今回は、第5回協働学習会「後輩指導シミュレーション」の実際をご紹介します。実施にあたっては、京都市立病院の病棟を使用させていただいています。また、2025年度から協働学習会を実施している実習施設の洛和会グループと行う場合は、本学の実習室を使用しています。
後輩指導シミュレーションの目的・グループ構成とメンバー役割は図1のとおりで、学生指導シミュレーションと新人指導シミュレーションの2つがあります。学生指導シミュレーションの場面は、ベッドサイドとその後の学生との振り返り場面です。新人指導シミュレーションは、新人看護師に対するリフレクション支援の場面です。それぞれのシミュレーション演習の準備となる事前ワークについてご説明しておりますので、第4回もぜひご参照ください。
後輩指導シミュレーションの概要
シミュレーションにおけるグループ構成とメンバーの役割についてご説明いたします。まず、指導者3~4名と教員2名で1つのグループをつくります。1グループにつき、4名が“教え手”の役割を担います。その他のメンバーは、観察者役や患者役として参加します。また、「実習学生役」として本学の看護学生が学生指導シミュレーションに参加してくれているほか、新人看護師役は2~3年目の看護師にご担当いただいています。
シミュレーションのテーマは図2のとおりです。
タイムスケジュールは、表1のとおりです。進行役は、各グループのファシリテーターが担っています。ファシリテーターは、病院側の実習指導者会を運営しているメンバーと本学の協働学習会を運営している教員が担当しています。
後輩指導シミュレーションの実際
学生指導シミュレーションの実際
学生指導シミュレーションでは、図2に示すとおり、5つのシナリオの実習指導場面を設定しています。図3~4はその様子です。学生指導シミュレーションについては、以前の連載「教員と臨床指導者が共に考え学ぶ協働学習会―よりよい看護学実習をめざして」第6回において、その目的や進め方についてご説明しておりますのでご参照ください。本稿では詳細は省きます。
新人指導シミュレーションの実際
新人指導シミュレーションの流れは図6のとおりで、次の2つの事例におけるリフレクション支援を行います。
事例①:新人看護師の自己の看護実践についてのリフレクションの場面
あなたの病棟では、ひと月に1回、「新人看護師が自己の看護実践の意味づけと経験から学ぶスキルを身につけること」を教育目的として「リフレクション・デイ」を設定しています。実地指導者からファシリテーションを受けながら、新人Nsが「自分自身が頑張れた、あるいはよい看護が出来たと思えた経験の事例やエピソード」について語り、その経験からの気づき、学び、教訓を見出していきます。今日は「リフレクション・デイ」です。リフレクションを支援してください。
事例②:新人看護師のある与薬ミスに関するリフレクションの場面
新人Bさんは、75歳男性Fさんの受け持ちNsです。この与薬ミスについてBさんの考えや思いを引き出し、効果的なリフレクションを支援してください。
◆オリエンテーション
前述のように新人指導シミュレーションでは、病院の2~3年目看護師が「1年目の新人看護師役」として協力してくれています。そのため、自己紹介とアイスブレイクで和んだ雰囲気づくりを行ってからオリエンテーションに入ります。第5回協働学習会時にオリエンテーションを行っていますが、1ヵ月のブランクがあることと、参加者のレディネスを高めることをねらいとして、図6と図7を用いて、改めて「演習の目的」「演習の目標」「シミュレーション・テーマ(課題)」「各メンバーの役割」「タイムスケジュール」などについて説明します。また、この時に教え手役を決めておきます。
◆ブリーフィング
教え手役は、改めて指導内容やリフレクション支援のすすめ方を構想し、準備しておきます。とくに、これまでの協働学習会で学んだ「リフレクション」に関する理論や実践、発問や助言といった指導言を活用した指導、フィードバックについて(図8)想起し、この実践で活用してもらいます。
◆シミュレーションの実施
今回は、事例1(前述の青枠参照)を中心に説明します。この事例は、先輩看護師からファシリテーションを受けながら、その月の中で「自分自身が頑張れた、あるいはよい看護が出来たと思えた経験の事例やエピソード」について語り、その経験からの気づき、学び、教訓を見出していくというシナリオです。
あるグループでは、新人看護師Aさんが、慢性疾患をもつ高齢患者・井上さん(仮称)の退院支援を、「自分自身が頑張れた、あるいはよい看護ができた」と感じた経験として取り上げました。Aさんによると、井上さんは、「自宅で生活したい」という強い希望をもっていました。一方、家族は病状の悪化による緊急入院を経験したことから、自宅で介護を続けることに不安を抱き、入院や転院を希望していました。Aさんは、初めて受け持ち患者の退院支援に取り組む中で、退院支援部門の看護師や同じチームの先輩看護師から助言を受け、それを踏まえて患者と家族が安心して退院後の生活を送れるような支援を考え、実践しました。
まず、患者の「自宅で生活したい」という思いや希望を丁寧に聴き取り、その思いを実現するためには何が必要なのかを、先輩看護師とともに整理していきました。その後、患者の希望や退院後の生活の見通しについて、退院支援看護師と共に、家族と話し合いを重ね、自宅で安心して生活を続けるための支援方法を一緒に検討しました。その結果、ご家族も自宅退院に前向きな姿勢を示すようになり、患者の希望に沿った退院支援につなげることができたということでした。
実際には、以下のやりとりがありました。
実地指導者
「今日はリフレクション・デイですね。『自分自身が頑張れた、あるいは良い看護ができたと思えた経験のエピソード』について一緒に振り返っていこうと思うんだけど……どうかな?」
新人看護師A
「はい。頑張れたと思うのは、以前担当させていただいた、慢性疾患をお持ちの井上さん(仮称)という患者さんの退院支援ができたことです」
実地指導者
「どんなことがあったのか、教えてくれますか?」
新人看護師A
「はい……。井上さんは高齢で慢性疾患を抱えていらっしゃって、直前に病気が急変して緊急入院された方だったんです。ご本人は『やっぱり住み慣れた自宅に帰りたい』って強く希望されていたのですが、ご家族の方は『また何かあったら看切れない』とすごく不安がられていて……。入院継続か転院を希望されていました」
実地指導者
「患者さんの希望とご家族の思いにズレがあったんですね」
新人看護師A
「はい。患者さんと家族さんのニーズが違っていて……。私は最初『どうしたらいいんだろう』って思って。でも、退院支援看護師やチームの先輩に助言をもらいながら、病気を抱えても自宅で暮らせる具体的なサービスや条件を整理してご家族に提示したんです。そうしたら最終的に、前向きに考えて下さり、自宅退院することができました」
実地指導者
「なるほど……。それは、よかったね。よくがんばったね。すごいと思いますよ。ちゃんと周りの先輩に助けを求めて、やっていたんだもんね。これからもその調子でがんばってね」
新人看護師A
「はい。ありがとうございます。がんばります」
◆ショートリフレクション
ショートリフレクションでは、展開された新人指導に関する振り返り(リフレクション)をメンバー各自で行います。その際、次の記録用紙(図9)を使用しています。


◆デブリーフィング
デブリーフィングの流れは、図10のとおりです。デブリーフィングでは、シミュレーションで展開された新人指導について、メンバー間で振り返りを行います。さらに、そこから生み出された教訓をもとに、新人指導に関する「自分たちのセオリー」をつくります。その際、これまでの学習会で学んだこと(教材化や発問などの指導スキル、学習環境づくりなど)についても想起を促し、行為や考えの意味づけを行います。
各グループのファシリテーターは、デブリーフィングにおいてメンバー間のディスカッションが効果的に進むようにサポートします。また、メンバーの思考活動が促され、リフレクションが深まるように、ときには、「もし、○○だったらどうしていましたか?」と刺激となる発問をメンバー全体にすることもあります。
事例①におけるデブリーフィングでは、次のようなコメントがありました。
① よい、参考にしたいと思ったところ
・新人看護師が安心して経験を語れるよう、「どんなことがあったのか教えてくれますか」と穏やかに問いかけ、最後まで、うなづきながら、話を聴いていた点がよかったと思いました。
・「患者さんの希望とご家族の思いにズレがあったんですね」と新人看護師の話を整理しながら受け止めており、語りやすい雰囲気がつくられていました。
・「よく頑張ったね」「先輩に助けを求めながら取り組めたことはよかったね」と努力を認めるフィードバックがあり、新人看護師の安心感や自己効力感につながる関わりになっていたと思いました。
② こうするともっと良くなると思ったところ
[発問]
・リフレクションでは、「何があったか」を振り返るだけでなく、その時に何を思い、何を考えながら行動したのかを言葉にしてもらうことが大切だと思いました。そのため、「その時、どのように思いましたか」「どのように考えましたか」「助言を受けて、どのような気づきがありましたか」といった発問があると、新人看護師が自分の考えや学びをより深く振り返ることができると思いました。
・新人看護師がどのように考え、判断し、行動したのかを引き出す発問があると、リフレクションがさらに深まると思いました。たとえば、「退院支援ナースや先輩からは、どのような助言がありましたか」「その助言を受けて、あなたはどのように考えましたか」「その考えをもとに、患者さんやご家族にどのようにかかわりましたか」といった発問があると、先輩などから学んだことを、どのように実践に生かしたのかを振り返ることができると思いました。
・最後に、「今回、先輩から学んだことの中で、これからも大切にしたいと思うことは何ですか」「今回の経験を通して、退院支援で大切だと感じたことは何ですか」と問いかけることで、経験を単なる成功体験として終わらせるのではなく、自分なりの意味づけや今後の実践につながる学びとして整理できると思いました。
[フィードバック]
・「よく頑張ったね」という励ましに加えて「患者さんの思いを丁寧に聴こうとしたこと」「一人で抱え込まず、退院支援ナースや先輩に相談したこと」「助言を実践に生かして家族と話し合いを進めたこと」など、具体的な行動や判断に焦点を当ててフィードバックしたり、看護しての行為や支援の意味を一緒に考えると、学びが深まると思いました。
参加者からの感想
この後輩指導シミュレーションについて、今回参加者から寄せられたのは以下のような感想です。
いろいろなタイプの学生や新人さんとの関わりを拝見し、自分も試行錯誤できるので、切磋琢磨でき、貴重な機会となりました。また、グループでは教員と指導者とでの学生との関わり方のちょっとした違いについても話題になり、改めて自分の立場や介入方法を見直したと同時に、指導者さんとの連携の際の参考にもなりました(教員)
他者の指導方法をかえりみて皆で学ぶことで新しい発見や、細かな視点などを得られてよかった。また自分が実践した場面では、ブリーフィングでいろいろ考えて実践することでまとまった指導ができたことや、良かった点を指摘されて自信や今後につなげる意欲にもなった(臨床指導者)
学生として、新人看護師として、それぞれ教え方など少し異なる部分はありますが具体的に聞き出す、できていることを認め、発言したことを否定せず、肯定することでお互い良い関わりや振り返りができるのではないかと感じました。とてもためになる演習となりました。ありがとうございました(実地指導者)
まとめ
「後輩指導シミュレーション」では、まず学生指導シミュレーションを行います。そして、学生への教育的かかわりを振り返り、教員、指導者、学生と意見交換しながら、協働的に「自分たちのセオリーづくり」に取り組みます。その後、新人指導シミュレーションに取り組み、学生指導シミュレーションで見出した「自分たちのセオリー」を手がかりに、「新人看護師にはどのような教育的かかわりが必要なのか」を検討します。このように学生指導と新人指導を比較・検討することで、学生と新人看護師に共通する支援と、それぞれの発達段階やレディネスに応じて求められる支援の違いについて考えることができます。
このように協働学習会では、看護基礎教育機関の教員と実習施設の臨床指導者・実地指導者が集い、学生から新人看護師までシームレスに支えるための教え手としての視点や教育的スキル、協働のあり方について共に考え、学び合っています。
今回の記事を参考に皆様の施設でも実践していただき、教員と臨床指導者・実地指導者が協働して、学生から新人看護師までをシームレスに支える教育について考える機会としていただければ幸いです。




