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最終回:臨床での新人指導シミュレーション―学生から新人看護師までシームレスに支える

最終回:臨床での新人指導シミュレーション―学生から新人看護師までシームレスに支える

2026.09.11上山 晃太朗(地方独立行政法人京都市立病院機構 京都市立病院 看護師長)

はじめに

 今回は、「教員と臨床指導者がともに考え学ぶ協働学習会」を通して、卒前教育と卒後教育を切れ目なくつなぐ教育のあり方について、臨床側からご紹介します。
 臨地実習では、教員と臨床指導者が協働しながら学生の学びを支えています。また、学生教育と新人教育は、それぞれ異なる教育目標や評価基準を持つものの、対象者の成長過程という視点で捉えると連続した教育活動です。しかし現状では、学生は卒業時に「看護師」として臨床へ送り出され、臨床で「新人看護師」として新たな指導者による新たな教育が開始されます。そのため、それまで積み重ねてきた学びが十分に引き継がれないことが少なくありません。学生教育から新人教育への転換の課題は、教育の主体や方法が切り替わることによるギャップが生じやすいことなのです。看護実践能力は卒業を境に急激に変化するものではありません。学生時代に育まれた「考える力」や「振り返る力」を新人教育においても継続的に支援することが、臨床判断能力や実践力の向上につながると考えます。
 たとえば、学生時代には教員や臨床指導者から「なぜ、そのように考えたのか」「患者にとって何が最善か」を問いかけられながら思考を深める機会が多くあります。一方、新人教育では業務が優先され、「この場合はこのようにする」という知識や手技の習得に重点が置かれやすくなります。その結果、新人看護師が自分で考える機会が減少し、学生時代に培った臨床推論やリフレクションを十分に活かせないこともあります。

 そこで、協働学習会の最終回で行っている「臨床における学生・新人指導のシミュレーション」では、新人看護師とのリフレクション・デイ(リフレクション・デイについては後述)の場面をシミュレーションの教材として実施しています。ここでは、学生指導で大切にしている教育方法を新人教育へどのように活かすことができるのか、教員と臨床指導者が共に体験しながら学ぶことを目的としています。本稿では、シミュレーションの概要と参加者の学びをご紹介し、学生から新人看護師までシームレスに支える教育について考察します。

新人指導シミュレーションの設定場面

 シミュレーションでは、新人看護師の自己の看護実践についての言語化とリフレクション支援について学ぶことができるよう、病棟に配属されて約3ヵ月の新人看護師を対象とした「リフレクション・デイ」での振り返り場面を設定しました。
 当院の病棟では、月に1回「新人看護師が自己の看護実践の意味づけと経験から学ぶスキルを身につけること」を目的として「リフレクション・デイ」を設定しています。そこでは、新人看護師が指導者からのファシリテーションを受けながら、以下の項目について語ります。

・やりがいを感じたエピソードと、なぜやりがいを感じたか
・モチベーションが下がったエピソードと、なぜモチベーションが下がったのか
・前回の振り返りから『いま、思うこと』
・これからの展望(6ヵ月目に向けて目指すこと)」

 これらを語ることで、その経験からの気づき、学び、教訓を見出していきます。指導者は教材化・発問・助言・フィードバック、効果的な応答などによる教育的かかわりを行い、新人看護師の言語化とリフレクションを支援します。
 入職後3ヵ月は夜勤の独り立ちに向けて取り組んでおり、新人看護師にとって身体的にも精神的にも負荷のかかりやすいタイミングです。そのため、振り返り場面として重要な時期であると考えました。また、新人看護師役としてシミュレーションに参加する2年目看護師にとっても、当時を想起しやすい時期であると考え設定にいたりました。

新人指導シミュレーションの進め方

グループ構成と役割分担

 1グループあたり5~6名で構成します。役割分担としては、指導者(教え手)役が1名、新人看護師役の2年目看護師が1人、上記には該当しないメンバー全員が観察者役となります。シミュレーションにあたっては、新人役の2年目看護師が実際に「3ヵ月目の新人看護師」だったときに振り返りを行った際の書面をあらかじめ準備して臨みます。

シミュレーションの流れ 

1.オリエンテーション(10分):グループメンバーは実施内容などの説明をファシリテーターから受けます。前回までの学習会を振り返り、シミュレーションの実施に向けた作戦会議を行い、くじ引きで役割を決めます。
2.ブリーフィング(5分):教え手役は進め方を構想し、準備(心構え)をします。
3.新人指導シミュレーション(10分):シミュレーションを実施します。
4.各自のショートリフレクション(5分):教え手役・新人看護師役・観察者役は、各自でリフレクションを行います(内容は記録用紙に記載します)。
5.デブリーフィング(20分):自分たちの新人指導のセオリーづくりとして、教材化、教示・発問、フィードバック、応答の仕方、学習環境づくりといった指導方法と展開した教育的スキルをベースに、以下のような観点で話し合います。
 ・振り返る:シミュレーション経験を振り返り、気づいたことを伝え合い、意見交換をします。
 ・教訓を引き出す:メンバー全員で、教訓になることをまとめ、次にどうすべきかを考えます。

デブリーフィングにおける各役割のルール

指導者(教え手)役

・シミュレーション実施後、自身の指導においてキー(象徴的)となった場面を挙げ、自己のリフレクション(自己の指導、教育的かかわり、結果、評価、分析、改善策、教訓化したいこと)を行います。
・そのリフレクション内容をグループメンバーに伝えます。それをもとに、メンバー間(新人看護師役や観察者役を含む)で意見交換を行います。

新人看護師役

・自身の学びにつながった指導者(教え手)役の教育的かかわりと、その具体的な理由を説明して伝えます。
・改善点については、デブリーフィングの場では口頭で伝えません。デブリーフィング終了後にリフレクションシートを封筒に入れて、指導者(教え手)役に直接渡します。

観察者役

・よかった点や、今後の参考にしたいと思った点を指導者役に直接口頭で伝えます。
・改善点については、新人看護師役と同様にデブリーフィングの場では直接口頭では伝えません。デブリーフィング終了後に、リフレクションシートに封筒を入れて、指導者(教え手)役に直接手渡します。

シミュレーションから得られた学び

 シミュレーション終了後のアンケートでは、多くの参加者が「学生や新人の考えや気持ちを知ることができた」「自分自身の指導を振り返る機会になった」と回答しました。
 臨床指導者からは、以下のような意見が挙げられました。

・新人看護師が指導をどのように受け止めているのかを知ることができた
・教え手の問いかけ方や振り返りの進め方が参考になった
・振り返りによって学びの深さが変わることを実感した
・新人看護師のリアルな思いを聞き、自分のかかわり方を見直すきっかけになった

 一方、教員からは、以下のような意見が挙げられました。

・臨床指導者が新人教育で抱えている難しさを知ることができた
・学生教育と新人教育とでは対象は異なるが、思考を支える教育という点では共通している

 さらに、「他施設や他大学の教員・指導者と意見交換することで新たな視点が得られた」「他者の指導を観察することで、自身の指導を客観的に見直すことができた」「学生・新人・指導者の三者の立場を理解できたことが大きな学びだった」など、他者にフォーカスした回答も多く、協働学習会の効果が確認されました。
 とくに印象的であったのは、「学生や新人看護師が安心して話せる雰囲気づくり」「できていることを認めながら内省を促す問いかけ」「成功体験につながる振り返り」の重要性を多くの参加者が挙げていたことです。これらは学生教育でも新人教育でも共通する教育技法であり、卒前・卒後教育をつなぐ鍵になることが示唆されました。
 一方で、「デブリーフィングでは改善点についても議論できる工夫が必要」「半日の中で複数回実施したため集中力が低下した」といった改善点も挙げられました。これらの意見は、参加者がより質の高い学びを求めていることの表れであり、今後の学習会運営への貴重な示唆となっています。

アンケート内容を整理すると、参加者の学びは大きく4つに分類できました。

①    学生・新人看護師の理解

「学生が実際にどのように感じているのかを知ることができた」「新人看護師の置かれている状況を理解できた」との回答が多く、指導者が学び手の立場を理解する契機となっていました。

②    指導方法の再認識

「問いかけ」「待つ姿勢」「認めるかかわり」が印象に残ったとの回答が多く、知識を教える指導から考えを引き出す指導への意識変容がみられました。

③    教員と臨床指導者の相互理解

教員は臨床教育の現状を理解し、臨床指導者は教員の教育的意図を知ることで、双方が教育観を共有できました。

④    今後への展望

「明日からの指導に取り入れたい」という回答が多く、研修で終わらせず、実践への活用につながる学びとなっていました。

学生から新人看護師へ、教育をつなぐということ

 今回のシミュレーションを通して改めて実感したのは、「学生だから」「新人看護師だから」と対象を分けて考えるのではなく、一人の学習者が成長していく過程として教育を捉えることの重要性です。
 学生時代には、教員や臨床指導者が「なぜそう考えたのか」「患者にとって最善の方法は何か」を問い続けながら思考を支えています。その姿勢を新人教育でも継続することで、新人看護師は学生時代に培った思考過程を臨床実践へと発展させることができます。また、教員が臨床の教育環境を理解し、臨床指導者が学生教育の考え方を知ることで、卒前・卒後教育がひとつの教育としてつながります。今回の協働学習会では、互いの教育観を共有し、共通言語で学生・新人の成長を語ることができたことが大きな成果でした。
 教員と臨床指導者が目指すゴールは同じです。それは、患者一人ひとりに寄り添い、自ら考え、安全で質の高い看護を実践できる看護師を育成することです。そのためには、卒業という節目で教育を区切るのではなく、学生から新人看護師、そして一人前の看護師へと続く成長を見据えた協働が求められます。

おわりに

 ここまで、教員と臨床指導者が協働して学ぶ実践を紹介してきました。最終回で実施した新人指導シミュレーションは、指導技術を学ぶ場であると同時に、学生教育と新人教育をつなぐ教育理念を共有する機会となりました。
アンケートからも、参加者は学生・新人看護師・教員・臨床指導者それぞれの立場を理解し、自身の指導を見直す契機を得ていたことが分かります。
 学生から新人看護師までをシームレスに支えるためには、一人ひとりの経験を振り返り、思考を支える教育を継続することが重要です。教員と臨床指導者が互いの専門性を尊重しながら学び合うことで、卒前教育と卒後教育はより滑らかにつながります。この実践報告が、そのような協働の輪を広げる一助となれば幸いです。

上山 晃太朗

地方独立行政法人京都市立病院機構 京都市立病院 看護師長

うえやま・こうたろう/三重県立看護大学看護学部卒業後、三重県立総合医療センターに入職。その後、京都橘大学看護学部に助手として入職し、京都橘大学大学院看護学研究科修士課程修了(看護学修士)。同大学助教を経て、2013年京都市立病院に看護師として入職。2024年4月より現職。同年より当院の次世代育成委員会委員長として、実習指導・新人看護師教育に携わる。

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