人の知的発達とメンタルヘルスについて扱ってきたこの連載も、この回でついに20回となります。前回から人生の終盤を扱っていますが、いよいよ人生の店じまいを想定した人の精神性に関することをいくつか紹介していきます。
成長や発達を続けてきた青年期や、心身の成熟や推察によって対応してきた壮年期を経て、いよいよ心身の機能の衰えに加え社会的つながりを減らしていく時期を扱っていきます。
脳の機能の衰え
老年期には脳の機能も低下していき、とくに認知機能の低下によって、いわゆる認知症の状態になる人の割合も増加していきます。たとえば、東京都健康長寿医療センター研究所が行った調査では、 CDR(臨床的認知症尺度:Clinical Dementia Rating)による判定によって、東京都在住の百寿者における認知症有病率を推計したところ、 61.9%がCDRの評価によって認知症であると推計されています。ちなみに85歳から89歳の方々のおよそ40%が認知症であると推定されていますので、老いに伴う脳の機能低下はそれなりに多くの人に訪れるものと考えることができます。
なお、脳の機能のうちでも衰えやすい機能とそうでない機能があることがわかってきています。たとえば記憶の機能では、海馬が中心的な役割を果たしている短期記憶の機能は老化に伴って低下しやすいのですが、大脳皮質が中心的な役割を担っている長期記憶はあまり喪失されないことがわかっています。