室へ異動し、約1ヵ月が立ちました。これからは、ソーシャルワーカーとして1年実務を経験し、来年は国家試験に向けて学校へ行き勉強する予定です。
 応援看護師であっても、やりたいことを後押ししてくれる環境は、なかなかないと思います。喜界島に来なかったら思いつきもしなかった夢ができました。やりたいことを実現するために今まで以上に勉強に励みながら、地域の患者さんのためになるような働きができるよう頑張っていきたいと思います。

 最初の頃は不便に感じることがありましたが、最低限のもので生活はできるので、島の生活に徐々に慣れていき、今では「何でも揃っていることは必要なことではない」と感じています。都会にあるものは少ないかもしれませんが、喜界島にはあって都会にないものがたくさんあります。

 限られた資源の中で看護師として能力を高めながら、さらに離島の大自然や人情あふれる環境で自身のやりがいや本当に大切にしたいことを見つけることができるかもしれません。
 RIKAjobでは、看護師と離島をつなぐことで、看護師の人生と離島・へき地医療の現場がいずれも豊かになることを目指しています。
 次回はへき地医療についてお伝えします。

引用文献
1)国土交通省国土政策局:離島振興計画フォローアップ,p5,2021年6月,〔https://www.mlit.go.jp/common/001415188.pdf〕(最終確認:2025年5月20日)
2) 国土交通省国土政策局離島振興課:離島の現状と取組事例について,2023 年 7 月 10 日,〔https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001478618.pdf〕(最終確認:2025年5月20日)
3) 島根県地域振興部中山間地域・離島振興課:人口データ 西ノ島地区.しまねの郷づくり応援サイト, (https://satodukuri.pref.shimane.lg.jp/info/area/poplation?sbaAreaCode=526526001) (最終確認:2025年5月20日)
4) 国土交通省国土政策局離島振興課:離島の現状, p.19,2012年10月,〔https://www.mlit.go.jp/common/001293260.pdf〕(最終確認:2025年5月20日)

 

 2004年、創設者・吉岡秀人(小児外科医)が自身の長年の海外医療の経験をもとに、医療支援活動のさらなる質の向上を目指して設立した「日本発祥の国際医療NGO」。東南アジアを中心とする国内外で、小児がん手術などの無償の高度医療含む治療を年間約4万件実施しており、累計数は35万件を超える実績があります。これらの活動は全て「未来の閉ざされた人たちに、明るい未来を取り戻す」ことを目的としています。
 2025年10月、カンボジアに「ジャパンハートアジア小児医療センター」を開設予定。この新病院は、カンボジアや周辺国の貧困層の子どもたちに高度な小児医療を提供し、命を救うことを目的としています。

伊藤 千晶

ジャパンハート メディカルHR/RIKAjob 看護師

いとう・ちあき/2012年にジャパンハートの国際看護研修(現メディカルチーム)へ参加。東南アジア(ミャンマー・カンボジア・ラオス)・国内の離島(島根県隠岐島前病院)にて看護師として従事。その後ジャパンハート創設者 吉岡秀人の秘書として活動しながら、定期的に国際医療活動に参加し、臨床業務とともに現地スタッフや日本から来た看護師の教育・指導に携わる。2018年RIKAjob(離島・へき地医療看護師支援事業)の立ち上げを行い、現在はその運営を担当。

フリーイラスト

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