看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

看護人間工学会が目指すこと:安全で効率的な看護現象の探求

看護人間工学会が目指すこと:安全で効率的な看護現象の探求

2022.10.05水戸 優子(神奈川県立保健福祉大学 教授)

 新投稿企画「わたしたちの学会・研究会」がスタートしました。
 本企画は、ご自身の所属する学会や研究会・勉強会などについてNurSHARE会員の先生方にご紹介頂くというものです(詳細はこちらの掲示板をご覧ください)。「自分の所属学会をもっと多くの先生に広めたい!」「コミュニティの魅力を発信してメンバー増につなげたい」という先生方のご投稿をお待ちしております。(NurSHARE編集部)

 

 看護人間工学会の初代理事長をしております水戸優子です。このたび看護教育のための情報サイト「NurSHARE」で本会の紹介をさせていただけることになり、大変感謝申し上げます。
 本会を知っていただき、ぜひ、その知識や方法をみなさんの看護実践や研究、教育に役立てていただけると幸いです。

1.設立の経緯:新しい、でも知識の集積を持つ看護人間工学会

 看護人間工学会は2019年5月1日、まさに令和元年の初日に設立宣言をしました。下に掲載したポスターの写真は、日本の開国に影響を与えたペリー来航の浦賀水道です。日本の看護界に大きな影響を与えるイメージで私が作成したものです。設立4年目の現在の会員数は約90名で、まだ知名度の低い学会であります。ですが、毎年学術集会を開催し、学会誌の発行、ホームページやメーリングリストからの情報発信を積極的に行っています。

 看護人間工学会の前身は、日本人間工学会・看護人間工学部会であり、1992年から2019年4月までの26年間、活動が行われました。
 初代部会長の大河原千鶴子先生によると「(看護人間工学部会の)設立の趣旨は看護人間工学に関わる研究を通して会員相互の研究活動の推進と活性化をはかることであり、会員の自主性・主体性を重視すること」1)であります。その設立のきっかけは、そのころ看護の大学化が進みはじめた時期であり、その準備において、人間と環境に関わる科学的、実践的な学科目として人間工学を取り入れることの必要性があったこと、また、人間工学の研究手法を用いて看護現象に関わる基礎資料を作成することの必要性が高まったことであったと述べられています。
 その後、研究部会でありながら第26回まで講演会および研究発表会を開催、第19巻まで学会誌を発行しておりました。この実績をみていただいても、前身の日本人間工学会・看護人間工学部会での知識の集積が、今日の学問としての看護学、大学教育の基盤をつくったことに貢献したといって過言ではないと思います。そして、令和元年、「自主性・主体性」を発揮するための準備が整い、機は熟したということで大きな親学会である日本人間工学会から独立し、看護人間工学会(以下、本会)を設立しました。

2.看護人間工学会の目指すところ

 看護人間工学部会による知識の集積を引き継いだ本会ではありますが、令和の新しい風、流れを取り入れたいと考え、以下のような目的、基本方針を掲げています(本会ホームページ参照)。

 看護人間工学会の目的は、看護人間工学にかかる研究を通して会員相互の学術・学際的研究活動の推進に寄与し、その成果を社会に還元することです。また、看護人間工学会の基本方針は次の4つです;

  1. ケアの受け手(当事者)目線を持つ者であれば、できるだけ職種・立場を制限せず広く、会員として受け入れる。
  2. ケアの受け手にも提供する者にも優しい人的・物的環境、労作の効果効率性、ケアシステムを探求する。
  3. 常に看護人間工学とは何かを学術的に探究する。
  4. 社会への啓蒙活動、成果の還元を積極的に行う。

 この4つの基本方針に従って、現在の会員は、看護や工学系の研究者、教育者、実践者が多いのですが企業の方も入会してくれています。また、学生会員もいます。
 看護人間工学会が扱っているテーマは、看護現象において、「安全・安心」「労作の効果・効率」「創る」「工夫する」「測る」「実験する」といった概念が入っていれば、すべて対象になります。私自身は、「看護を工夫したい!」と思っている方には、ぜひ、本会に関心を持っていただきたいです。一方、「測るとか、実験なんて無理!」と思っている方にもぜひ、興味を持っていただきたいです。なにせ、本会は「人に優しい」を大切にしていますので、はじめてでも、その人の考えに寄り添い一緒に考える会員がつどっています。

3.最近の活動:学術集会のテーマの紹介

 ここからは、これまでに行われた学術集会での講演テーマの傾向から、本会を知っていただきたいと思います。第1回から第4回までの学術集会での特別講演・教育講演のテーマは以下の通りです。

第1回 特別講演「企業と看護の研究者が融合したらこんな形になった-壁から飛び出したトイレ手すりの開発秘話-」
第2回 特別講演「人とロボットとの絆?看護にみる人型ロボとのインタラクション」、教育講演「気軽に実験しませんか」
第3回 招待講演「看護教育における人間工学の役割を考える」、教育講演「気軽に実験しませんかPartⅡ」
第4回 教育講演①「VRが拓く医療者教育の可能性」、教育講演②「気軽に実験しませんかpartⅢ」

 講演テーマをみますと、まさにモノづくりの視点や、看護人間工学の教育に力を入れていることがお分かりかと思います。また、「気軽に実験しませんか」の教育講演は、シリーズ化しており、実験計画書の作成から、人の動きや圧力を測るセンサーを使った実験の様子をリアルにみることができます。
 第2回学術集会以降は、コロナ禍でオンライン開催なのですが、むしろ、各演者の研究室での実験の様子を詳細に視聴することができました。そして、講演発表や実験の様子が、その年度末に発行される『看護人間工学会誌』に掲載されるのもタイムリーな情報発信になっているのではないかと考えます。

第1回学術集会の概要
第4回看護人間工学会学術集会(令和4年9月23日開催)
外村昌子(森ノ宮医療大学)学術集会長講演の様子
 第4回看護人間工学会学術集会 教育講演②「気軽に実験しませんかpartⅢ」で、演者(能登裕子先生 九州大学)が、モデル人形を使いながら看護動作の接触圧測定をデモンストレーションしている様子。
 会場参加者45名、オンライン参加者35名の合計80名以上の参加があり、参加者は、直接でも画面越しでもデモンストレーションの様子を見ることができた。 

 

4.もっと看護人間工学を知りたいあなたのために

看護人間工学会のホームページ(トップページ)
 

 最後に本会のホームページを紹介したいと思います。本会のホームページは、「看護人間工学」のキーワードですぐ検索できます。そこでは、学術集会の様子を中心に情報発信がなされているのですが、この度、看護人間工学をもっと知ってもらうためのEラーニングを開始しました。といっても、小さな学会ですので、動画を手づくりしてYouTube🄬にアップし、それをホームページから動画配信する仕組みです。
 現在は、小川鑛一先生(元東京電気大学)のゼミシリーズとして、人間工学と看護人間工学についての講義と質疑応答を掲載しております。小川鑛一先生は、本会の会員番号1番であり、長年、看護学生に向けて人間工学を教授してくださいました。その教授内容を本会ホームページから無料で見られるのは、とてもお得な感じです。なお、その他の看護人間工学に関する情報、動画も準備ができ次第配信していきます。ぜひ、皆様に視聴していただき、より興味がわきましたら学会員になって、一緒に看護人間工学を探究していただけると幸いです。
 

小川先生のゼミ動画配信の様子
 
1)大河原千鶴子:まえがき,看護人間工学研究誌,1,p.1,1998.

水戸 優子

神奈川県立保健福祉大学 教授

みと・ゆうこ/北海道大学医療技術短期大学部看護学科卒業後、北海道大学医学部附属病院に勤務。その後、聖路加看護大学(当時)編入学、同大学大学院博士前期課程、博士後期課程修了。博士(看護学)。札幌医科大学助手、東京都立保健科学大学(当時)講師、神奈川県立保健福祉大学准教授を経て、2012年より現職。看護人間工学会理事長、日本看護技術学会理事。著書は『看護学テキストNiCE基礎看護技術 改訂第3版』(2018、南江堂)[分担執筆]、『計画・実施・評価を循環させる授業設計』(2016、医学書院)など多数。座右の銘は「ガールズ ビー アンビシャス!」。

企画投稿

わたしたちの学会・研究会

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。