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授業づくりに悩む看護教員に伝えたいー学生とのやりとりを楽しむ授業づくりのポイント

授業づくりに悩む看護教員に伝えたいー学生とのやりとりを楽しむ授業づくりのポイント

2023.10.18新井 英靖(茨城大学教育学部 教授)

 社会の変化にともない、ますます増大・多様化している看護へのニーズに対応すべく、看護基礎教育のあり方も変化し続けています。そんな中でも変わらない“看護の本質”を授業を通していかに伝えるか、授業づくりに日々頭を悩ませている先生がたもいらっしゃるのではないでしょうか。
 今回は、長年看護教育に携わり、「主体的に考える看護学生」を育むことをテーマにした数々のご著書がある新井英靖先生(茨城大学教育学部)に、授業づくりのポイントについてご寄稿いただきました。(NurSHARE編集部)

はじめに―授業づくりの心構え

 筆者が看護学校の授業を参観するようになってから20年が経過しました。この間、時代に合わせて授業のスタイルは多少変化していますが、看護学校の授業を参観すると、「看護の本質」を何とかして学生に伝えていきたいという教員の熱意は変わらぬものがあり、私のほうもいつも刺激をもらっています。その一方で、授業で提供できる方法が少ないせいか、「教える(説明する・伝える)」という行為が強く出すぎて、一方的に伝達しているようにみえる授業を見かけることも多くあります。

 この点については、授業をしている先生方も十分に感じ取っているようで、そうした先生方からは、「一方的に話す時間が長くなると、学生が居眠りを始めてしまうので、何とか授業を工夫したい」という相談を受けます。筆者はこうした質問を受けたときには、授業づくりの技とコツを時間がある限り話すようにしていますが、その前に「学生とやりとりを楽しんでください」という心構えをお話しするようにしています。
 もちろん、先生方からは「それができれば、良いのですが・・・」と返答され、この心構えをすぐに受け入れてもらえることばかりではありません。しかし、筆者は「幾多もある授業づくりの方法論は少なくとも『学生とやりとりを楽しむ』ための技術の集積である」ということを伝えるようにしています。

授業に「流れ」をつくる

 そこで、「学生とやりとりを楽しむ」ための授業方法のいくつかを紹介していきます。まず、「授業の導入」では、筆者はよく「学生に驚きや疑問を生じさせる問いが大切です」と話しています。これは、学生が授業(あるいは教材)を通して、「先生、それはどうしてなの?」と聞いてみたくなるような「流れ」を創り出すという意味です。

 たとえば、「食事の意義」について取り上げる基礎看護学の授業で、「人はどうしてご飯を食べるのでしょう?」という問いを学生に投げかけたとします。学生からしてみれば、看護学校に入学して、専門的に学ぼうとしている授業の冒頭で、「先生はどうしてそんな当たり前のことを聞くの?」という疑問が生じるでしょう。そのようななかで、教員から指名され、回答を求められた学生は、「食べないと死んでしまうから」といった「(学生からしてみれば)当たり前の回答」をしたとします。
 その回答を受けた教員は、「そういう理由も当然あるよね。私たち看護師はそれを生理的意義と呼んでいます。」と話したうえで、「それでは、死なない程度に空腹が満たされれば、食事はそれで良いのでしょうか?」というように、さらなる問いを投げかけて、学生の思考をゆさぶっていきます。
 このように、授業の冒頭で教員が2つの問いを学生に投げかけただけで、すでに学生と教員の「やりとり」がはじまります。このように、授業とは「問い」を学生に投げかけ、学生が考えるということの繰り返し(「やりとり」)によって進んでいくものです(図1参照)。

図1 教員と学生の「やりとり」を通して進む授業づくり

「ゆさぶり」「試行錯誤」を通して深く学ぶ 

 ただし、この「やりとり」は固定したシナリオの通りに進めていくのではなく、試行錯誤があるほうが、学生の学びは深まります。
 たとえば、前節で取り上げた「食事の意義」に関する授業で、「心理的意義」を考えてもらおうと、「入院している高齢者は、『一人で食事をするのはさみしい』とよく口にします」という話題を出したとします。
 こうした話を学生にすると、中には「一人のほうが落ち着いて食事ができて良い」と考えている学生も出てきます。こうした素朴な意見を持つ学生に対して、「高齢者はそうではないから、病室でそんなこと言わないように」とくぎを刺すように押さえつけたのでは、学生の思考はそこでストップしてしまいます。そうではなく、重要な意見として取り上げ、多少、時間を割いても議論してみる価値はあると思います。それは、入院している高齢者と若い看護学生の間の価値観の違いを意識することが学生の学びを深めることにつながるからです。当然のことではありますが、入院している高齢者と若い看護学生は、生きてきた時代が大きく異なるので、食事のとらえ方が違うことは、むしろ自然なことです。授業では、そうしたギャップをあえて取り上げて、「食事の心理的意義」を考えることになります。

 もちろん、学生を「ゆさぶり」「試行錯誤」をさせる場合には、迷わせて終わるのではいけません。看護教員が「入院している高齢者」の側に立ち、現代を生きる若い学生が「高齢者の思い」を想像できるように授業を進めていくことが重要です。そうした授業展開のなかで学生が「大勢で楽しく食事をしてきた過去の人生」にふれて、高齢者の「思い」に寄り添えるようになることが、「食事の意義」を深く学ぶことにつながると考えます。
 クラスによっては、想定した通りに学生が意見を出してくれないこともあるでしょう。こうした場合には、「~のように考えることもできるし、・・・のような意見もあるかもしれませんね。」というように、多様な考え方を教員のほうで提示して、それをもとに意見を出してもらうように授業を進めていくと良いでしょう。また、学生を指名するときに、「間違っても良いから、思っていることを話してみて」など、安心を感じられるなかで「やりとり」が成立するように授業を進めていくことも必要です。

授業にヤマ場をつくる

 上記のように、教員と学生が「やりとり」をするように授業を進められるようになったら、次に考えることは、授業に「ヤマ場をつくる」ということです。たしかに、教員から投げかけられる「問い」が次々と学生の思考を呼び覚まし、問いに対する回答を考え続けたら授業が終了した、というような授業ができれば理想的です。しかし、「問答」を繰り返すだけでは学び手は疲れてしまったり、飽きてしまうことも考えられます。そこで、「書く」とか「まとめる」というような学習活動を加えて、授業展開にアクセントを持たせることが効果的です。

 このとき、「今、出された意見をワークシートに記入してください」というだけの活動だと、学生の思考は活性化しません。そのため、「ほかの人と話し合ってみたい」とか、「ほかの人はどのような意見をもっているのだろう?」と学生が思うような活動を用意することが必要になります。
 たとえば、「食事の意義」の授業では、高齢者が「一人で食事をするのはさみしい」と話している高齢者を取り上げて、「病室でそういう言葉をつぶやく高齢者がいたとき、あなたはどのように応答しますか?」という課題を出し、グループで話し合わせるといった活動が考えられます。このとき、ワークシートには、具体的な場面をイメージできるようなイラストを用意して(それは図2のような模式的なものでもかまいません)、具体的にグループでセリフを考えさせ、何パターンかを記入させてみます。そうすると、授業は教師との問答から抜け出し、違うかたちで学びをさらに深めることができます。授業の中でこのような盛り上がる時間(ヤマ場)を一つ作ることで、学生はそれまでとは違った視点から「食事の意義」を考え、深めていくことができます。

図2 具体的な場面をイメージさせる模式図の例

学生が「考える」ための余白を残す

 ここまで述べてきた授業づくりの方法論に関して、もし、「コツ」のようなものがあるとしたら、それは、「授業の中に学生が考えるための余白を残す」ということであると考えます。
 授業づくりに悩む看護教育の先生方と話をしていると、到達したい目標に向かって、話す内容を理路整然と並べて授業を進めていこうとしている傾向があるように思います。そうした先生は、今回、筆者が例示した授業方法を勧めても、「やってみようと思っても、授業の時間がなくなってしまう」という理由から、なかなか採用してもらえないことが多くあります。
 たしかに、限られた時間のなかで、多くの学習内容が用意されている看護教育においては、いかに効率よく内容を伝えていくかという点に意識が向くことはとても理解できます。しかし、学生が考えるための「余白のある授業」というものは、教師の問いかけによって、その余白を自ら埋めていくことが求められます。そのため、学生は、余白を埋めるために主体的・対話的に思考を働かせるようになり、結果として知識が定着することにつながります。これは、私たちが学校教育で漢字や英単語を覚えるときに、授業で「見て、聞いた」というだけではすぐに忘れてしまうけど、手で書いてみたことは記憶に定着するというのと同じ原理です。
 このように考えると、授業の「本質(エッセンス)」につながることについては、ある程度の時間を割いて、教員や共に学ぶ友達と「やりとり」し、「まとめ」「発表してみる」といった学び(アクティブ・ラーニング)を展開することが有効です。

おわりに

 新しい教育方法にチャレンジすることは勇気がいるかもしれませんが、こうした授業が展開できるようになると、多くの教員から「授業づくりが楽しくなった」という声が聞かれるようになります。できるところからで良いので、試行錯誤しながら、学生と「やりとり」し、学びを深める授業づくりをはじめてみてください。

新井 英靖

茨城大学教育学部 教授

あらい・ひでやす/東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、東京都立久留米養護学校教諭を経て,2000年に茨城大学教育学部講師となる。2011年に博士(教育学)となり,その後,同大学准教授を経て現職。日本特殊教育学会編集員なども務める。趣味は野球観戦。

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