「教員の仕事って、面白いの?」
臨床時代の同僚や後輩から、よく聞かれます。たしかに、私自身が臨床現場で働いていた頃は「看護教員って面白いのかな?」と思っていました。実際に教員になってみると、想像していた以上にとまどうことも多くありました。初めの頃は、「面白いよ!」と即答できませんでした。それでも、教員生活3年目を迎えた今、私はこう答えています。――はい、ちょっとわかってきました。
今回は、そう感じられるようになった出来事を、自分なりに振り返ってみたいと思います。
看護部長がくれた、“意味のある承認”
私の所属している成人看護学領域は実習の機会が多く、教員として臨床に出ることの多い領域です。私は主に古巣の附属病院で実習を担当しています。実習で意識しているのは、学生を通して患者さんにかかわるだけでなく、自分自身もなにかと理由をつけて病室に足を運び、直接患者さんとかかわって反応を見ることです。現場の看護師とも、患者さんや学生について対話し、臨床と教育の距離を近づけるよう心がけています。
ある日、研究の相談を兼ねて、かつての上司である看護部長のもとを訪ねました。主任時代、看護の視点を深めるきっかけをくださった方です。久しぶりの再会に少し緊張しながら話していると、看護部長が笑顔で言いました。
「坂木くん、実習でよく来てるよね。学生の評判、すごくいいみたいね」
最初は何気ないねぎらいの言葉かと思いましたが、併せて具体的なフィードバックもいただき、それが思いがけないほど心に響きました。昔の私をよく知る部長が、これまでの苦悩や努力の過程を理解したうえで伝えてくれた言葉だったからです。それはまさに、“意味のある承認(Meaningful Recognition)*”そのものだと感じました。
臨床の現場でも、人を動かすのは単なる「頑張っているね」という励ましではありません。その人の意図や取り組みのプロセスを理解し、そこを承認すること――それが成長につながることを、私は臨床で学んできました1)。だからこそ、長く自分を見てくださっている方からの承認は、教員としての自信と原動力になりました。
短期的な成果にこだわらず、信じてかかわる
教員としての仕事を続ける中で、最近改めて感じるのは、教育の成果はすぐには見えないということです。教員になって3年目、これまでに2学年の卒業生を送り出しました。実習先で、卒業生が後輩学生を指導している姿を見かけることがあります。あのとき実習で一緒に悩んでいた学生が、今は複数の患者さんを受け持ち、後輩に声をかけながら働いている。その姿を見ると、人の成長の時間軸を実感します。
ある卒業生から、「先生に言われたこと、今になってわかってきました」と言われたことがありました。教育の仕事は、すぐに結果が出ないもどかしさもありますが、その分だけ、時間をおいて発揮される影響の深さを感じる瞬間があります。だからこそ、短期的な評価(科目や実習の成績)と、長期的な学生の成長への期待は分けて考える必要があると思います。
私自身、大学時代は空手道部に所属し、勉強以外のことに多くの時間を使っていました。教員から見れば、決して“デキのいい学生”ではなかったと思います。それでも、そこで培ったやり抜く力や仲間と支え合う経験が、看護や教育の仕事に活きています。在学中に勉強以外のことに本気で取り組んでいた学生が、卒業後に仕事へ真剣に向き合うとき、当時の経験から得たエネルギーによって成長を大きく促されることがあります。何かに本気になった経験は、必ずどこかで力になります。
修士課程の頃、指導教授がロイ適応看護モデル2)についての学習の文脈でこのようなことをおっしゃっていました。
「ここでの学びはすぐに形として現れなくても、“残存刺激(residual stimuli)”としてあなた方の中に沈殿して、いつか必要なときに力となるはずです」
この連載を書きながら、当時の先生の言葉がよく思い出されます。もう10年以上前のことですが、その言葉は今も自分の中にしっかりと生きています。まさに、“残存刺激”として自分の中に残っているのかもしれません。そして、教員という仕事の面白さは、この“沈殿”の時間を信じて待てることにあるのかもしれません。
あらためて、「教員の仕事って面白いの?」
「教員の仕事って、面白いの?」この問いには、今も少し考えてから答えています。
私にとって教育の面白さは、目に見える成果の中にあるのではなく、時間がたってジワリと感じられるものだからです。かつての上司からの一言に励まされたり、学生の小さな変化に気づいたり、卒業生が自信をもって働く姿を見たり。そんな瞬間に、教員としての“面白さ”を感じます。
私が大学4年生の頃、ある大御所のクリティカルケア看護の教授が講義の中でこう言いました。
「舌苔(ぜったい)は絶対にダメよ」
当時は半分冗談のように聞いていましたが、今でもその言葉を覚えている自分がいます。そして、ICU実習でVAP(人工呼吸器関連肺炎)予防の必要性を学生に説明するとき、その言葉がよみがえります。20年も前のことなのに、今も鮮明に思い出せる自分に驚きます(先生はこれを意図していたのかな?)。
きっと教育とは、そんなふうに時間を超えて人に影響を与えることなのだと思います。
今、もし誰かに「教員の仕事って面白いの?」と聞かれたら、自信を持ってこう答えます。
――はい、ちょっとわかってきました!
1)坂木孝輔:後輩の客観的自己評価を導くアプローチとは? .重症集中ケア23(2):46-50, 2024
2)松木光子(監訳):ザ・ロイ適応看護モデル,第2版,医学書院,2010



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