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第43回:時間と経験をかけてたどりついた「私の考える看護とは」

第43回:時間と経験をかけてたどりついた「私の考える看護とは」

2026.06.11黒田 暢子(常磐大学看護学部 准教授)

 私は、将来のなりたい職業を考えた時、「人と関わる仕事がしたい」と漠然した言葉が頭に浮かび、大学で心理学を学びたいと思っていました。しかし、紆余曲折ありご縁があったのは、短期大学の看護学科で「看護師」を目指す道でした。「看護師」は「人と関わる仕事」の選択肢のひとつでしたが、自信がありませんでした。自分に目指せるだろうかと迷いましたが、父の強い薦めがきっかけで進学を決めました。

 このように、決して志の高くなかった私が看護教員になるとは、全く想像できなかった未来です。本当にとても不思議なのですが、多分「私の考える看護とは」の答えを探しているうちに、たどり着いた結果ではないかと思います。そこで、どのようにして「今」にたどり着いたのか、ここで振り返ってみたいと思います。

働きながら探すことにした「私の考える看護とは」

 学生生活3年間は、迷うことなく看護師になるための講義、演習、実習に取り組んでいました。友人も積極的に学ぶ人が多く、それなりに充実した学生生活であったと思います。学修が進むにつれて、看護師は「人の役に立つ仕事」「やりがいのある仕事」だと理解できました。でも、“自分はどのような看護を行いたいのか”というイメージは浮かばず、就職先を考える時も具体的に働きたい領域は思いつきませんでした。そこで、配属された場所を出発点とし、働きながら「私の考える看護とは」についてみつけたいと考え、実習病院であった総合病院を就職先に選びました。

 最初の配属先は手術室でした。1年目は直接介助看護師として、使用する手術器具の名前や術式の手順を把握し、手術が安全でスムーズに進むよう医師に正確に手術器具を渡すことに慣れるだけで精一杯でした。そのため、「私の考える看護とは」に関して意識が向くようになったのは、患者と接する機会がある間接介助看護師業務の機会が増えてきた2年目になってからでした。その後、様々な看護領域を経験したいと思い、6年目に呼吸器内科をメインとした病棟に移動し「私の考える看護とは」の答えを探しました。そして、ある患者、Aさんとの出会いがきっかけとなりました。

これまでの看護観が変わった出会い

 Aさんは高齢の女性で、良性の呼吸器疾患で慢性的な経過をたどり、私が病棟でAさんに出会った時には、在宅酸素療法が導入され、鼻カニューレにて持続的に酸素を吸入していました。生活に不自由さはあったものの、明るい性格の方でいろいろな話をいつもしてくださっていました。
 検温で訪室したある日のこと、Aさんから現在の趣味についての話がありました。「私は今、お茶を習っているの。もちろん、この年齢でお茶の先生になろうと思っていないわ。じゃあ何のために習っていると思う?」と問いかけられました。私はまったく思いつかず、「なぜですか?」と尋ねると、「高価なお茶の器に触れることができるから。“本物”に触れることで、心が豊かになる。私にとって意味があるのよ」と教えて下さいました。健康レベルに関わらず自分の生活の質を大切にしたいと考え行動する姿勢に対し、私はとても感銘を受けたことを覚えています。
 それまでの私は、「(何らかを)相手に提供すること」が看護であると考えていましたが、実際は先述のAさんのエピソードのように「患者から提供していただくこと」も多いことがわかり、看護をする上で、一方的な視点にならないことが大切だと学びました。

 その後、看護を考える上で「心の健康」について学びたいと徐々に考えるようになり、10年余りの病院勤務の後、大学院修士課程にて「健康心理学」を専攻しました。病院を退職しての進学だったため、大学院在籍中に、呼吸器内科クリニックでの外来看護や、認定看護師教育課程(手術看護)の実習指導などを経験しながら、看護について視野を広げる時間になりました。

大学教員として教えることでたどりついた「私の考える看護とは」

 このように、学生時代から私はずっと「私の考える看護とは」について、答えを探しながら看護の仕事をしてきました。そしてその答えを明らかにするために、新たに看護に関わる仕事として考えたのが「人に教えること」でした。そこで、大学院修士課程終了後、大学教員となり看護基礎教育に関わるようになりました。
 初学者である学生に対し、根拠(知識)をもって実際の経験と合わせながら、意味が伝わるよう看護を「教えること」は、難しさと楽しさの両方が含まれていると感じています。学生にとって「学び」での楽しさの割合が増えるよう、授業や実習指導を行っていきたいと感じ、日々教育に取り組んでいます。

 学生に看護を教える中で、先述のAさんのエピソードで得た視点を大事にしつつ、学生に理解しやすいように言語化を繰り返しました。そのうちに、「私の考える看護」にたどり着いたと思います。一方的に提供するだけが看護ではなく、「対象者やその家族に対して隣に立ち寄り添いながら、時に後ろから背中を押し、時に前に立ち手を引きながら前に歩いて行けるよう支えること」が、「私の考える看護」になりました。

学生と共に学び教員として成長していく

 病院では患者との相互関係の上に「看護」が成り立つことを経験し、加えてそれは互いの成長にもつながっていたのだと思います。同様に、大学では学生と教員の相互関係の上に「教育」が成り立つだけでなく、学生と教員の互いの成長にもつながっているのではないかと考えています。
 今後も学生と教員の相互関係を大切にしながら、教育に携わり看護の楽しさを伝えていきたいと思います。

黒田 暢子

常磐大学看護学部 准教授

くろだ・まさみ/東京都立医療技術短期大学看護学科卒業後、国家公務員共済組合連合会虎の門病院に入職。手術室、呼吸器内科等混合病棟等で勤務。病院入職中に大学評価・学位授与機構にて学士(看護学)を取得。その後、桜美林大学大学院国際学研究科人間科学専攻健康心理学専修(健康心理学修士)を修了。2007年茨城県立医療大学保健医療学部看護学科に助教として入職し、2018年より現職。現在、茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科博士後期課程に在籍中。また、指導健康心理士を取得している。趣味は好きなアーティストの舞台鑑賞やライブに行くこと。

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