はじめに
私はいわき市医療センター(旧いわき市立総合磐城共立病院)に就職し、18年の看護師経験の後に、母校であるいわき市医療センター看護専門学校(旧磐城共立高等看護学院)に異動となったことで看護教員としての道を歩み始めました。5年前に臨床の現場に戻った後、病院の新人看護職員研修責任者として専任で働く機会をいただき、昨年度からは再び看護基礎教育に携わっております。
今回リレーエッセイに執筆させて頂くことになりました。このようなお話を頂いたことに感謝し、私自身の人生の宝物となった看護教員としての歩みを、振り返って見ようと思います。
1通目:看護教員の道を選んだ私へ
かねてより看護教育や若手の指導に興味があると上司に伝え続けてきたあなた。念願叶って看護学校への異動を打診された時は、夢に一歩近づいた喜びと闘病中の父親が気がかりな気持ちの間で、心がとても揺れ動いたことでしょう。教員になる前にはどうしても長期の研修が必要ですから、家族と相談した上で返事をしなければなりません。闘病中の父親のことを思うととても悩むと思います。しかし、その父親が誰よりもあなたの夢を応援してくれること、「看護教員になる」というその選択に間違いはないということに、あなたはすぐ気が付くはずです。
1年間の教員研修でたくさんの人と出会ったあなたは、看護教育の楽しさを知ります。看護とは何か、看護教員になるにはどうしたらよいのか、看護師の専門性とは何か。これまでたくさん考えてきたことに対する自分なりの答えも、この研修で得られることと思います。
現在、看護教員として経験を積んだ私自身が、当時のレポートを読み返してみると、あの研修こそが今の自分の「礎」になっていることがよくわかります。研修はかなり険しい道のりですが、看護教員になって良かった。あの研修に行けてよかったとずっと思うことができる最高の機会となりますよ。頑張って。
2通目:教員研修終了後の私へ
研修お疲れ様でした。貴重な経験を通して、今のあなたはまさに看護教育の本質を探り始めたところなのではないでしょうか。
「看護教育の根幹は“人間教育”ではないか」と、自分なりにひとつの答えを導いてはみたものの、教育で言葉や態度は変えられても内面の変容は難しい、と迷いを感じていることかと思います。「教育で人間性を高めることができるか?」という疑問が生じ、恩師と意見交換をしたこともありましたね。
思いやりや気遣いの気持ち、愛情、向上心……人間にとって大切なことは何か、考えに考えて煮詰まった時には、教員研修時代に必読書として読んだ、時実利彦著『人間であること』を読み返してみてください。時実先生は、私たちはより「よく」生きていくために、命あるかぎり学習を続けている1)と述べています。「よく」学ぶためにはどうしたらよいのか、「よき学習」になるにはどうしたらよいのかについて考えることが、あなたの継続した課題となることでしょう。
「よく」を踏まえて研修を振り返ってみると、恩師の「人は教えられたように、人に教える」という言葉が強く思い出されます。臨地の場で活躍する卒業生が、実習のため現場にやってきた学生に素晴らしい指導を行う姿に感動することがあるでしょう。学生たちが受け取ったよい学びが、さらに次の学生へとよい学びとして受け継がれる。こうなるためには、自分の教育が、受け手たる学生にとってよい学びになるように努力する必要があるのです。まずは教員のあなた自身が、「よく」を伝える媒体となりましょう。
もちろん、そのためにはあなた自身が学び続ける必要がありますね。その学びは自分自身の知識や技術を高めるためではなく、最終的に患者さんを守るため、学習者を育てるための糧となります。「正解だけを伝えなさい」ということではありません。苦手なことや、できないことに直面した時、どのように対処するのか。それを見せることも大切な教育です。
美意識を高く持ち、感性を磨くことも大切です。多くの芸術に触れ、自然の美しさに感銘する機会を作ることも人間性を高めるよい学びのひとつなのです。学生に勧めるだけでなく、いずれは自分自身の感性を磨く良い趣味として、あなたの心の拠り所になってくれるかもしれません。

花や月、星などを観るのも楽しみのひとつ
いずれにしても、自分を俯瞰し、自分を振り返ることを習慣にしてください。「よく」生きるために、自分は今何をしているのか、自らの背中を学生たちに見せましょう。自分自身が、より「よく」生きることを楽しみながら、学生と真摯にそして謙虚に向き合ってください。
おわりに
「教育はよいことを継ぐ(つなぐ)こと」と、私の考えを手紙の中でご紹介しました。加えて、よりよい人生には「繋ぐ(つなぐ)」ことも大切だと感じています。
新人研修を終えて14年が経過した今でも、研修時代の仲間との“繋がり”は絶えません。「あなたたちは共通の言語で語り合える仲間を得た!」とは卒業の際に恩師から伝えられた言葉ですが、SNSを通して日常的に情報交換を行っていると、仲間たちのいる心強さやありがたみが分かります。
現在は同じ看護学校で働く教職員、臨床の指導者、学生をはじめとして、教員研修で知り合うことができた人たちとの繋がりを以前以上に大切にするようになりました。看護教育という場で繋がりを継続することで、そこからまた新たな繋がりを持つことができています。新たな繋がりは新しい知見だけでなく、刺激や感動も得られ、より「よく」生きるための学習と人間性を高める機会に繋がっていると実感しています。
みなさんも、どうぞ、楽しんで“つながり”続けてください。
1)時実利彦:「人間であること」.岩波新書.111.1970