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第47回:学生の学習環境を整えて最大限の気づきと学びを与えたい

第47回:学生の学習環境を整えて最大限の気づきと学びを与えたい

2026.10.08櫻井 美奈(共立女子大学看護学部 基礎看護学領域 准教授)

 気が付けば看護教員歴20年になった。私はこの仕事が好きだ。学生の純粋さや感性に驚かされたり、思わぬ間違いにほっこりしたり、高い能力に圧倒されたり、本当に面白い。入学から卒業まで継続して成長を見守れるのも、時には看護師として働く姿を見るご褒美を得られるのも嬉しい。看護を語られた時には、もう泣けてくる。今回、そんな私が影響を受けた出来事と今の思いを紹介したい。

誇れない看護学生時代

 小学生の頃に思い描いた将来の職業は教師、そして看護師だ。今から思えば、小さな世界で知り得た職業の中で、人とかかわりを持ちながら何かを与えることのできる仕事を選んだのだと思う。小さな自分が言葉にした将来の夢に親は賛同し、何となくレールが敷かれた。教師のレールには姉が乗った。すると私は教師のレールを塞がれた気持ちで看護師に舵を切った。
 一人暮らしをしながら都立の短期大学に通った。決して真面目でも優秀でもない学生だった。最初の臨地実習では全身に蕁麻疹が毎朝出た。限界だと思い、ある朝、5時に父親に電話をした。「お父さん、実習休んでもいいかな」。父が答える。「みなちゃん、何もしなくていいよ。何もしなくていいから、行くだけ行っておいで」。満員の千代田線に乗って何とか実習先の病院に行った。明らかに生気のない私に、看護教員は何も聞かず、「ここに座ってなさい」とナースステーション内のシャーカステンの前に座らせてくれた。そのまま初めての実習が終わった。ただただ辛かった。そんな私だったが、学年が進むにつれ実習にも慣れ、周りに助けられて看護師になった。決して誇れるような看護学生ではなかった。

教員への関心への再燃

 卒後は都立大塚病院に入職しNICUで働き始めた。働き始めると直ぐに自分の知識不足を感じた。解剖生理、疾患・病態・治療・・・無知が患者の命を脅かす。学生時代にもっと真面目に勉強をすればよかった。そんな後悔は私を大学の編入へと導いた。学部4年生の夏になり、卒後の進路を考えあぐねていた時に、「看護キャリア開発」と書かれた大学院の募集パンフレットが目に入り、これだと飛び込んだ。
 看護キャリア開発やキャリア発達に興味を持った私は、ゆくゆくは院内での看護継続教育に携わりたいと入学時に考えていた。やりがいを感じ、活き活きと働く看護師たちで溢れてほしいと思っていた。だから、何が看護キャリアを発達させるのかを知りたいと研究していた。そんな中で、インタビュイーであるN副看護部長の「看護基礎教育課程での看護教員との出会いが私のキャリア発達の基礎となった。知的好奇心が喚起され、そこで探求の楽しさを発見した」という語りが、私を看護教員の道へと引き込んだ。幼少の頃の教師への関心、プリセプター時代の後輩指導での手ごたえや作成資料を医師に褒められた体験も、私の背中を押した。そして、私は修士課程を修了後、新設大学の看護学部で助手として働き始めた。

教員の役割は学生の学習環境を整えること

 看護教員になるための教育を受けたわけでもなく、学生指導に携わった経験もないままに基礎看護学領域の助手として働き始めた。新設大学だったため、在校生は1年生のみで時間にゆとりはあったと思うが、何もかもが初めての私にゆとりはなかった。看護教員として「正しくあること」「正しく導くこと」を意識し、間違いがないようにと学生に関わっていた。学内では先輩教員に確認しながら学生と関われるため大きな困りごとはなかった。しかし、臨地実習では教員毎に病棟指導にあたるため、即時の相談相手はおらず、適切な教員役割がとれているのか不安を感じていた。
 教員2年目となると在校生が増え、さらに忙しくなった。ある日の病棟実習の朝、一人の学生が走って病院の学生更衣室に入ってきた。更衣室には応援教員である准教授のS先生がいらした。遅刻しそうと慌てている学生にS先生は「慌てないでいいから、ゆっくり着替えて病棟にいらっしゃい」と声をかけた。学生は顔を上げS先生を見て一呼吸し、「はい」と答えた。すぐ傍にいた私は、その声かけに衝撃を受けた。私なら「急いでね」と言ってしまう。S先生は、学生が実習に落ち着いた気持ちで取り組み、最大限の学びを得られるように、声をかけたのだろう。臨地実習における教員の大きな役割は学生の学習環境を整えることだ。ちょっとした声かけ一つに、教育としての目的・目標があるのかどうかが表れていた。「あー、そうか、これが教育的であるか、そうでないかの差なのか」「看護と一緒だ」と思ったのだ。

 今でも「学生の学習環境を整える」役割への思いは変わらない。心理的な学習環境がきっかけであったが、「学習環境」には物理的な環境はもちろん、社会的環境やインストラクショナルデザインの活用なども含まれる。知識を伝達する授業をするのではなく、考える楽しさを知ってほしい、考えるためには知識が必要だと理解してほしい、自分自身で学びを深められる人を育てたい、と願い、授業を設計し、学習環境を整えている。

学生が整える学習環境

 教員側が環境を整えるばかりではない。学生にも学習環境を整える大切さを知ってもらう。例えば、学生の初めての臨地実習オリエンテーションでは、「学生らしい身だしなみを」「失礼のない態度を」「挨拶はしっかりと」と説明をする前に、「どんな後輩であれば、『面倒を見てあげたいな』『教えてあげたいな』と思えるか」と導入し、具体的に考えてもらう。「身だしなみも非言語的コミュニケーションの一つ」「マナーは自分の学習環境を整えるためのスキル」「自分たちで整えられる学習環境がある」と理解が進むと学生の行動が変化する。

「みんなちがって、みんないい」

 このように語っていても、この仕事が果たして私に向いているのだろうかという思いはある。しかし、かつての上司で、恩師のような灯台のような存在のA先生が、体調を崩して入院をされた後にこんな話をしてくれた。「最初はね、自分では動けないし、もうつらくて、つらくて。そこに、とっても気の利く看護師さんがいてね。本当に、ありがたくて。その人を見ると安心するの。あー、よかった。今日はこの人だーって」「でもね、自分が回復してくるでしょ。そうすると、今度は、その気の利く人が煩わしくなってしまって。ちょっと前までは、なんだかなーって思っていた看護師さんがちょうどよくなるの。面白いわねー」「色々な看護師がいていいのよね。ちょうどいいの。誰かが誰かに響くの」。
 私はこの言葉を聞いて、自分が教員でいることを許されたような気がした。違っていいんだな、違うからいいんだな、と。誇れない看護学生時代を送った私だからこそ理解できる学生の思いもあるはずだと。私ができることはとても少ないだろう。でも教育も看護と同じ、チームで行うものだ。卒業した学生たちが、人生にやりがいを感じ、自ら学びながら、活き活きと働く看護師になることを願っている。

櫻井 美奈

共立女子大学看護学部 基礎看護学領域 准教授

さくらい・みな/都立医療技術短期大学にて看護師資格取得。都立大塚病院にて看護師。短大卒業後6年目に東京大学に編入、保健師資格取得。神戸市看護大学大学院にて看護学修士。神奈川県立保健福祉大学にて基礎看護学領域の助手、自治医科大学にて講師。夫の仕事に付き添い海外で2年過ごし2012年帰国。首都大学東京にて非常勤講師・特任准教授を経て、2014年に共立女子大学にて准教授として着任、現在に至る。趣味はヨガと筋活、ペットの黒柴を少し離れて観察すること。(イラストは、写真から生成AIで作成)

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