看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

大阪府看護学校協議会の学校間ピアレビュー

大阪府看護学校協議会の学校間ピアレビュー

2023.08.18NurSHARE編集部

 自分たちの学校をより良いものにするためのものとしてすっかり定着した自己評価や自己点検。しかしその一方、自校だけで完結できない学校関係者評価や第三者評価の実施にはさまざまなハードルが横たわっており、取り入れたいが踏み切れない、と考えている先生がたも多いのではないでしょうか。
 こうした現状を受けて大阪府看護学校協議会では、加盟校同士で学校を見合い、評価する「学校間ピアレビュー」を実施したといいます。「学校間ピアレビュー」の実施にあたって中心的役割を担った、近畿大学附属看護専門学校(大阪府大阪狭山市)の田上晶子教務部長にお話をうかがいました。

大阪府看護学校協議会の概要

 大阪府看護学校協議会(奥田尚美会長、関西看護専門学校。以下、府協議会)は、大阪府下39校の看護師等養成所(以下、看護学校)が所属する団体である(2023年5月31日時点)。教育者や運営担当者同士の意見・情報交換や合同研修会などさまざまな事業を通して、看護学校における経営・管理・教育の充実や発展に寄与する活動を行っている。3年課程のみを有する学校が加盟校の6割を占めており、各校の母体は医師会、独立行政法人国立病院機構、医療法人・社会医療法人、学校法人など多岐にわたる。

学校間ピアレビューの実施目的

 学校評価は教育評価の一環として位置付くもので、大阪府においても教育水準向上のための組織運営・体制改善を目的として、多くの看護学校が自己評価・自己点検に取り組んでいる。しかし、学校関係者評価や第三者評価となると、さまざまな背景から実施が難しい加盟校も少なくない。
 これを受けて府協議会では、学校関係者評価や第三者評価に代わる学校評価として、お互いの学校を評価しあい、他校教員からの評価・知見や他校のよい取り組みを組織運営や現状の改善に生かす「学校間ピアレビュー(以下、ピアレビュー)」を企画した。同じ看護学校の教員同士だからこそ、各校の良い部分や課題点に気付くことができるという発想だ。ピアレビューで得た知見を各看護学校の魅力向上につなげ、ひいては入学志望者を増やしたいというねらいもある。

「学校関係者評価グループ」による加盟校への調査

 府協議会では、目的別に組織したグループに各加盟校が参加し、綿密に意見交換や打合せを行いながらさまざまな取り組みを行っている。対外的な広報活動を行うグループ、会則の見直しを行うグループと併せて、学校評価の現状や課題の洗い出し、および学校関係者評価の推進や評価による学校の質の改善を目的とした「学校関係者評価グループ(以下、同グループ)」を設置しており、2022年度には20校の加盟校が参加した。
 ピアレビューの実施前、同グループは2022年7月から2カ月間、加盟校を対象に学校評価についての意見調査を実施した。これによると、自己評価実施校の割合は全体の86.6%、学校関係者評価実施校の割合は全体の63.4%にのぼっている。しかし、教育学の専門家など学校に日常的に関与しない第三者を迎えて実施する「第三者評価」については、実施校割合が全体の20%にとどまったのだという。
 また、「他校の学校関係者評価者として学校評価に参加したことがあるか」という質問に関しては、参加経験がない担当者が全体の63.4%と半数を占めていた。同グループでは、参画者への謝礼など金銭的理由で第三者評価の実施が難しいのではないか、と考察しているそうだ。

実施した学校間ピアレビューの概要

 ピアレビューにあたっては同グループ内で実施形式の検討を行った。試験的な運用であることをふまえ、今回は同グループに所属する看護学校のみで実施することとした。
 評価の仕方について、A校とB校が相互に見合う1案、A校はB校を、B校はC校を見る、いわゆる「三すくみ」のような形で5校ほどが見合う2案が出された。検討を重ねた結果、2案をベースに、見学を受け入れる「見学実施校(以下、実施校)」を立候補で募り、見学を希望する「見学参加校(以下、参加校)」を1校につき複数校受け入れる形を採用した(図1「決定案」)。ひとつの参加校が複数の実施校を評価することもでき、見学実施だけ、見学参加だけも可とした。なお今回の運用では、教育実践のようすを現地で見学することを前提とし、実際に実施校に赴く教員は副学校長など管理職に限定した。

図1 「見合う」方法についての検討案
A校、C校、G校が実施校となり、G校以外のすべての学校が参加校に該当する。

  今回のピアレビューにおける実施校と、おのおのの見学を希望した参加校の数について、以下に示す。

見学実施校 見学参加校数
泉佐野市南医師会看護専門学校(泉佐野市) 4校
大阪労災看護専門学校(堺市) 4校
近畿大学附属看護専門学校 2校
ベルランド看護助産大学校(堺市) 3校
松下看護専門学校(守口市) 7校

 実施初年度であることも踏まえ、まずは取り組んでみることを重視して、評価にあたってはチェック項目の統一は行わないことに決めた。各校が見学したい点について自由に評価ができるような形をとることで、たとえば「学生に主体的に動けるようになってほしい」と考えている学校が「学生の自主性を尊重する」ことを方針とする学校の見学に行く、といったように、自分たちの課題だと考える点に強みを持つ実施校を選択して見学する学校もあった。

学校間ピアレビューの流れ

 ピアレビューの実施概要を固めたのち、2022年9月頃に見学実施校を募った。実施校に都合のよい日程を挙げてもらい、それをグループ校に共有して参加校を募った。実施校と参加校のマッチング後には、事前に参加校が実施校に知りたいことを伝えておくことで、実施校が参加校の教員の見学を受け入れるにあたって何を見てもらえばよいのかを明確にし、ピアレビューを実施する10月までに準備しやすいようにしたという。

他校を見学し、自校の見学を受け入れて得られた気付き

 田上氏が教務部長を務める近畿大学附属看護専門学校は、実施校と参加校、双方の立場からピアレビューに参加した。

実際に足を運んで他校のよさを知る

 ベルランド看護助産大学校に赴き、同校の課題活動のようすを見学した田上氏は「自主的に活動できる力を養う取り組みをされていて、とても素晴らしかった」と話す。同校が公開したのは、2年生が夏休みの課題として好きな本を読み、1年生に向けてその本の面白さや良さを伝えるプレゼンテーションをするという活動だ。学生自身が司会として会を進行をしたり、どうすると伝えたいことをうまく後輩に分かってもらえるか考えながら発表に工夫を凝らしたりする姿に、彼らの自主性の高さを感じたという。
 同校の校舎も見学し、オープンスペースを広く設けた施設を見て「自分たちの学校でも学生が自由に学習や演習ができる場所を作れたらいいな」と思ったそうだ。同校と同様に、今回の実施校のうち多くが座学よりも演習のようすを公開しており、教育実践や組織運営、評価についてなど、参加校との質疑応答の場を設ける実施校もあったという。

他校からの評価を通して自校のよさを知る

 今回のピアレビューを通して、田上氏は「見学を受け入れる立場として多くの発見ができた」という。近畿大学附属看護専門学校が成人看護学の演習を公開したところ、参加校の教員から「教員と学生が和気あいあいとしていて距離が近く、学生が質問しやすい環境のように思えた」という感想を得られたそうだ。同校では実際に学生が質問や相談をしやすい風土づくりを重視し、休み時間や放課後などに教員が学生のところに行って会話をするよう意識している。そういった時間に学生から大事な相談を受けることもあり、実際に学生の心理的安全性は高い。日頃の取り組みが同じ立場の見学者からよい評価を受けることで、自分たちの方向性に自信を持てるのも、ピアレビューのもつメリットのひとつだ。

 一方で、思わぬ点を“自校のよさ”として評価されることもあった。同校では、多くの学校が1年次からと定めている修学金の貸与を2年次から実施している。かつては他校と同様に1年次から貸与していたが、母体の近畿大学病院から「学生の成績や同院で働く意思があるかを加味してから、貸与するか否かを見極めたい」と要望があったのだ。堅実な考えではあるが学生募集の観点からはマイナスの要素になりうるとして、同院に対し1年次からの貸与に戻せないか交渉していたが、他校の見学者からは「貸与を検討する期間があると学生が学びに真剣になるし、母体病院への就職にもつなげられる。よい制度だと思う」と肯定的な意見を聞くことが多かったそうだ。自校の改善点だと考えていた制度が他校の視点からはよいものだと評価されたことで、第三者の視点から見てもらう利点を改めて知った、という一例である。

実施にあたって得られたもの

 ピアレビュー終了後、他校の見学を受け入れたり、他校を評価したりしてみてどのような感想を抱いたかを参加各校から寄せてもらい、情報を集約して同グループ内で共有し、最終的に府協議会全体へと公表した。

見学実施校の感想

 実施校からのおもな感想として挙がったのが、「自分たちと同じ立場である看護学校の教員から評価を受けられる」メリットだ。これまでの学校関係者評価や第三者評価では評価を受けることそのものが目的となってしまい、実施の意義に疑問を感じることもあった。しかし、信頼関係がすでに構築された他校の教員と意見を交換することで、長所や課題点について本音で語り合うことができ、評価が教育の質の向上につながる価値あるものになった実感を得られたという。
 また、看護教員でも学校関係者でもない第三者からの評価は、現場を知る教員として受け入れにくい面もあるだろうが、このピアレビューでは評価者が同じ立場の者であるという点から「課題を指摘される不安やショックを減らすことができた」という意見が寄せられたそうだ。
 他校の教員が見学に来ると学生に伝えたことで、「自校はオープンな学校、参考として見てもらえるに値する学校だ」という意識が芽生え、より積極的に取り組む学生の姿が見られた、というケースもあった。同グループでは、実施校の取り組みを聞いて参加校の学生たちが「他校の学生も頑張っているんだ」と知ることもまた、学生のモチベーション向上にもつながるのではないかと考えている。

見学参加校の意見

 参加校からは、「自校でうまく進められていないことを他校ではどう行っているのか、実際の状況を教員や事務と共有できてよかった」との声があった。訪問前に自校の教員間で何を見てきてほしいか確認し、見学後に結果を共有するようにしたことでよい情報収集につながり、漠然と見るのではなく目的を明確にすることが重要だ、と感じた教員もいたようだ。「同じ管理者の立場にある教員との交流を持つことが孤独感の軽減につながった」ともいい、同じ立場の教員だからこそ思いを共有しあえるという意義も明らかになった。

学校間ピアレビューの今後の課題

 田上氏は「学校関係者評価グループ以外の府協議会加盟校にピアレビューの取り組みを紹介したところ、非常によい感触を持ってもらうことができた」と語る。これを受けて同グループでは、継続的な実施も視野に入れ、今後は加盟校全体が参加できるピアレビューを開催するべく検討を重ねている。管理者だけでなく教務主任同士、カリキュラム作成者同士など、参加者の範囲を適用して、同じ立場の職員同士がピアレビューを通して交流を深めることも見据えているという。

 同グループは、学校関係者評価を現時点で実施していない学校に向けた支援にも取り組みたい考えだ。学校関係者評価に着手できない学校からは「評価にあたってどんな準備をすればよいか分からない」「教員や事務職員も巻き込むことだから、意義や実際に効果があるのかを知るために好事例集が欲しい」との意見が挙がっているという。もちろん指摘の全てがすぐに改善できることではないが、学校関係者評価や第三者評価には、指摘された点を会議や委員会に諮ることで、よりよい学校になるよう改善できる良さがある。それを未実施校に伝えていきたい(田上氏)そうだ。またピアレビューの効果検証や活用方法についても検討を重ねており、自己評価・自己点検としてピアレビューを活用してもらうことも想定している。今後の学校改善のためのピアレビューのさらなる有効活用が期待される。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。