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第5回:コンセプト・ベースド・カリキュラム(CBC)の実際~授業例を通して

第5回:コンセプト・ベースド・カリキュラム(CBC)の実際~授業例を通して

2025.12.17万屋 智子(泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者)

 第5回ではコンセプト・ベースド・カリキュラム(以下、CBC)の実際について、1年次4月開講の『家族・泉州文化と多様性』を授業例としてお伝えさせていただきます。

「家族・泉州文化と多様性」の概要と授業設計

授業概要と目標

 本科目は1年次約40名、1単位30時間(全15回)です。授業形態は講義・グループディスカッション・フィールドワークを組み合わせ、学内と学外の学びを往還させる構成です。コンセプトは「家族ダイナミクス」(図1)であり、「生活の場としての地域を理解できる」「個人・家族の多様性(文化・慣習・健康観・価値観・生きる力)を理解し、「人」を生活している人として捉え、説明できる」「地域で生活する人々についての理解を報告できる」を学習到達目標にします。

図1 家族ダイナミクスに関連するコンセプト
[Giddens JF:Concepts for Nursing Practice , 4th edition, p. 29,  MOSBY USA, 2025より筆者が翻訳して引用]

授業設計のポイント

 たとえばある新出の事柄について、学生は「初めて学ぶ」と感じていても、実際には学生生活の中でその前提となる知識を積み上げています。『家族・泉州文化と多様性』の場合は、学生の既存の知識を引き出し、新たなコンセプトである家族ダイナミクスを意味づけることが授業設計のポイントになります。

授業展開のポイント・他項目とのつながり

 学生は、科目を通して「家族ダイナミクス」というコンセプトを、机上の学習とフィールドワークという具体的な体験と結び付けて理解する力を養います。グループ活動や地域とのかかわりを通して体験した学びを、机上の学習と往還しながら深めたことで、協働して学ぶ態度や看護職としての視点の自覚がみられるようになることを目指します。
 実施内容として、授業終了毎に「振り返りシート」を記載し、省察の機会をつくります。また、授業は前回の復習から始めることにより、「わかる」「つなげる」を積み重ねる工夫をします。
 具体的な授業の進め方や省察の流れについては後述します。

 また本校では、1年次4月に開講する関連科目として、「泉州地域学」を置いています。これは、本校が位置する泉州地域で活躍しているさまざまな領域のプロフェッショナルの方々から、泉州の文化やプロフェッショナルとしてのありかたについて学ぶものです(詳細はこちらの記事もご覧ください)。「泉州地域学」で地域について学び、「家族・泉州文化と多様性」ではその中で暮らすさまざまな住民や家族についての理解を深めます。初めての実習である「暮らしを知る実習(1年次、訪問看護ステーション、地域包括支援センターで実施するもの)」を前に、不安や緊張といった内向きの思考を、地域で暮らす人々への関心という外向きの思考に転換することを意識した授業展開を行います。

授業構成と学びの展開、学生の学び・省察の変化

 全15回の授業は以下(表1)のように構成します。

表1 「家族・泉州文化と多様性」の授業構成

CBCの理論や枠組みを役立てた授業構成づくりに役立てたような場面について

 第3回でご紹介した「知識の構造」(図3のA)と「プロセスの構造」(図3のB)による学びの循環を今回の学生の省察の変化に重ねて考えてみると、以下のようになります。

図2「知識の構造」(A)と「プロセスの構造」(B)による学びの循環
[H・リン・エリクソン, ロイス・A・ラニング, レイチェル・フレンチ:思考する教室をつくる 不確実な時代を生き抜く力 概念型カリキュラムの理論と実践(遠藤みゆき, ベアード真理子訳), p38, 北大路書房, 2017を参考に作成]

  第1~3回は「『家族』って何だ」 がテーマです。第1回は個人ワークで教科書を読み込み、まとめ、提示された事例は家族と「言えるのか」「言えないのか」について自身の価値観をもとに話し合います。そして、根拠をもってメンバー全員の納得のもとに結論を出します。事後課題として『私と家族』をテーマにレポートを作成します。この時点でそれぞれ価値観は異なるという事実に触れ、「家族って何だ?」というトピックにたどり着きます。
 第2回は、クラス全体で報告会を行います。ここで、学生は自分のグループと同じ結論を出したグループでも、その根拠がさまざまであることに気づき、自分たちと異なる価値観に触れます。第3回は座学で理論を学び、徐々に『家族ダイナミクス』の概念化が形成されます。家族を“血縁”から“関係性”として捉え直し、家族ダイナミクスに関する概念の再構築が始まる段階です。

 その後、第10・11回「泉州地域を歩くⅢ」ではフィールドワークを実施します。地域に出向き、インタビューを通して“地域の中の家族の力”を感じ取る体験から家族ダイナミクスを理解します。そして、地域で暮らすさまざまな人に出会い、問いかけることにより、家族ダイナミクスというコンセプトの一般化が生み出されます。また、人とのかかわりの中で看護師としての視点・態度に気づきます。
 第13回は学びの報告会です。担当地域における家族の力について報告するとともに、他の地域における家族の力について学び合います。それぞれの地域の一般化から共通点を見つけたり、相違点を見つけたりすることにより、家族ダイナミクスのコンセプトを再構築します。

 このように、自身の価値観からグループメンバー間の価値観、概念を理解して地域に出向き、地域で暮らす人達の価値観に触れ、他の地域で活動したメンバーの報告から家族ダイナミクスの概念を再構築する構造を設計します。伝え合うことで省察の内容がより地域に存在する自分事として、さらに看護師らしい地域へのまなざしが生まれるように思います。

評価方法

 評価は①レポート課題「私と家族」(10点)、②グループワークピア評価(5点×2回)、③プレゼンテーション評価(20点)、④筆記試験(60点)によって行います。筆記試験では、家族ダイナミクスに関する概念理解を問う問題を中心とし、既存の知識と地域で得た学びを結びつけて答えられるように設計します。また、授業ごとにGoogleフォームを活用した省察を行うことにより、認知の変化や学びの深まりを学生と教員が共有できます。
 終講後、学生たちは地域で暮らす人々と支える人たちへの関心をもって「暮らしを知る実習」に臨みます。

教育的意義と今後の課題

 本科目の教育的意義は、家族ダイナミクスという概念を地域文化との関係から具体化し、学生が「既存の知識」に気づき再構築できた点にあります。CBCのプロセス「概念理解→体験→振り返り→再構築」を実践し、学生は帰納的・演繹的思考を繰り返しながら学びを深めました。学んだことを「IS新聞」の作成を通してまとめることによって、探究過程の可視化と他者への発信を通じて自己理解を深化させました。また、地域で暮らす人の語りを「看護師として聴く」体験は、単なる地域理解を超え、人が互いに支え合う力への洞察を生みました。

おわりに

 まだまだCBCを取り入れて時間も経っておらず、走りながら私自身が学んでいる状況です。しかし、このようにまとめてみると、学生の学びの豊かさに圧倒されます。学生が「既存の知識をもっている」ことに自信を持ち、それを学びに変える力を信じ、教員が一丸となって新たなチャレンジをできる環境が未来を創っていると感じています。

参考文献
1)H・リン・エリクソン, ロイス・A・ラニング, レイチェル・フレンチ:思考する教室をつくる 不確実な時代を生き抜く力 概念型カリキュラムの理論と実践(遠藤みゆき, ベアード真理子訳), p31, 北大路書房, 2017
2)Giddens JF: Concept for Nursing Practice, 3rd ed, Elsevier, 2021
3)三浦友里子,奥裕美:臨床判断ティーチングメソッド,医学書院,2020
4)三輪健二:わかりやすい省察的実践 実践・学び・研究をつなぐために, 医学書院,2023

万屋 智子

泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者

まんや・ともこ/近畿大学附属看護専門学校を卒業後、近畿大学病院中央手術部、脳神経外科病棟で急性期の命を支える看護実践に取り組み、チーム医療が回復を促進することを学ぶ。急性期を脱した患者のその後を支える在宅ケアに関心を持ち、介護老人保健施設にてケアプランセンターを立ち上げ、在宅ケアに出会う。また、訪問看護の経験から退院支援や意思決定支援の重要性を痛感し、近畿大学奈良病院では多様な混合病棟に勤務。2016年大阪府立大学大学院看護学研究科修了、復職後は患者支援センターに勤務。18年に在宅看護専門看護師の認定を受ける。約30年の臨床経験を経て、泉佐野泉南医師会看護専門学校に専任教員として着任、22年4月より現職。趣味は旅行。

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