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第15回:人間関係の複雑化と依存予防

第15回:人間関係の複雑化と依存予防

2022.09.13安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 この連載では、人間の知的発達を身体的要因や社会的要因の視点から紹介してきています。第12回では脳は情報の誤り等を補正する機能があること、脳も疲労や負担によって機能低下を起こすことがあることを紹介しました。第13回から第14回では、感情認知と衝動性に焦点を当てて、気晴らしとストレス対処は別に持った方がいいことなどを紹介してきました。
 さて、人間がほかの種族に比べて知的に成熟しているものの1つに、社会性や協調関係とよばれたりするものがあります。狩猟や農耕の時代から、人は一人では達成できないさまざまなことを、集団によって解決するという方法をとってきました。
 そこで今回は、人間の社会性の獲得の歴史をふまえながら、現代社会における「依存」などの精神健康上の特徴を紹介していきたいと思います。

 

言語を用いない協調関係

 いくつかの歴史的知見から、人は文字による言語を獲得する前から、協調関係や上下関係があったと考えられています。というのは、縄文時代のいくつかの遺跡には、文字をまだ持っていないと思われる時代の遺跡が残されているのですが、個人や家族単位の人数では到底作れない規模の建物があったことが示されています。「建物を作る」という行為を実現するには、設計や材料収集、実際の建築行為などのいくつかの工程が必要です。これらの工程を計画して遂行するリーダーシップのような能力と、そのリーダーシップをもつ人に協力する複数の人たちがいる、というような協調関係のある集団が必要です。
 縄文時代の人々が音声による意思伝達方法を有していたのかどうかはわかりませんが、もしも音声による意思伝達ができたとしても、他者の行動を観察して推察するメタ認知能力(→第6回第11回などを参照)が必要であったことでしょう。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

企画連載

人間の知的発達と精神保健

長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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