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第2回:看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル 後編:自己効力理論

第2回:看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル 後編:自己効力理論

2026.06.19奥野 信行(京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護学部長)

臨床での効果的な学びにかかわる理論②:自己効力理論

 第2回後編では、臨床での効果的な学びにかかわる理論の2つ目として「自己効力理論(図1)」をご紹介します。心理学者のアルバート・バンデューラは「ある成果を達成するために必要な行動を組み立て、実行する自分の能力に対する信念」を「自己効力感(self-efficacy)」1)と名付けました。もう少し平易にいうと「自分がある課題や行動をうまく遂行できそうだと思える感覚」を指します。
そして、自己効力感には、「結果予期」と「効力予期」の2つがあります。「結果予期」とは、自分の行動がある結果をもたらすという見通しで、「この行動をするとよい結果につながりそうだ」と感じること、いわば“よさそうだ感”です。たとえば、「患者さんにこう声をかければ安心してもらえそう」と感じることです。

図1 自己効力理論における「結果予期」と「効力予期」の関係

 「効力予期」とは、その結果を得るための行動をうまく実行できるという自信で、「自分にもその行動がうまく実行できそうだ」と感じること、つまり“できそうだ感”です。たとえば、「自分が患者さんに適切に声をかけられそうか」という感覚です。自己効力理論によると、「自分にできそうだ」という自信(効力予期)があり、その行動の後に自分にもたらされる結果について「これはよさそうだ」という期待(結果予期)が高まっているときに、人は能動的に行動すると考えられています。「患者さんのために声をかけたほうがよさそうだ」と感じていても「自分にはうまくできそうにない」と思えば、行動にはつながりません。反対に「自分ならできそうだ」と感じていても、「それをすることでよい結果につながる」という見通しが持てなければ、動機づけは高まりにくくなります。
 このように、学び手は結果予期と効力予期をもとに、自分がその行動を行うかどうかを決定することが、行動や結果につながっていきます。私たち教え手は、学び手の行動だけを見るのではなく、その背景にある「よさそうだ感」と「できそうだ感」のどちらに働きかける必要があるのかを見極めながらかかわることが大切です。

自己効力のパターン分類とかかわり

 自己効力理論は、「結果予期」と「効力予期」の組み合わせによって、学び手の自己効力感の状態を4つのパターンに整理することができます。

パターン1:意欲的で自信もある(図2)

図2 「結果予期」と「効力予期」の関係(パターン1)

 パターン1の学び手は、結果予期(よさそうだ感)が高く、さらに効力予期(できそうだ感)も高い状態です。この場合、「やる意味があるし、自分にもできそうだ」と感じているため、行動や挑戦に前向きで、「できます」「やりたいです!」といった能動的で意欲的な反応が見られやすいのが特徴です。

 臨床において学びを積み重ねるうえで、このパターンが最も望ましい状態です。ただし、自己目標が高すぎる場合や、挑戦する課題についての知識や技術が伴っていない場合には、深刻な失敗につながる恐れがあり、その失敗によって大きく自信を喪失してしまう可能性もあります。そのため、教え手には、学び手の自己効力と課題の難易度とのバランスを調整することが求められます。具体的には、学び手の知識や技術の習熟度を普段からよく見て把握しておくこと、学び手にとって妥当なレベルの課題や目標を設定すること、そして学び手の「やってみたい」「やってみよう!」という意欲や気持ちを承認しながらかかわることです。
 たとえば、学び手が「やってみたいです」と自ら進言してきたときに、すぐに任せるのではなく、「そのやる気はとても嬉しいけれど、今回は私がするのをよく見ておいてくれる?」「もしものときに私がフォローできるように、そばで見ていてもいいかな?」といったように、その気持ちを受け止めながら、意欲を否定することなく、安全に学びや経験ができる範囲を調整してかかわります。

 パターン1のような学生や新人看護師が示す「やってみたい」「やってみよう」という意欲の背景には、成長への欲求が大きくかかわっており、これらは大切な学習資源です。しかし、その資源を有効に活かすためにも、現在の知識や技術に応じて課題の難易度を調整し、安全で効果的な学びにつなげていく支援が求められます。

パターン2:やってみたいけれど、自信が無い(図3)

図3 「結果予期」と「効力予期」の関係(パターン2)

 パターン2は、結果予期は高いものの、効力予期が低く、行動に移せないパターンです。臨床の学生や新人看護師では非常によく見られる状態で、「患者さんのために必要だし、自分にとってもよい経験になるとは思うけれど、自分がやるのは不安」と感じるパターンです。このような学び手は、「やってみたい」という気持ちはある一方で、「できる気がしない」と感じています。そのため、失敗への不安から「できなかったらどうしよう」と行動をためらいやすくなります。そして、その状態が続くと、さらに自信を失い、挑戦を避けるようになることもあります。これは意欲がないのではなく、効力予期、つまり“自分にもできそうだという感覚”が低い状態です。

 このような場合には、自信が持てるように効力予期を高めることが重要です。たとえば、モデルとなる行動を見せて「こうすればできるのか」と感じさせたり、コーチングによって段階的に知識や技術を高めていきます。「もし困ったらすぐにフォローするから、一度やってみよう」と挑戦を奨励したり、「ここまでしっかり練習して準備してきたから大丈夫。まずは一緒にやってみましょう」と、二の足を踏む学生や新人看護師を励まし、背中を押すかかわりが必要です。また、いきなり一人でやってもらうのではなく、小さな成功体験を積み重ねることも大切です。段階的に経験を積むことで、「できた」という感覚が育ち、効力予期の向上につながります。
 学生や新人看護師が立ち止まっているとき、その背景には“できそうだ感の低さ”があるかもしれないという視点を持つことが、教え手には大切です。

パターン3 自信はあるが、動機づけが低い(図4)

図4 「結果予期」と「効力予期」の関係(パターン3)

 パターン3は、効力予期は高い一方で、結果予期が低いパターンです。つまり、「自分にはできる」という自信はあるものの、「よさそうだ」と思えず、動機づけが低い状態の学び手です。教え手から提案・指示された活動に対して、「やれと言われればできますけど、それに意味はありますか」「本当に必要ですか」と反応する学び手がいます。このような学生や新人看護師を見ると、「やる気がない」「態度に問題がある」と受け取りやすいかもしれません。しかし実際には、結果予期の低さ、つまり“それをやる意味や価値を感じられていないこと”が背景にある場合も少なくありません。
 この場合、「つべこべ言わずに、とにかくやりなさい」と指示しても逆効果です。まずは、なぜその行動の意味や必要性を感じられないのか、なぜやろうという気持ちになれないのかを理解することが重要です。たとえば、提案・指示された看護や学習活動の価値がまだ見えていないのかもしれません。あるいは、過去の経験から、その意義を十分に実感できていないのかもしれません。そのため、教え手は「どうしてそう思うの?」「何か気になることがある?」と問いかけ、学び手の思いや考えを傾聴し、結果予期が低い背景を探る必要があります。そのうえで、患者への影響や看護の意味、学ぶことの目的・意図を一緒に考えることで、結果予期を高めていきます。
 このパターンの学生や新人看護師がもつ自信は、大きな強みです。その自信を、学びや看護実践に向かう力へとつなげていくことが重要です。

パターン4 意味を見いだせず、自信も持てない(図5)

図5 「結果予期」と「効力予期」の関係(パターン4)

 パターン4は、結果予期と効力予期の両方が低いパターンです。指示あるいは提案された行動に対する意味やメリットを感じることができず、それを成し遂げる自信も持てない学生や新人看護師です。
 たとえば、実習で「私がやってもどうせうまくいかないし、患者さんに迷惑がかかる」と話す学生や、「私には無理ですし、私じゃない方が患者さんにとってよいと思います」と話す新人看護師がいると思います。その背景には、焦り、戸惑い、あきらめ、無力感といった感情が影響している可能性があります。この状態で無理に行動を求めると、さらに意欲や自信を失わせてしまいます。

 教え手として必要なのは、学び手の不足を指摘したり助言したりすることではなく、まず学び手の思いや考えを聴き、結果予期や効力予期が低くなっている背景を理解することです。具体的には、「そう感じているんだね」と学び手の気持ちを受け止め、思いや考えを傾聴し、関心や共感を示します。そのうえで、患者への影響や看護の意味、学ぶことの目的や意図を一緒に考えながら、結果予期を少しずつ高めていきます。あわせて、自信が持てない理由や、自信をつけていくためにどのような課題に取り組めそうかを一緒に整理し、「まず何ならできそうか」を考えます。そして、必要に応じてコーチングを通して知識や技術を補いながら、小さな成功体験を積み重ねていきます。最初から大きな課題に挑戦するのではなく、「今日は患者さんにあいさつできた」「患者さんの血圧を測定できた」といった小さな達成を積み重ね、「できるかもしれない」という感覚を少しずつ育んでいきます。
 こういった学生や新人看護師が、少しずつ自分を肯定し、「やってみよう」と思える力を取り戻していけるよう、焦らせず、伴走しながら支えていく姿勢が重要です。

自己効力感を高める4つの要因

バンデューラは、自己効力感に影響を与える要因として、「遂行体験」「代理的体験」「言語的説得」「生理的・情動的状態」以下の4つ(表1)を挙げています1)。これらは、人が「自分にはできそうだ」と感じる際の根拠となる情報源であり、自己効力感を形成・変化させる要因として位置づけられています。

表1 自己効力感を高める要因とかかわり方
自己効力感を高める要因 かかわり方
遂行
体験
自分で課題に取り組み、成功や達成を経験することで得られる情報 ・学び手のレベルに応じた達成可能な課題を設定する
・小さな成功体験を積み重ねられるよう支援する
・失敗経験も次につながる学びとして一緒に振り返る
代理的
体験
他者の行動や経験を観察したり共有したりすることで得られる情報 ・教え手が実践を示し、モデルとなる行動を見せる
・他の学び手の経験や工夫を共有する機会をつくる
・自分にもできそうだと思える対象との比較を促す
言語的
説得
信頼できる他者からの励まし、承認、助言などの言葉による情報 ・学び手の努力やできている点を具体的に認める
・問いかけを通して学び手の考えを引き出す
・挑戦への不安を和らげる励ましの言葉をかける
生理的・
情動的
状態
課題に取り組んだ際の感情や身体反応から得られる情報 ・感情や身体反応のよい変化に気づけるよう問いかける
・見方を変えて捉え直せる(リフレーミング)ようにかかわる
・「できない」という思い込みから抜け出す支援をする
・安心してものごとに取り組める環境や状況をつくる

 「遂行体験」は実際にやってみて成功した体験からの情報です。学び手にとって、「よい看護ができた」「患者さんがよくなった」「家族から感謝された」「先輩の役に立てた」という実感や手応えを伴う成功体験は最大の自信になります。その際、スモールステップで取り組める課題を設定し、小さな成功体験を積み重ねられるようにかかわることが大切です。また、うまくいかなかった体験も、「次にどうすればよいか」を一緒に振り返ることで、前向きな失敗として意味づけることができます。
 「代理的体験」は、他の学生・新人看護師、あるいは教え手など、他者の体験から得られる情報です。看護の初学者が、他の学生(あるいは新人看護師)や現場の看護師の行動や実践を観察したり、経験を聞いたりすることで「あんな風にするのか。自分にもできるかもしれない」と感じることができます。そのため、教え手が実際にやってみせるモデリングや、他の学び手の経験を共有するカンファレンスなどを通して、「できそうだ感」を育むことが重要です。
 「言語的説得」は言葉による説得で得られる情報です。具体的には、励ましや承認、助言など、言葉や態度を通して伝えられる働きかけです。とくに、専門性に優れ、信頼できる人からの励ましや賞賛は、「自分もできそうだ」という効力予期を高めます。つまり、学生にとっては、指導者や教員、新人看護師にとっては、プリセプターや実地指導者、看護師長、医師などからの働きかけがこれに相当します。
 「生理的・情動的状態」は、課題を遂行したときに自分の身体反応や感情の変化に気づくことを指します。とくに、うまくいったときに感じた安心感や達成感、嬉しさといったプラスの感情や、「前より緊張しなかった」「手が震えずにできた」といった身体反応の変化は、自己効力感を高める大切な情報源になります。また、臨床において学生や新人看護師は、できなかったことや不足していることに目が向きやすく、自己効力感が低い場合、「自分はできていない」と捉えがちです。しかし、教え手が、できていることや前回からの変化に目を向けられるようかかわることで、そのような思い込みから抜け出し、「できていない」から「できるようになっている」へと見方を変えられるようになります。こうした認識の変化は、自己効力感の向上につながります。その他、教え手が深呼吸を促したり、「困ったときはいつでもフォローするよ」と伝えて支えることで、緊張が和らぎ、安心して取り組めるようになることも、自己効力感を高めることにつながります。

ケーススタディ:グループワーク

  協働学習会では、講義の内容を踏まえ、臨床における看護の初学者の学びを支える理論を活用したかかわりのスキルについて、教員および臨床/実地指導者で5名程度のグループを編成し、ケーススタディを行います。流れは以下の通りです。

1)事例を提示し、その事例における新人看護師の「強み」を見出す
2)新人看護師が「学習を進める上での課題」について考える
3)1)2)を踏まえて看護学生・新人看護師への教育的なかかわりや支援について考え、自由にディスカッションする

まとめ

 今回は、第2回協働学習会のテーマ「看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル」として認知的徒弟制理論と自己効力理論についてご紹介させていただきました。
 参加者の感想として、次のようなものがありました。

・認知的徒弟制のモデリングとコーチングは、病棟としても意識して指導・教育してきたが、そこからの足場かけや足場はずしは不十分なこともあった。学生の個性に合わせた指導も含めて取り組んでいきたい。
・自分の部署の新人看護師に多い自己効力感のパターンがわかった。結果予期を高められる、自信を高めていける指導方法をチューター間で共有していくことが必要であると思った。

 これらの感想から、本学習会が看護の初学者へのかかわりを見直し、それぞれの実践に活かしていくきっかけになったことがうかがえました。

引用・参考文献
1)バンデューラ A:社会的学習理論(原野広太郎監訳),金子書房,1979
2)安酸史子:目からウロコの新人ナース・プリセプティ指導術,メディカ出版,2002

 

協働学習会についてご質問等がございましたら、こちら(Googleフォーム)からご連絡ください。個別にメールにてご回答させていただきます。

奥野 信行

京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護学部長

おくの・のぶゆき/国立循環器病センターでの勤務を経て、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護教育学専攻修了(看護学修士)、2019年に神戸市看護大学大学院博士後期課程修了(看護学博士)。2003年に兵庫県立看護大学助手、ワシントン大学看護学部Visiting Scholar。2006年に園田学園女子大学講師を経て、京都橘大学看護学部准教授、2020年より同大学および大学院の教授。2022~2025年に看護教育研修センター長、2026年に看護学部学部長に就任。研究テーマは、ICU患者の主体性回復を支える学習ファシリテーション能力向上プログラムの開発、クリティカルケア看護師の臨床における学習活動とその支援方法、実習指導者と看護教員の協働的な学び、臨床看護師の「看護師らしさ」の形成。著書に『看護実践のための根拠がわかる基礎看護技術』(共著、メヂカルフレンド社、2018)、『成人看護II 慢性期・回復期 第2版 (パーフェクト臨床実習ガイド)』(共著、照林社、2018)など。趣味はバイクいじりとツーリング。

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