看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

  • トップ
  • 記事・コラム
  • 企画
  • 第6回(最終回):コンセプト・ベースド・カリキュラム(CBC)導入から3年間の評価と今後の取り組み
第6回(最終回):コンセプト・ベースド・カリキュラム(CBC)導入から3年間の評価と今後の取り組み

第6回(最終回):コンセプト・ベースド・カリキュラム(CBC)導入から3年間の評価と今後の取り組み

2026.01.14上久保 礼子(泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者)

 今回は最終回になります。本校の教員間で新カリキュラムの3年間を振り返るカンファレンスを実施しましたので、その中から出てきたコンセプト・ベースド・カリキュラム (CBC)導入による学生や教員の変化、本校の現状と課題などについて報告させていただきます。

CBC導入による変化

教育に対する考え方の変化

 従来の知識偏重の教育では、たくさん知識を詰め込んでいても、実習でその知識をうまく関連づけて使えないことが課題でした。旧カリキュラムでは、在院日数の短縮化が進むなかで、従来の看護過程の展開を中心とした実習指導に教員たちは限界を感じていました。
 一方でコンセプト学習では、コンセプトによって具体的な事実を抽象化することで、学生の思考の自由度が高くなり、バラバラな情報をつなぎ合わせることが可能となります。
 たとえば、「患者の体温が37.3℃である」という事実を「体温調節」というコンセプトに抽象化します。すると、人間の体温が上がる一般的な原因である感染・炎症・ストレス・ホルモンの影響・脱水などの原因が学習した知識から思い浮かびます。そのうち、目の前の患者はどの状態に当てはまるのか考えるときに、これまでの経過で手がかりになる情報は何か、そしてどんな追加情報があれば、推論を確定できるか考察できるようになります。多様な事象と知識の関連付けや予測が可能になり、学生の思考に主体的な「動き」が生まれます。こうした思考のパターンは、「別の患者の体温が上がった」などの新たな状況や文脈へと転用できるようになるのです。CBC導入後は、一つのコンセプトを深く理解し、多面的・批判的に思考する能力の育成を重要視するよう、教員の意識も変化してきています。

教員間・実習指導者との連携と学びの共同体の構築

 コンセプト教育の成功には、教員全員がコンセプトについて共通理解と関心を持つことが不可欠です。教員研修や学習会などを通じて、常に確認しあいながら連携していく必要があります。ときどき、教員同士でロールプレイやシミュレーションを実践して、学生に提示する前に教員間での差がないかなどを確認しています。コンセプトは抽象的な概念であり、それぞれの認識が少しずつズレてくるリスクは常にあるからです。しかし、「じゃ、みんなで一回やってみましょう!」と気軽に実習室に行って演じてみたりできることが楽しく、毎回新しい発見や気づきが生まれてきますし、それぞれの教員の強みや弱み、チャーミングな部分などが見えて笑いがあふれる場面にもなります。
 また、本校は実習施設に大変恵まれており、CBCの導入にも協力的で、合同指導者会議や学習会など、学校が主催する会議や研修にたくさんの実習指導者さんが参加してくださっています。みなさん熱心に新しいカリキュラムについて学習し応援してくださっていることが、CBC実装の要になっています。そして、卒業生も演習の補助や患者役などボランティアとして協力してくれています。CBCを導入することによって、地域全体でフラットに学びあう共同体づくりにつながっていると感じています。

日本語のCBCの教科書がないという問題への対策

 本校では、Pearson1)の教科書を参考資料としてCBCを構築し、日本語のその他の教科書の内容と対応させて教授する方法をとってきました(詳細は第1回を参照)。しかし、想像力豊かに問題を解決していく思考を育成することができてきているように感じる一方で、基本的な知識の習得や深化が弱くなるという課題が見えてきました。
 そこで、教員のCBCへの理解が深まったこともあり、「コンセプトガイド」というコンセプトの説明書を作成し始めました。これは、1つのコンセプトについてどこまでの理解を求めているかを示すガイドで、教員・学生・指導者の三者間で一つひとつのコンセプトの共通理解を促します。同じコンセプトのことを指していても、それぞれの人の中で定義が異なる現象(コンセプトクリープ2)といいます)を予防することにつながります。
 これは、教員自身がこれまでの3年間で学生とのかかわりと学生からの反応を見て、感じて、分析して、評価した結果、生み出した解決策のひとつといえます。先述の通り、これまでのコンセプト間の関連性を重視する教え方から、一つひとつのコンセプトの理解を深めることを主眼に置くように方向を転換しています。

 コンセプトガイドは、1つのコンセプトの①定義②スコープ③属性④理論⑤コンピテンシー⑥文脈⑦関連するコンセプトなどを数ページの紙にまとめたガイドで、学生には1つのコンセプトについての必要最低限の知識と伝えています。身体的なコンセプトとその他のコンセプトによって記入されている項目は異なります。
 コンセプトガイドは、学生が自身でわからない言葉を調べて理解し、自身の責任において解剖生理などの基本的な情報とつなげて学習している(知っている)という前提で、コンセプトをさまざまな事例や場面に活用していくスターターキットのような役割を果たします。学生が「わからない」ことに直面したとき、「ここまではわかっています」という安全地帯や土台になるものというイメージでもとらえています。これはGiddensによるMastering Concept-Based Teaching and Competency Assessment3)という教員用のコンセプト教育の教科書に掲載されているフォーマットを基に、教員が日本語で日本語のその他の教科書と紐づけて作成しているものです。

学生の二極化と今後の対策

 同じカリキュラムであるにもかかわらず、学生による思考プロセス、学生間の学習量と学習意欲には格差があります。当初はこちらが一方的に教える情報量を最小限にすることで、カリキュラムで拘束する時間を減らし、学生の自由度を高めLess is Moreを実践することで、学生は主体的に学習し始めるであろうと期待していました。しかし、そうすることで、主体的に学習し教員の期待値を超えていく学生と、その自由時間をアルバイトや他のことに費やしてしまう学生とで差が大きく開くことがわかってきました。これに関しては、そもそも何をするために入学してきたのか、という主の目的から生活習慣がずれていかないように、プロフェッショナル・アイデンティティへの働きかけが必要ではないかと振り返っています。そして学校側でできる具体的な対策としてもっと学内での演習やシミュレーション、OSCEを導入すること、教員からの発問を増やすこと、実習のあり方を改革していくことなどで、学生を臨床的な学びに惹き付け続けられる仕掛けづくりが必要であると考えているところです。

CBC導入で見えた「基礎看護学実習Ⅰ」の改善点

 これまでの基礎看護学実習Ⅰでは、4日間の実習ではありますが、受け持ち患者を決定しコミュニケーション・環境整備・バイタルサイン・清潔援助の実施をするような内容の実習をしてきました。しかし、この形式の実習では、学内で学習したコンセプトと臨床現場がつながらず、ここから次の基礎看護学実習Ⅱで求められるコンセプトの理解までのハードルがかなり高くなることがわかってきました。このことから、同科目の建付けを見直し、CBCの考え方を活かした実習の進め方やツールの導入を検討しました。

コンセプトの学びを深める教員カンファレンスを導入

 2025年度は、初めて先行文献4)にあるようなコンセプトを中心とした実習に変更しています。具体的には、受け持ち患者をもたず、「栄養」「排泄」「活動」の3つのコンセプトに焦点をあて、それぞれの視点で患者を理解していくという流れにしました。1日を通して1つのコンセプトで複数の患者をみて、まずは教員とのカンファレンスでコンセプトの理解を深めていきます。コンセプトごとに教員からの発問を用意し、学生の思考を促し、臨床判断の育成を目指していきます。次に臨床指導者とのカンファレンスで1日の実習を振り返ります。

発問シートの作成

 「学生の自由度を高めていくと学生は主体的に学習する」という前提でスタートした新カリキュラムですが、学生によっては学ぶことをゴールにせず、合格することをゴールにしてしまうということがわかってきました。学びに対してもコストパフォーマンスで考えてしまい、最短距離でゴールまで到達しようとするのです。そういうスキルも重要ではありますが、もっと深く学んでほしいという教員の願いとは矛盾が生じてしまいます。
 そこで、コンセプトごとに発問シートを作成し、そのなかで「ここまでは理解しておいてほしい」という達成基準を明確化することで、教員間でも発問の内容と深度を統一する必要があると考えました。教員によって発問の深さや細かさが異なると、「●●先生だけ厳しい」とか「◆◆先生の発問がとても勉強になる」という教員間での差が学生の不満につながってしまうからです。教員間で何度も話し合いを重ね、共通理解を促すための発問シートを作成する作業に取り組みました。

 このようにして、課題や問題は発生し続けますが、その都度、教員間で問題を洗い出し、「今の学生にどのような現象が発生しているのか?」「その原因はどこにあるのか?」「解決にむけて自分たちに何ができるのか?」を議論しあう教員会議の場をもち、新しい解決策が生まれたらロールプレイやシミュレーションで振り返り、工夫と改善を繰り返しているのが現状です。きっとこのような作業はどのカリキュラムであっても永遠に続くもので、またこうしてチームで考えられることが本校の最大の強みであるといえるでしょう。

コンセプト教育導入期の葛藤と未来への期待

 これまで自分たちが体験したことがない新しいカリキュラムに挑戦し続けてきて4年が過ぎますが、理想と現実のギャップが2025年のテーマであったように思います。学生はそもそも主体的に学ぶ能力を持っていますが、すべての学生がそれを顕在化できているわけではなく、学生によってはこれまでのさまざまな経験が影響してか、表面的には主体的でないような行動も見られます。しかし、教員との関係性の中で、学生は本来持ち備えている主体性を発揮できるようになってくるということが少しずつ理解できるようになりました。このような体験は、先行文献にも報告されており、Zhuら (2022)は、CBCを導入した大学の教員10名にインタビューを行い、その体験を5つのテーマと13のサブテーマに分類し報告しています5

[Zhu Y, Pei X, Chen X:Faculty’s expeience in developing and implementing concept-based teaching of baccalaureate nursing education in the Chinese context: A descriptive qualitative research study. Nursing Education Today 108. 2022より筆者が翻訳して引用]

 図1にあるように、CBCを導入した学校の教員たちは、まず現状に疑問を抱き、新カリキュラム導入に挑みますが、その責任の重さを痛感しながら、自己研鑽を進めていきます。その後、学生や教員のCBCへの抵抗に葛藤するそうです。学習者中心のカリキュラムなのに、なぜ学生が抵抗するのかについては、学生は教員中心の受動的な学びに慣れてしまっているのではないか、CBCで求められる授業時間外での主体的な学びを求められることに抵抗を感じるのではないかと文献では述べられています。しかし、そのような困難感は、管理者や同僚などのサポートによって緩和され、さらには卒業生の臨床での活躍とクリティカルシンキング能力の高さを目の当たりにすることで、これまでの努力が報われる思いがすると報告されています。

 この先行文献に描写されているようにCBC導入の道のりは決して簡単なものではありませんが、この教育改革によって本校の学生が卒業後、自律的な思考力を持ち、現場で生き生きと働く看護師になって、これまでの教育方法との違いを証明してくれると信じています。チーム内では「教員が変わらなければ学生に変化は起きない」「学生は教員の鏡」を合言葉に、教職員全員で学びあう毎日が続いています。今、教員はいくつもの葛藤と対峙する苦しい時期かもしれませんが、数年後、価値を感じられるときを楽しみに、これからもCBCを活用した教育に携わってまいります。

引用文献
1) Pearson Education: Nursing: A Concept-Based Approach to Learning, 3rd ed. (1) ,Pearson Education, 2019.
2) Laverentz DM, & Kumm S: Concept Evaluation Using the PDSA Cycle for Continuous Quality Improvement. Nursing Education Perspectives 38(5);288–290, 2017.
3) Giddens J.F.: Mastering Concept-Based Teaching and Competency Assessment,3rd ed., Elsevier,2023.
4) Nielsen A: Concept-Based Learning Activities Using the Clinical Judgment Model as a Foundation for Clinical Learning. Journal of Nursing Education 48(6); 350–354, 2009
5) Zhu Y, Pei X, Chen X: Faculty’s experience in developing and implementing concept-based teaching of baccalaureate nursing education in the Chinese context: A descriptive qualitative research study.Nurse Education Today 108, 2022

上久保 礼子

泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者

かみくぼ・れいこ/近畿大学附属看護専門学校卒業後、同大学病院に入職。救急外来(ER)や消化器内科病棟、神経内科病棟などの各診療科にて21年間の臨床経験を積み、看護主任も務める。2018年より泉佐野泉南医師会看護専門学校に入職。2020年より専任教員、2024年から実習調整者。主に成人領域を担当している。趣味はフラダンス。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。