ここ数年、COVID-19のパンデミックや戦争を背景に、世界を取り巻く状況は大きく変化しました。また、日本国内に目を向けると、在日外国人・訪日外国人数が過去最多を更新し続け、国内の医療機関でも外国人患者への対応が必要となる場面が増えており、国際看護を学ぶ重要性が一段と高まっています。そこで、『NiCE国際看護 改訂第2版』を編集された森淑江先生に、「国際看護」とは何か、また国際看護を学ぶことで見えてくる看護の原点とは何か、そして本書に込めた考えをご紹介いただきました。
NurSHARE編集部
「国際看護」とは何か
「国際看護」と聞いて、どのような科目か戸惑う看護職者の方も多く、時に「国際看護とは何ですか?」と質問されることがあります。それに対して私はたいていこう答えています。「小児看護が子どもの特徴、成長・発達を考慮した看護を提供するように、あるいは老年看護が高齢者の特徴を念頭においた看護であるように、国際看護とは対象とする人の生まれ育った国(や地域)の特徴をふまえて行う看護のことです」。
日本で生まれ育った私たちは、日本の制度や教育、文化など共通の認識を持った日本人を対象に看護する場合には、こうすれば心地よいに違いない、こう説明すれば小学校で習っているから理解できるはずなど、ことさら考えずに行動しても大きく間違うことはないでしょう。しかし日本人でない人に対しては同じ対応でうまくいくとは限りません。例えば私たちはなるべく熱い清拭用のタオルを使用しますが、それは日本人には好まれても、熱帯地方で生まれ育った外国人患者にはひどく驚かれることがあります。暑い環境で生活してきた人は、冷たいタオルが気持ちいいと感じるためです。このように清拭ひとつとっても、その人に求められる看護や看護技術はその人が育ってきた国によって違いがあります。看護は対象とする人々の生活と密接に関わるものであり、その生活のあり方は国によって異なるからです。
国際看護は途上国で国際協力活動をする看護師に必要な科目なので日本で働く自分には必要ないと考える方もいますが、たとえ日本国内にとどまっていても、私たちの看護の対象は日本人だけではありません。日本に滞在する多くの外国人や旅行者に医療機関や地域で接する機会も増加してきました。その時は日本人を対象として無意識に積み上げられてきた看護の知識や技術だけでは、十分ではないかもしれません。
看護教育の中で「国際看護」が教えられるようになったのは、何度目かの保健師助産師看護師養成所指定規則(以下指定規則とする)が改正された1996年(1997年施行)以降のことではないかと考えられます。1996年改正の指定規則に基づく具体的な教育内容を示す「看護婦等養成所の運営に関する指導要領」では、基礎看護学の留意点の一つとして「国際社会において、広い視野に基づき、看護師として諸外国との協力を考える内容とする」と示されていました。それが現在の「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」では、看護の統合と実践の留意事項の一つとして「諸外国における保健・医療・福祉の課題を理解する内容とする」とされ、以前よりもさらに在日外国人医療を意識した内容が求められています。
もちろん先進国でも途上国でも日本以外の国で看護活動をする場合には、国際看護の知識は大いに役立ちます。むしろ、その国はどういう国で、どのような人が生活し、その国で求められる看護は何かということを常に意識している必要があります。
国際看護の対象は外国人だけではありません。相手の領域に入り込んで看護活動を行う在宅看護では、それぞれの家庭がもつ文化やその家庭の事情に合った看護が求められます。各家庭に合わせた在宅看護のためには、国際看護の考え方が有用であることはご理解いただけるでしょう。
また、交通網や情報網などの発達により世界の人々の交流が盛んになるにつれて、世界的規模で感染症の大流行が見られるようになりました。これに対して世界中の国々が協力して解決にあたってきました。医療の最前線で戦う私たち看護職者には、世界で何が起こっていて、どのように対応すべきかという基礎的知識と技術を押さえておくことが重要です。
『NiCE国際看護 改訂第2版』の構成とポイント
『NiCE国際看護-国際社会の中で看護の力を発揮するために』は初版より一貫して、国際社会の中で適切な看護活動をするための基本的知識を提供することを目指してきました。本書は第1部の総論と第2部の各論の2部構成となっており(下図参照)、授業時間数が少ない場合には、総論を中心に講義を行うことで、学生は基本的知識を得ることができます。さらに各論に記載された具体的事例をいくつか取り上げると、学生の興味を惹くことができるでしょう。

第1部 総論
第Ⅰ章では、国際看護とは何かを明確に示し(本書p.8参照)、国際看護の概念と対象について丁寧に説明しています。これにより、学生が、なぜ国際看護を学ぶ必要があるのかを理解できるようにし、学習への動機づけを図っています。看護は生活者である「人」を対象としているため、その生活に深くかかわる「文化」は、求められる看護にも大きな影響を与えています。しかし文化だけでなく、社会・経済や気候・地理などの文化以外の要素も加わることによって、異なる国には異なる看護が存在していることにも触れています。そして日本の国際看護の歴史についても説明しています。
第Ⅱ章では看護と文化の関係、第Ⅲ章~第Ⅴ章では世界の健康課題、保健医療システムと看護の課題、これらの課題に取り組む機関について述べています。看護教育においては世界の状況について考える機会がなかなかありませんが、世界の中で日本はどのような位置づけにあり、どのような役割を果たすべきかを考える手掛かりにしていただきたい章です。さらに第Ⅵ章では、国際看護の実践の場となる在日・訪日外国人、在外日本人への医療と看護に加えて、将来日本以外の国で看護師として働いてみたいと考える学生に向けた内容や、日本国内で外国人看護師と協働する場合についても触れています。第Ⅶ章では、いつか国際看護協力活動に携わってみたいと考える学生が養うべき態度や能力、知識などが明示されています。
第2部 各論
各論では、各著者が実際に看護活動をした体験について記述しています。
第Ⅷ章では、実際に行われた国際看護協力活動について病院、地域、看護教育の場での体験だけでなく、テーマ別に非感染性疾患(NCDs)、母子保健・母子看護、難民、災害、学校保健、感染症、看護管理、看護政策等についての体験が記載されています。各著者の体験から具体的にどのように活動を進めているのかを知ることで、学生は国際看護の面白さを理解できます。そして、将来の選択肢として活動のイメージを描くとともに、自分がどのような力をつけていくべきかを考えることができます。
第Ⅸ章では、日本の国際化に伴う医療と看護の実際について記述しています。多くの学生が将来日本国内のみに留まっていても経験するであろう、在日外国人・訪日外国人への医療と看護や外国人看護師との協働、在外日本人への医療と看護の実際について知ることができます。
第Ⅹ章では、外国で看護活動を行うための様々な道筋について各著者の経験をもとに説明しており、学生が将来への示唆を得られるでしょう。
国際看護を学ぶことで実感する「看護の原点」とは
以上、国際看護とは何か、そして『NiCE国際看護』について簡単に説明しましたが、それでも国際看護は遠い存在と受け取られる方がいるかもしれません。しかし私自身が様々な国で看護活動をしてきた中で言えることがあります。それは日本でも、途上国でも、先進国でも、どこの国であっても、対象の生活に合わせて看護師が働きかけるという「看護の原点」は同じだということです。それについては学生を引率して行ったタイでの1週間の実習で実感しました(本書p.23のコラム参照)。実は「看護の原点」という言葉はその実習を受けた学生から発せられたものでした。そのうえ国際看護で適用される看護の基本は、基礎看護の知識や技術です。したがって、基礎看護の教育をしっかり受けた学生が国際看護の確かな知識や技術を獲得できることになります。
国際看護とは、「自分とは異なる国や地域や場所において、あるいはそのような土地で育った人に対して、看護に影響を与えるあらゆるものを考慮して適用される看護」であり、対象の背景を把握して、その人に合った看護をするために、これから看護職になる者が必ず学ぶべき看護なのです。




