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第12回:脳の疲れとその影響

第12回:脳の疲れとその影響

2022.07.12安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 この連載も10回を超えまして、身体的にも社会的にも大人になった人達の知的成熟とメンタルヘルスについて紹介するようになっています。前回(第11回)から成人期以降の知的発達を扱っていますが、「発達」というより「成熟と適応」という表現のほうが似つかわしいのかもしれません。
 学齢期はどこまでも成長を続けるような感覚になりやすいのですが、成人期は身体的にも社会的にも完成度の高い状況になります。そのため、「自分を成長させる」というよりは「自分とうまく付き合っていく」という感覚への転換が起きる時期です。
 子どもの頃は感じなかったような感覚や考え方が大人になると生まれてくるようになりますから、そのような感じ方の変化によって「大人」を感じるのかもしれません。
 さて、今回は、大人になるまでに見方が変わってくる「ストレス」に関する感じ方の変化を、脳の誤作動との関係から紹介していきます。

  

ワーキングメモリーによる二重チェック

 不注意による誤りを「ケアレスミス」とよくよびます。子どもの頃は多くの子どもにケアレスミスが生じますが、大人になるとだいぶケアレスミスが減ります。このようなケアレスミスの減少は、ワーキングメモリーとよばれる、自分の行動履歴に関する記憶を一定期間保持する能力によって起こります。
 ワーキングメモリーとは、よりわかりやすくいうと自分が行った行動や自分が思考した過程に関する作業記憶のことをいいます。この作業記憶(ワーキングメモリー)は、第10回第11回で紹介した大脳皮質の前頭前野とよばれる部分が活性化されることや、大脳基底核の機能などによって起きていると考えられています。
 前頭前野の機能の向上とともにワーキングメモリーの機能も向上していきますから、子どもの頃に不注意によるミスが多かった人でも、大人になる頃にはだいぶ不注意によるミスが減少することが予想できます。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

企画連載

人間の知的発達と精神保健

長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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