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第2回:臨床実践中心型カリキュラムにおける授業設計[1]

第2回:臨床実践中心型カリキュラムにおける授業設計[1]

2024.05.15増山 純二(令和健康科学大学看護学部 教授 / 臨床シミュレーションセンター センター長)

はじめに

 初回記事では臨床実践中心型カリキュラムの理論的背景について紹介しました。第2回、第3回では臨床実践中心型カリキュラムにおける授業設計の方法について、大学4年間の全体設計と、1年生の単元「ヘルスアセスメント:呼吸・循環フィジカルアセスメント」を通して説明します。

GBSの要素である「カバーストーリー」「使命」「役割」を用いた大学4年間の全体設計

 臨床実践中心型カリキュラムでは、患者(病院)の全体像が見え、どのような場面で、どのような看護実践を行なっているか、イメージをつけた状態で学習することを目的とします。そのためには、臨床実践を現実的な文脈に落とし込む作業が必要であります。そこで、GBS(Goal-Based Scenarios;ゴールベースシナリオ)理論の要素である「カバーストーリー」「使命」「役割」を設計します。まず、大学4年間のカリキュラム全体について設計し、それをふまえてさらに科目ごとに設計します。今回は大学4年間の全体設計について解説します。

カバーストーリー

 カバーストーリーとは授業の導入にあたっての文脈設定のことです。カバーストーリーの注意点について、「話は面白みがあってやる気を与えること」「一貫性があって現実的な内容であること」と述べられています1)。以下のように病院と新人看護師、そして、新人看護師1年間のストーリーを設計します。

病院と新人看護師の設計

 新入生(1年生)は、入学と同時に「令和健康科学大学医療センター」に入職し、新人看護師として、多くの患者を受け持ち看護実践の疑似体験をしながら、その看護実践の中で看護を学びます。病院の背景やフロアマップも設計し、看護部の教育目標については本学のDP(ディプロマポリシー)をあげてストーリーを作ります。

4年間のカバーストーリー

 新人看護師の1年間の学びを、学生は4年間の授業で学ぶ設計とします(図1)。新人看護師は4階病棟に配属されます。そこで、最初の3ヵ月(学生;1年生は1年間の授業)について、患者を受け持ちその患者への生活援助技術の実践やフィジカルアセスメントを実施する授業を行います。1年生の「生活援助実習」ではリアルに患者を受け持ち、コミュニケーション技術を用いて援助的人間関係を構築します。
 これらのカバーストーリーについては、入学後のオリエンテーションの際に、本学の学習方法について説明する中で、学生が臨床実践の場に立って学習できることを伝え、そして、ストーリーに没入できるように、まず、最初に、新人看護師が4階病棟に配属されたアニメーション動画を視聴してもらいます。その動画を以下に示します。
 

©令和健康科学大学

 

 次は4-6ヵ月(2年生の1年間)でも同様に患者を受け持ち、看護過程の学習を行います。専門分野では各領域の患者を受け持ち、病態やその看護について学習します。ストーリーの設定では4階病棟に配属されています。看護部から「他の病棟でも患者を受け持ち、多くの患者さんの看護を体験することが師長会で決まりました。」と通達があり、他病棟の患者を受け持つことができる設定とし、専門分野の看護を学習できる設計をします。実際の動画です。
 

©令和健康科学大学

 

 7-9ヵ月(3年生の1年間)でも患者を受け持ち、各領域のいくつかのコマを使ってシミュレーション学習を中心に知識、技術を活用する環境を提供します。1年生〜4年生まで「専門職連携教育」の授業を行いますが、特に3年生では患者を受け持ち他学科の学生と、それぞれの立場で議論する機会を設けています。10-12ヵ月(3年後期から4年前期)では各領域の実習となりますので、リアルな患者を受け持ち、看護師としての一人前の看護実践に向けて学習を進めていき、教員は足場をはずす支援を行います。

図1 新人看護師の1年間の成長過程と大学4年間での学び
 

役割

 「役割」とは、学習者がカバーストーリーの中で演じる人のことを指します。必要とされるスキルを学習するのに最も適している役がシナリオから選ばれる必要があり、学習者が演じる役割は特定されていることが重要です1)。今回の主人公(役割)は、新人看護師「なごみ りょう(和 令)」と設計します。また、リアルな環境を提供するとして、病院長、看護部長、各病棟の師長、プリセプターなど新人看護師に関わる登場人物についても設計します。

使命

 「使命」とは、「学習者が達成しようとする目標であり、学習者がやる気になり達成しようと思うこと1)」と述べられています。今回の新人看護師の「使命」は、看護師として独り立ちすることです。また、新人看護師オリエンテーションでは、看護部長から当院の教育目標(本学のDP)が示されることで、その目標を達成することも「使命」であることを伝える設計とします。

ADDIEモデルを基にした「ヘルスアセスメント:呼吸・循環フィジカルアセスメント」の授業設計

ADDIEモデルについて

 各授業はADDIEモデルを基に授業設計を行います。システム的アプローチにおいて、PDCAサイクル(Plan[計画]-Do[実行]-Check[評価]-Action[改善])はよく知られており、何度も繰り返すことで、システムの性能を向上させるモデルです。ADDIEモデル(図2)は、ID(Instructional Design)プロセスモデルの一般形として知られおり、PDCAサイクルを背景に提案されたものです。そのプロセスとして、5つの段階を含んでおり、「分析(Analysis)」「設計(Design)」「開発(Development)」「実施(Implementation)」「評価(Evaluation)」があります。その頭文字をとったものが「ADDIE(アディー)モデル」とよばれています。

図2 ADDIEモデル
[R.M.ガニェ,その他著/鈴木克明,岩崎信監訳:インストラクショナルデザインの原理,p25,北大路書房,2007より引用]
 

 このADDIEモデルを基にした「呼吸・循環フィジカルアセスメント」の授業設計の実際を以下に述べます。本稿では、「分析」フェーズにおける学習目標の分析と、「設計」フェーズにおける【学習目標】【評価】【学習手段】の決定について解説します。

Analysis(分析)

 「分析」は、学習者の特性や前提知識、教える内容を分析し学習目標を明確にしていきます。指導案を作成する際の「教材観」「学生観」の分析と同じ位置付けとなります。また、IDでは「どんな問題に対してインストラクション(指導)が解決法になりうるのか」という問いを重要としています。そのため、インストラクションが解決策となるニーズを明確にしていきます。
 対象が学生であると、臨床との関連性は脇に置かれ、その教材での学習目標を設計することが目的化して教材観を考えてしまいます。臨床実践中心型カリキュラムで大事にしているのは「臨床実践ができる」であり、まさしく、そのインストラクションが臨床の問題を解決できるか、これから教授する内容が臨床でどのように活用できるかを分析し、課題分析図を使って学習目標を決定します。

課題分析図

 課題分析では、学習目標を達成させるための必要な要素とその関係を洗い出すことによって、教材の中身を明らかにします。課題分析の結果を図に示したものを課題分析図と呼びます。課題分析図には、授業で教える内容とそれらの関係の両方が描かれる2)ため、視覚的に学習目標間の関係性がわかり、全体像を明確にすることができます。
 学習成果は5つの学習目標に分類されます。与えられた情報を記憶することを学習目標にする【言語情報】、実践することを学習目標にする【運動技能】、未知の事例に知識を適応することを学習目標にする【知的技能】、学習方略や問題解決方略を学習目標にする【認知的方略】、積極的、消極的行動を学習目標にする【態度】に分類されます。学習成果の分類ごとに課題分析の手法が提案されており、【言語情報】はクラスター分析、【運動技能】は手順分析、【知的技能】と【認知的方略】は階層分析、【態度】はそれらを複合した分析方法をとります2)

「呼吸・循環フィジカルアセスメント」の授業の課題分析図

 「呼吸・循環フィジカルアセスメント」の知識、技術が、どのような場面で活用でき、どのような問題を解決できるかについて分析します。今回の授業では、心不全の患者を受け持ち、入浴を介助するために病室を訪問し患者のフィジカルアセスメントを行い、入浴の許可を判断する状況を提示します。「フィジカルアセスメントを活用することで、入浴の許可の判断ができること」を学習目標に課題分析図を作成します(図3)。運動技能の学習目標を上位目標にし、その上位目標が達成できるためには、どのような知識、技術が必要かを考えながら、下位目標をつなげていった図となります。「分析」の段階では、課題分析図を作成し、全体像を捉えることが重要であり、授業の学習目標については、対象が1年生ですので、「学生観」を踏まえて「設計」の段階で最終決定とします。

図3 呼吸・循環フィジカルアセスメントの授業の課題分析図
 

設計(Design)

 「設計」は、インストラクションの開発の指針としての計画、青写真が描かれる段階となります。指導案を作成する際の「指導観」と同じ位置付けとなります。具体的には、【学習目標】【評価】【学習手段】【授業の組み立て】を決定します。【授業の組み立て】については次回に譲り、本稿では【学習目標】【評価】【学習手段】について解説します。

【学習目標】【学習手段】

 学習目標は、課題分析図(図3)を基にした上で、対象者が1年生であることや前提知識、2コマの授業という時間制限を踏まえて決定します(表1)。学習手段は課題分析図に示していますが、言語情報の学習目標については講義、運動技能については演習(タスクトレーニング)を行います。

表1 呼吸、循環フィジカルアセスメントの学習目標

▪呼吸の解剖と⽣理について説明できる。
▪呼吸のフィジカルアセスメント(観察のポイント)を説明できる。
▪循環の解剖と⽣理について説明できる。
▪循環のフィジカルアセスメント(観察のポイント)を説明できる。
▪さかいさんの⾝体状態を評価するための観察項⽬を⽴案できる。
▪呼吸を評価するための呼吸音の聴診ができる。
▪呼吸を評価するための触診と打診ができる。
▪心音を聴取できる。


【評価】

 授業内容の評価として、講義終了後に「呼吸、循環の解剖、生理」「観察のポイント」「異常所見の判断」については事後テストを行い、その上で定期試験で評価を行います。また、フィジカルアセスメントの評価は、事後課題として3つタスクを提示しレポートを提出してもらいます。
 タスクは課題分析図(図3)の紫色で囲んでいる学習目標をタスクとして提示します。今回の学習目標の上位目標をタスクとして提示し下位目標の達成状況を確認します。タスク1は、「受け持ち患者(さかいむつみさん)の観察項目について列挙しなさい。」タスク2は「演習時に「さかいむつみさん」の身体診察を実施し、観察の結果を記載しなさい。」タスク3は「入浴は可能かどうか判断した上で、その根拠について述べなさい。」をレポートにまとめて提出し、提出後はフィードバックと「さかいむつみさん」の入浴の許可の判断について例示します。

まとめ

 臨床実践中心型カリキュラムでは、GBS理論を基にカバーストーリーの設計を行います。学生は仮想病院に就職し、新人看護師の疑似体験のもと学習ができる設計とします。看護師として独り立ちする大きな「使命」のもと、新人看護師(役割)として看護を学びます。このように、4年間全体の「カバーストーリー」「役割」「使命」について設計を行います。その上で、各授業についてADDIEモデルを基に授業設計を行います。今回は、「呼吸・循環フィジカルアセスメント」について「分析」と「設計」の解説を行いました。第3回は「設計」における【授業の組み立て】そして「開発」のフェーズに進みます。
 

【引用文献】
1)根本淳子,鈴木克明編:ストーリー中心型カリキュラムの理論と実践,東信堂,2014
2)稲垣忠,鈴木克明編著:授業設計マニュアルVer2,p.54,北大路書房,2015

増山 純二

令和健康科学大学看護学部 教授 / 臨床シミュレーションセンター センター長

1994年長崎大学医療技術短期大学部卒業、長崎大学病院に就職(2004年救急看護認定看護師取得)、その後、2010年日本赤十字九州国際看護大学、2015年長崎みなとメディカルセンター(2016年特定行為研修修了)、2022年に現職。2006年独立行政法人大学評価・学位授与機構学士(看護学)、2010年熊本大学大学院教授システム学専攻博士前期課程修了(修士;学術)、2023年熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程単位取得退学、同年に博士(学術)取得。

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