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第17回:貨幣と労働の誕生と価値性、労働と職場環境の関係

第17回:貨幣と労働の誕生と価値性、労働と職場環境の関係

2022.10.11安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 この連載も前回(第16回)で社会システムと信頼・信用の形成を扱うようになり、いよいよ知的成熟が社会的側面をとらえるようになってきました。
 「信頼」「信用」という概念は、人が他者やものと関わるうえで不可欠なもので、記憶力や計算力のような基本的な演算力とともに、「思考の基盤」ともいえる能力でしょう。この連載の内容も「信頼」されていて、皆さんの「思考の基盤」として貢献できていれば嬉しく思います。
 さて、前回は「記録」の誕生を起点に「信用」が社会的に定着していったことについて述べましたが、信用には「貨幣」も非常に重要になります。そこで、今回はもう1つの「信用の基盤」ともいえる「貨幣」を扱おうと思います。記録が「事実関係や行為を保存するもの」であるとしたら、貨幣は「財産を保存するもの」であるといえます。
 人が今日の社会を形成するうえで欠かせないものとなった貨幣(報酬)の存在とその意味合いについて、また働く人のメンタルヘルスとの関連まで述べていくこととしましょう。

 

通貨は“通価“のための入り口

 これまで、人間社会が発達した理由の1つに保存可能な財産の誕生があり、記録によって財産の受け渡しや貸与を保存するようになったことを述べました。この「記録」という方法は、ある程度信用できる相手に対して行える便利な方法ですが、貸し借りの約束を守ってくれなさそうな人たちに対してはあまり有効ではないシステムになってしまいます。

 たとえば、普段から一緒に作業をしている同じ集落の人とだったら貸し借りはできるけれども、普段は一緒に作業をしない隣の集落の人は貸し借りをしても返してくれないかもしれない、というような疑いが生まれます。そこで、前回では触れませんでしたが、あまり信用度の高くない人たちの間でもできる財産の受け渡しの方法に「交換」という方法が登場します。お米と斧を交換したり、羊と槍を交換したりすることで、お米や羊がよくとれる集落と斧や槍をつくるのが上手な集落がお互いに交換してお互いに「得をする」という考えです。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

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長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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