この連載も10回を超えまして、身体的にも社会的にも大人になった人達の知的成熟とメンタルヘルスについて紹介するようになっています。前回(第11回)から成人期以降の知的発達を扱っていますが、「発達」というより「成熟と適応」という表現のほうが似つかわしいのかもしれません。
学齢期はどこまでも成長を続けるような感覚になりやすいのですが、成人期は身体的にも社会的にも完成度の高い状況になります。そのため、「自分を成長させる」というよりは「自分とうまく付き合っていく」という感覚への転換が起きる時期です。
子どもの頃は感じなかったような感覚や考え方が大人になると生まれてくるようになりますから、そのような感じ方の変化によって「大人」を感じるのかもしれません。
さて、今回は、大人になるまでに見方が変わってくる「ストレス」に関する感じ方の変化を、脳の誤作動との関係から紹介していきます。
ワーキングメモリーによる二重チェック
不注意による誤りを「ケアレスミス」とよくよびます。子どもの頃は多くの子どもにケアレスミスが生じますが、大人になるとだいぶケアレスミスが減ります。このようなケアレスミスの減少は、ワーキングメモリーとよばれる、自分の行動履歴に関する記憶を一定期間保持する能力によって起こります。
ワーキングメモリーとは、よりわかりやすくいうと自分が行った行動や自分が思考した過程に関する作業記憶のことをいいます。この作業記憶(ワーキングメモリー)は、第10回と第11回で紹介した大脳皮質の前頭前野とよばれる部分が活性化されることや、大脳基底核の機能などによって起きていると考えられています。
前頭前野の機能の向上とともにワーキングメモリーの機能も向上していきますから、子どもの頃に不注意によるミスが多かった人でも、大人になる頃にはだいぶ不注意によるミスが減少することが予想できます。