北里大学健康科学部の設立背景と理念
北里大学健康科学部は、2024年4月に新潟県南魚沼市の北里大学新潟キャンパスに開設されました。健康科学部は北里大学にとって9番目の学部であり、生命科学および医療科学分野における学術研究と人材育成を通じて、社会の発展に寄与することを目的としています。北里大学は、世界的な細菌学者・北里柴三郎博士を学祖とし、1962年に創設されました。博士の精神「開拓」「報恩」「叡智と実践」「不撓不屈」を建学の理念とし、健康科学部もその精神を継承しています。
地域医療と教育の連携
新潟キャンパスには、1982年に設立された北里大学保健衛生専門学院があり、40年以上にわたり地域の医療人材を育成してきました。近年の医療技術の進展やグローバル化に対応するため、教育を学部レベルに引き上げ、未来の地域医療を担う人材育成を目指し、健康科学部がつくられました。健康科学部には、看護学科と医療検査学科の2学科が設置されており、地域医療構想に基づき看護師・臨床検査技師の人手不足に貢献できるよう期待されています。
また、医学部・看護学部・医療衛生学部・附属病院との連携に加え、2023年に新設された未来工学部と連携したSTEAM教育*1も取り入れ、総合的な医療教育を展開しています。
まちづくり論の目的と概要
「まちづくり論」は、看護学科と医療検査学科の1年生が合同で履修する前後期通年、2単位15コマの必修科目です。講義を通して、「まち」の概念と成り立ちを知るとともに、各分野の関係機関・団体が、地元・南魚沼市の実際のまちづくりにどのように参画しているかを学びます。また、独自のワークブックを学生に配布し、それを基に科目内でグループワークを6回行います。そしてその成果物として、最終的には各グループで「地域活性化プラン」を考えてもらいます。将来のチーム医療を見据え、早期から他職種の学生と学びを共有する場としても設けられています。
本講義では、第1回で移住者の動画「米の国から」を視聴します。この動画を通じて学生たちは、米どころとして有名な南魚沼市は、自然の豊かさ、水や空気の美しさ、地域資源の豊富さなど、多くの魅力を持つ地域であることを再確認する一方で、車中心の生活環境や商業施設の不足など、外部から来た人にとっての暮らしにくさがあることにも目を向けるようになります。
本講義では前後期通じて、地域のさまざまな方々をゲストスピーカーとして招きます。前期では、地域とのつながりを深めるために、「一般社団法人愛 南魚沼みらい塾(以下みらい塾)」の方に、南魚沼市での具体的な活動を紹介してもらっています。後期には、「南魚沼市総務部U&I ときめき課まちづくり班」の職員の方や大規模農家の方、やまこしの語り部*2の方、高齢者総合ケアセンターの職員の方、地域企業の方をお招きして、市政や農業、震災復興、障害と福祉、企業とのつながりという視点から「まちづくり」を理解できるようお話ししてもらいます。
今回は、前期の講義から「みらい塾」の講義とグループワークを中心に、学生の学びをご紹介します。
「みらい塾」から学生たちが学ぶこと
みらい塾の理念と取り組み
みらい塾は以下のような活動を通じて、地域教育と人材育成を推進しています。
・地域教育の支援・研究
・学校と地域を結ぶネットワーク構築
・まちづくりの推進
・子育て支援事業
・歴史・文化・芸術・自然を学ぶ観光事業
「ひとづくり」と「仕組みづくり」を理念に掲げ、若者が自分らしく社会に参加できる場を提供し、地域に人材が還流する仕組みを構築しています。
学生たちの地域活動への関心と参加意欲
みらい塾の講義では、さまざまな地域活動が紹介されます。学生たちは、県外からの若者を受け入れる移住体験「ふるさとワーキングホリデー」や不登校の子どもたちに安心できる居場所を提供する「里こもりプロジェクト」などの活動に興味を持ち、地域との交流を通じて自分の視野を広げたいと考えました。「究学」という言葉に象徴されるように、学びを止めるのではなく、地域に飛び込んで自分を深める姿勢に共感する声も多くありました。また、地域イベントやYouKeyプロジェクト*3など、若者のニーズに応える企画に感動し、自分も参加したいという意欲を持つ学生が増えています。
こうした活動を知ることで、学生アパート運営やボランティア活動など、自分たちの生活もまちづくりの一部であることに気づき、地域とのかかわりを意識するようになりました。私たち教員も、大学が地域に与える影響は教育だけでなく、経済や文化にも広がっていることを実感しています。
*3魚沼エリア5市町の中高生を対象に参加者を一般募集し、半年間(全12回)のプログラムの中で、自らテーマや地域課題を見つけ、メンターとなる大学生や地域の大人と協働で課題解決に取り組む、みらい塾の校外探究プログラム。
講義では、「若者の環流」という考え方が紹介されました。これは、進学や就職で地域を離れた若者が再び地元に戻り、支える側として地域に関わる循環を指します。学生たちは、このような流れが継続することで、地域の持続的な発展につながることを学びました。
北里大学健康科学部では「先端医療を地域に届ける」という視点で教育を行っています。何人かの学生が大学卒業後、先端医療を身につけるために一時的に地元を離れたとしても、将来的にはその高い知識と技術を地元に持ち帰ってくれることを期待しています。
学生の気づきと学び
講義を通じて、多くの学生が自らの行動や発信の重要性に気づきました。高校時代にまちづくりに参加していた学生も、今回の授業で新たな視点を得て、南魚沼の魅力を再認識しています。学生たちは地域活動に興味を持ち、主体的な学びへとつなげています。
また、地域の特性や若者の還流に関する取り組みを知り、地元に対する理解が深まりました。若者が主体となって地域活性化に関わる姿勢に感銘を受け、将来的に地元に貢献したいという思いを強くする学生も多く見られました。
学科を超えたグループでの実践的な学び
グループワークでは、「住みたいまち」「住み続けたいまち」について学科を超えたグループで話し合いを行い、医療施設と大学が連携するまちづくりについて他学科の学生の意見も聞くことで、さまざまな視点や価値観に触れることができました。自然が豊かで落ち着ける環境を望む声が多く聞かれた一方で、交通の便や商業施設の不足といった現実的な課題も共有されました。医療従事者としての将来を見据えた意見も多く出され、医療機関の充実や子育て支援、福利厚生の整った職場環境が、地域に人を呼び込むために重要であるという意見がありました。地方における医療人材の定着には、働きやすさと暮らしやすさの両立が求められることを再認識しました。
また、今できることとして地域事業への参加やボランティア活動を挙げ、それらを通じて地域の人々と触れ合うことが自分にできることを見つけるきっかけになると考える学生も多く、まちづくりへの関心の高まりがみられました。
今後の展望
「まちづくり論」を通じて、学生たちは南魚沼市の地域活動の多様性と可能性を知り、自らの行動が地域に与える影響を考えるようになりました。若者が主体となって地域にかかわることで、持続可能な地域社会の形成に貢献できることを実感しています。4年間の学生生活の中で、学生一人ひとりが自分の役割を見つけ、地域とのつながりを深めながら、まちづくりに積極的に参加していけるようになることを願っています。
さらに、リアクションペーパーには、講義を通じて多くの学生たちが、地域とのかかわりが自己成長にもつながることについて書いていました。地域活動に参加することで、コミュニケーション能力や課題解決力が養われ、将来の医療現場でも役立つスキルを身につけることができます。また、地域の多様な人々との交流を通じて、価値観の違いや社会の多様性を理解する機会にもなり、医療人としての視野を広げることができます。こうした学びの場は、将来のチーム医療や地域連携の基盤となり、学生自身の成長にもつながります。若者が地域の未来を担う存在として、自らの専門性を活かしながら他分野と連携し、持続可能な社会の実現に向けて主体的に行動することが、今後のまちづくりにおいて重要になってくると考えられます。
学生の中には、将来的に地域医療に従事し、地元に貢献したいという強い意志を持つ者も多く、1年次のまちづくり論の学びがその動機づけとなっています。今後は、彼らが地域イベントの企画や運営に携わったり、ボランティア活動をしたりすることで、より実践的な経験を積み、地域社会とのつながりを深めていくことが期待されています。また、他大学との連携や地域外からの参加者との協働を通じて、南魚沼市のまちづくりが全国的なモデルとなる可能性も秘めていると考えられます。学生たちは、自らの行動が地域に与える影響を理解し、主体的に地域づくりにかかわる姿勢を育んでいます。このような学びを通じて、地域とともに成長し、持続可能な社会の実現に向けた一歩を踏み出すことができると期待しています。

後編では、こちらも1年生の必修科目である「ボランティア活動論」についてご紹介します。ボランティア活動論では、ボランティアの意義や現状、活動の手続きや注意点について学びます。地域でのボランティア活動に実際に参加し、社会性や主体性を育みながら、環境や地域社会が人々に与える影響について考察します。講義・グループワークを通して学び、実際にやってきたボランティア活動の成果は報告会で発表して学びを深めていきます。ぜひご覧ください。
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[提供:一般社団法人 愛・南魚沼みらい塾] |