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第4回:「看護学の伝道師」として、しなやかに生きること

第4回:「看護学の伝道師」として、しなやかに生きること

2022.09.14野崎 真奈美(順天堂大学医療看護学部 教授)

「動機づけ」の探究から始まった、看護教員としての歩み

 臨床指導者を務めていた頃、実習を重ね卒業が近づくにつれ、学生たちの表情が落ち着いていくことを不思議に感じていた。今思えば、現実を見つめ覚悟を決めていく過程にあり、看護師として社会化された結果だったのかもしれない。しかし、私はモチベーションが下がっていると感じ、どうすれば高められるのかと疑問に思っていた。
 そこで大学院進学を決め、看護教育学を専攻し、動機づけの探究が始まった。看護への動機づけを高める要因を求めて、4年生の看護学生を対象にインタビュー調査を行った。自分で決めて実施したことが成功した時に自信がつき、看護へのやる気が増すという結果であった。成功体験を積み重ね自己効力感を高めるという答えを得たので、実際に看護学生が自信をつけながら成長し続けるための支援をしようと思い教員になった。

どんな看護専門職を育てたいか:学生に願うこと

“これぞ看護”を感じられる原体験を

 看護学生には、患者に寄り添い、患者と向き合い、“きちんと”看護ができる人になってほしいと願っている。そのために学生時代に看護師としての原体験に出会い、看護師となった後にはその体験を発展させることが望ましいと考えている。
 私は基礎看護学の教員として、学生にとって初めての臨床実習の指導を担当している。基礎看護学実習では、まさしく看護師としての原体験になるであろう印象的な出来事に遭遇する。
 学生 A さんは、受け持ち患者の体調が悪化し、医師からシビアな状況であることを説明され落胆していた。A さんは居たたまれず退席しようとしたが、私はそれを制止し、一緒にそこに留まることにした。患者の手を握り、無言の時間もあれば、1つ2つ言葉をかけることもして見せた。そして A さんも同じように、患者に寄り添った。その後 A さんは、落ち着いた患者から「あの時一緒に居てくれてありがとう」という言葉をもらい、信頼関係が築かれた。この体験は A さんにとって、患者自身がつらいときにこそ逃げ出さず寄り添うこと、信頼を得るということの原体験になったのではないだろうか。
 学生 B さんは、高齢患者を受け持った。口腔内を観察すると義歯が合っていないことに気づき、歯科での調整につなげ、患者のかみ合わせが改善された。加えて毎日舌苔を除去する口腔ケアを続けたところ、患者は味覚を感じるようになり、食が進み栄養状態が改善した。これが看護の力だと、B さんが実感する原体験になったのではないだろうか。
 看護師になると複数の患者を受け持ち、多重課題に取り組むことになるが、多忙な中でもこういう原体験を忘れずに、短い時間でも患者に寄り添い、“きちんと”看護ができるプロフェッショナルになってほしい。

「守破離」:基本こそ大切に

 自分自身が入院した際の患者体験においても、印象に残っている出来事がある。
 全身麻酔前にグリセリン浣腸を受けた時、担当看護師は浣腸液を所定の温度に温め、管の中の余分な空気を抜き、体位を整え、適度なスピードで注入するという教科書通りの手順を踏んで実施してくれた。おかげで苦痛はまったくなかった。私はその看護師を信頼するようになり、周囲からの評判の良さも納得できた。教科書に記載されている手順は先人たちの経験則から得られたものが多い。徹底的に先人たちの教えを守ることも意味があるのだと実感した。これは芸事の習得の段階を示す「守破離」という教えにも通じる。まず型を守る段階(守)、次にオリジナリティを加える段階(破)、最後に新たな知識・技術を開発する段階(離)というものである。基本の型がなく最初から自分流で行うのは「型無し」であって、理にかなった行動とはいえない。看護師になると省略形や応用形で看護技術を行うことが多くなるが、私が信頼したあの担当看護師のように守破離の段階を経て、意図的に一つひとつの行動を実践し、最善のパフォーマンスを提供するプロフェッショナルになってほしい。

教育観を表す3つの心がけ

 このようなプロフェッショナルに育てるべく、学生が成功体験を積み重ねられるよう、支援する際は次の3つのことを心がけている。

①教員は黒子である

 とくに臨床実習において、学生が自分の力で成功したと思えるように、教員は影ながら仕かけをつくり、道標を置き、見守る存在になればよいと思っている。歌舞伎で、役者に小道具を渡したり片づけたりして芝居のサポートをする黒子のようなものである。歌舞伎の世界において「黒は見えないもの」という約束があるそうだ 1)。教員は見えているが目立たない存在として、学生が主役を演じられるように、時にコーチ、ファシリテータ、メンター、モデル、ティーチャーの役割を使い分けながら、学生の伴走者になるのである。

②学生が臆せずのびのびと挑戦できる場をつくる

 成功するためにはまず挑戦しなければならない。過度に緊張せず挑戦するための土俵を整え、その土俵に上がるよう学生の背中を押そうと思っている。そのために安心できる環境をつくり、少しだけ高い目標を設定する。
 次に挑戦し続けるように習慣づける。挑戦して成功すれば自信がつくし、失敗しても何が原因で、どうすればよかったのか分析することで何かを得られるはずだ。あきらめずに挑戦を続けることで成功に近づけるかもしれない。まさしく「失敗は成功のもと」という考え方だ。「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ」と発明家トーマス・エジソンは言った。失敗を前向きにとらえる姿勢を示した言葉である。学生には、しなやかな柳のように、1回の失敗でくじけずに挑戦をし続けて欲しい。だから失敗を責めるのではなく、原因を分析し、次の機会にはどうすればよいか学生が思い描けるまで一緒に考えるようにしている。

③学生に心で共感し、心に響く(刺さる)メッセージを送る

 看護学生は医学・看護学の難しいことを学習している。専門用語のまま説明しても学生にとっては難解で、教員は教えたつもりでも、学生には何も伝わっていないという事態をよく目にしてきた。そこで私は、学生に合わせて今どきの言葉も交えながら、難しいことはやさしく説明するように心がけている。これは、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」という作家・劇作家井上ひさしの言葉に通じる。学生の「難しい、わからない」という思いに共感し、「たのしい、おもしろい」と感じてもらえるように伝え、看護の奥深さを伝えていきたい。

これから教育の中心を担っていく若手教員に期待すること

 若手教員の皆さんには、患者-看護師関係と同様に、学生に共感し、寄り添う教員になってほしい。決して難しいことではない。患者にケアリングができているのだから、学生に対してもできるはずだ。看護過程を展開するように、まず学生のことを知り、理解し、彼らが何をクリアしなければならないのかを把握し、個別性に応じて手を差し伸べればよいのだ。期待を込めて3つのメッセージを贈る。

①学生の力を信じること

 約30年も教員をしていると、臨床実習の場で教え子と一緒に働くことがある。学生時代、満足のいく教え方ができずに申し訳なく思っていた卒業生でも、立派な看護師になっている。私との接点はその学生の看護師人生において一時のことであって、私一人で育てているわけではないことを実感し、とても気が楽になった。私との時間では何も気づけなくても、次の機会に気づけるかもしれない。私はそのお膳立てができたのだからよしとするくらいの心構えでいる。学生は自ら成長する力をもっているので、その可能性を信じて、あまり気負わないことだ。

②周囲の人の力を借りること

 大学、専門学校の先生方と新人教員の支援を考える勉強会で活動していた時、新人教員が誰にも相談できずに孤軍奮闘している現実を知った。臨床看護師から教員に役割が変わったのだから、それまでのノウハウでは太刀打ちできなくて当たり前である。そのような時は周囲の人に頼っていいのだ。
 たとえば、臨床指導者に近づけずに実習指導に悩みを感じることがある。臨床指導者は教員役割を一緒に担うパートナーなのだから、お互い相手に頼ってよい。また教員組織はチームなのだから、同僚に相談し、上司や先輩にも「ホウ・レン・ソウ」しながら、コミュニケーションを密にとるとよい。それは周囲の人を信頼することであり、同時に自分も信用され、自分の居場所を確立することにつながる。

③あなた自身も可能性の塊だと思うこと

 あなたも看護界の大切な人財なのだ。たとえ失敗したとしても次の成功を願い、あきらめずに前進してほしい。最近の若手教員の特徴として、相手に対してポジティブフィードバックが上手なこと、倫理的配慮ができることを感じている。これらの強みを活かして、そのまま自分らしく学生に寄り添えばよいと思う。あなた自身が成長することで看護界に貢献できるのだから。学生に願うのと同じように、柳のようにしなやかに看護界を生きて抜いてほしいと願っている。

* * *

 このように、「動機づけ」の探究からスタートし今日まで歩みながら、私なりの教育観が育まれてきた。そしてその根底にある願いに気づいた。私は、著明な看護の理論家の著書や優れた研究論文に書かれていることを、看護学生のみならず、他分野の研究者や一般市民、外国人看護師など、さまざまな人たちにわかりやすく解説し伝える<看護学の伝道師>になりたいのだ。私自身、相手に寄り添い、“きちんと”看護を伝授するプロフェッショナルとして、柳のようにしなやかにありたいと思っている。

引用文献
1) 芸術文化振興会:歌舞伎への誘い;黒衣,https://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/kabuki/jp/production/performance7.html,アクセス日:2022年8月31日

野崎 真奈美

順天堂大学医療看護学部 教授

のざき・まなみ/自衛隊中央病院高等看護学院(現・防衛医科大学校)卒業後、整形外科病棟、手術室に勤務。教員として、聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)、埼玉県立大学短期大学部、東邦大学を経て、2017年より現職。この間、青山学院大学卒業、教員免許取得。聖路加看護大学大学院看護学研究科修士課程修了、修士(看護学)。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。最近は、SBARトレーニングアプリ、Virtual Reality教材、メタバース臨床実習などの教材開発に挑戦中。趣味は飛行機旅。

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長きにわたり「看護職」を育ててこられた先生方の教育観は、どのように形づくられたのか。何を思い、何を願い、何を糧として学生と向き合ってこられたのか。ベテラン看護教員からの、あたたかく示唆に富んだメッセージをお届けします。

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