看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

第2回:看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル 前編:認知的徒弟制

第2回:看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル 前編:認知的徒弟制

2026.06.19奥野 信行(京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護学部長)

第2回のねらい

 第2回のテーマは「看護の初学者の臨床における学びを支える理論とスキル」です。ねらいは、看護の初学者である看護学生や新人看護師の臨床における学びを支援する理論やスキルについて学び、グループワークを通して自分なりの理解を深めることです。学生や新人看護師が臨床で効果的に学び、成長していくためには、教え手の看護教員と臨床指導者が学びを支える理論を理解し、それを実践に活かしていくことが大切です。
 主な学習内容は、以下のとおりとなります。

①学習理論から考える臨地実習における効果的な教え方とかかわり方
②臨床での効果的な学びにかかわる理論①:認知的徒弟制理論
③臨床での効果的な学びにかかわる理論②:自己効力理論

 学習理論から考える臨地実習における効果的な教え方とかかわり方(図1)

図1 学習理論から考える臨地実習における効果的な教え方とかかわり方についてのモデル図
[Brown JS, Collins A, Duguid P:Situated cognition and the culture of learning.認知科学ハンドブック(安西祐一郎ほか編),共立出版.1989/Collins A et al:認知的徒弟制.学習科学ハンドブック 第2版 第1巻 基礎/方法論(ソーヤー RK編,北田佳子ほか訳),p.91-107,北大路書房,2006/Bandura A:社会的学習理論(原野広太郎監訳),金子書房,1979/Kolb DA:Experiential learning: Experience as the source of learning and development.FT Press,1984を参考に作成]

 学生・新人看護師ら看護の初学者が、実践的知識・スキルを形成し、看護実践能力を獲得していくためには、臨床での「体験から学ぶ」ということがとても重要です。
 認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)1,2)という学習理論によると、臨床で学ぶときには「モデリング」「コーチング」「足場かけ」「足場はずし」という4つのステップからなる現場からの段階的サポートが有効であるとされています。また、経験学習モデル3)によると、こうしたサポートを受けながら、学び手自身が看護活動に参加する中で具体的な体験をし、その体験を振り返って省察することで、得られた教訓(学び)を言語化して自分の中に落とし込んでいくといいます。そして、その教訓(学び)を新しい状況に適用し、再び実践に取り組むという繰り返しを通して、実践的な知識やスキルが形成されていくと考えることができます。
 つまり、「経験」は単なる「体験」の積み重ねではなく、学習や成長のプロセスであり、省察(リフレクション)を伴うものと言えます。そのため、「こうすればいいんだ」だけでなく、「どうするとよくなるのか」「これでよいのか」と自問すること、「なぜそうするのか、そうなのか」と意味づけることが大切です。
 このように体験から学ぶ、つまり、「体験を経験化する」ことによって良質な学びが生まれます。そして、そのプロセスを支える教え手の教育的なかかわりとして、1)教授行為(指導)の展開と2)自己効力感4)の形成支援が土台になります。前編では、そのうち1)に関する理論として、前述の「認知的徒弟制理論」についてご説明します。後編では、2)に関する理論として「自己効力理論」についてご紹介します。

臨床での効果的な学びにかかわる理論①:認知的徒弟制理論

 認知的徒弟制理論(図2)とは、ジョン・S・ブラウン(Brown JS)やアラン・コリンズ(Collins A)らによって提唱された、徒弟的な学習形式を教授法に応用した学習理論です5)。この理論では、学習者が実践への参加を通して熟練者と相互作用しながら、知識や技能だけでなく、判断や問題解決に必要な思考様式や認知的スキルを獲得していく学習プロセスを説明しています。

図2 認知的徒弟制理論における教育的かかわりのスキル
[Collins A et al:認知的徒弟制.学習科学ハンドブック 第2版 第1巻 基礎/方法論(ソーヤーRK編,北田佳子ほか訳),p.91-107,北大路書房,2006/松尾睦,築部卓郎:看護師・医師を育てる経験学習支援―認知的徒弟制による6ステップアプローチ(看護管理まなびラボBOOKS),医学書院,2023を参考に作成]

認知的徒弟制理論の4つのステップ

モデリング

 モデリングとは、「特定のスキルをどのように用いるのか」「問題解決の場面でどのように考え、判断し、行動するのか」を観察する機会を学び手に与え、熟達者の実践と思考の過程を学べるようにする、模範を示すタイプの指導です。どのような手順で実践し、何に着目しながら考えているのかを言葉にしながら模範を示したり、実践後にその思考過程を振り返りながら説明したりする指導がこれにあたります。たとえば、術後急性期患者の観察場面において、「呼吸音は、このように左右差や音の変化に注意しながら聞きます」とやり方を示しながら観察のポイントを伝え、患者の不安や安心に配慮しつつ、観察後に「なぜ左右差に注目したのか」「どのような状態を考えたのか」と思考過程を言語化して伝えます。

コーチング

 コーチングは、学び手の特定のスキルの実施や問題解決の過程を教え手が観察しながら具体的な指導を行う、させながら導くタイプの指導です。学び手に患者を観察してもらったり、実践の様子を見守りながら、必要に応じて指示や助言、発問、フィードバックを行う場合がこれにあたります。たとえば、ベッドサイドに同行し、「呼吸音を聞くときには、副雑音の有無や呼吸音の左右差を聞き分けることが大切です。実際に聞いてみましょう」と声をかけながら、学び手の実践に付き添います。そのうえで、患者の状態や安心に配慮しながら、必要に応じてその場で指示や助言を行ったり、観察後に「あれが断続性副雑音と呼ばれる音です。どのような状態のときにこの音が聞かれると思いますか?」「この患者さんにはどのような対応が必要でしょうか」と問いかけたりしながら、学び手の気づきや理解、判断を促していきます。

足場かけと足場はずし

 足場かけは、「スキャフォールディング(scaffolding)」とも言われ、学び手が自分の力で課題を達成できるように、少しの助言や手助けをするタイプの指導です。学び手が独力で看護を実践でき、またそのスキルに磨きをかけていくことを支援する場合が相当します。具体的には「一緒に練習したときの流れを思い出しながらやってみて」と少し助言したり、「この気づきを活かして、次はどのようにするとよさそうかな」と発問しながら、体験を振り返り、学びや教訓の言語化を支援します。また、「同じようなことが起こったときにはどうしますか」といった問いかけを通して、学び手が自己の経験を一般化し、新たな状況へ応用できる力を育みます。
 さらに、「学内演習で同じような患者さんのアセスメントをしたね。そのときどう考えたの?」「奥野先生の資料に詳しく書いてあるんじゃないかな。見てみたら」といった声かけを通して、学び手が既有の知識や経験を活用できるよう支援します。また、「次は○○に挑戦してみようか」と学び手自身が探究し問題解決に取り組めるよう働きかけるとともに、「あなたなら大丈夫。落ち着いてやってみよう」などといった励ましを通して、自ら課題解決に向かう意欲を支えます。そして、学び手の成長に応じて徐々に支援を減らし、自立した実践へとつなげていきます。これを「足場はずし(フェイディング:fading)」と呼びます。

認知的徒弟制理論による支援例

 「看護師・医師を育てる経験学習支援―認知的徒弟制による6ステップアプローチ」6)で紹介されている内容をもとに、臨床における新人看護師への具体的なかかわりについてご説明します。この本では、経験から学ぶ力を育てる支援として、認知的徒弟制理論に基づく学びのステップが示されています。その中でも、新人看護師(2年目)がプリセプター(4年目)から受けた効果的な指導について、モデリング、コーチング、足場かけ、足場はずしの観点で紹介しています(図3)。

図3 認知的徒弟制理論における支援例
[松尾睦,築部卓郎:看護師・医師を育てる経験学習支援―認知的徒弟制による6ステップアプローチ(看護管理まなびラボBOOKS),医学書院,2023を参考に作成]

 この本では、ある看護師長が、看護師になって6〜7年目のときに上司から受けた効果的な学習支援の事例も紹介されています。図3の支援例の赤字下線に注目してみてください。上司であった当時の看護師長は、自分の患者さんとのかかわりや後輩指導などの仕事ぶりをさりげなく見てくれており、「私を承認してくれている」「私に期待してくれている」と感じられる声かけをしてくれたそうです。また、相談したときには、「よい点を褒めてくれた」上で、「私でもできるかもしれない」と思えるような「具体的な指導をしてくれた」といいます。
 この事例からわかるのは、学生や新人に限らず、人は教え手から承認されること、期待されること、関心を持ってもらえること、褒められること、そして自分のレベルに合わせた具体的な指導を受けることで、力を発揮しやすくなるということです。臨床におけるこうした教え手のかかわりは、学び手の学びや成長を大きく支える重要な要素だと言えます。

ショートリフレクション:認知的徒弟制理論による学びの経験を振り返る

 認知的徒弟制理論について説明した後、協働学習会では、ショートリフレクションと称した個人ワークを以下のテーマ(図4)で実施しています。

図4 認知的徒弟制理論に関するショートリフレクション

 このワークのねらいは、看護の初学者を教える立場にある教員や指導者が、自身が学び手として受けてきた教育的支援やかかわりを振り返り、それがどのように自分の学びを支えていたのかを、認知的徒弟制の視点から捉え直すことです。そして、その気づきを今後の学生や新人看護師への支援に活かしていくことを目的としています。

引用・参考文献
1)Brown JS, Collins A, Duguid P:Situated cognition and the culture of learning.認知科学ハンドブック(安西祐一郎ほか編),共立出版.1989
2)Collins A et al:認知的徒弟制.学習科学ハンドブック 第2版 第1巻 基礎/方法論(ソーヤー RK編,北田佳子ほか訳),p.91-107,北大路書房,2006/Bandura A:社会的学習理論(原野広太郎監訳),金子書房,1979
3)Kolb DA:Experiential learning: Experience as the source of learning and development.FT Press,1984
4)バンデューラ A:社会的学習理論(原野広太郎監訳),金子書房,1979
5)福島真人:学習の実験的領域―学習の社会理論のための覚書.「学び」の認知科学事典(佐伯胖監修,渡部信一編),p.95-108,大修館書店,2010
6)松尾睦ほか:看護師・医師を育てる経験学習支援―認知的徒弟制による6ステップアプローチ(看護管理まなびラボBOOKS),医学書院,2023 

 

協働学習会についてご質問等がございましたら、こちら(Googleフォーム)からご連絡ください。個別にメールにてご回答させていただきます。

奥野 信行

京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護学部長

おくの・のぶゆき/国立循環器病センターでの勤務を経て、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護教育学専攻修了(看護学修士)、2019年に神戸市看護大学大学院博士後期課程修了(看護学博士)。2003年に兵庫県立看護大学助手、ワシントン大学看護学部Visiting Scholar。2006年に園田学園女子大学講師を経て、京都橘大学看護学部准教授、2020年より同大学および大学院の教授。2022~2025年に看護教育研修センター長、2026年に看護学部学部長に就任。研究テーマは、ICU患者の主体性回復を支える学習ファシリテーション能力向上プログラムの開発、クリティカルケア看護師の臨床における学習活動とその支援方法、実習指導者と看護教員の協働的な学び、臨床看護師の「看護師らしさ」の形成。著書に『看護実践のための根拠がわかる基礎看護技術』(共著、メヂカルフレンド社、2018)、『成人看護II 慢性期・回復期 第2版 (パーフェクト臨床実習ガイド)』(共著、照林社、2018)など。趣味はバイクいじりとツーリング。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。