心理的安全性は、職場においてなぜ大切なのか?
医療安全を考えるとき、「心理的安全性」という言葉を近年よく聞きますし、よく目にします。心理的安全性は、人が安心して発言・行動できる状態を指す言葉で、医療安全の分野では、心理的安全性が高いことで、医療従事者がミスや懸念を報告しやすくなり、患者の安全向上につながるといわれています。
チーム医療や多職種連携においては、チームビルディングができることが求められています。チーム医療を推進するうえでも、チームの中で、自分の意見やアイデアを安心して表明し、行動できる、心理的安全性の高い環境が必要なのだと思います。
私たちが携わっている看護基礎教育の中で、また看護師養成所という組織でその心理的安全性の大事さを教え、またそのような環境の中で教育することが、医療安全やチーム医療の推進のためにも必要なことと考えます。しかし、実際はそのように学校を運営するのには課題が多く、教員は日々葛藤を抱えているのが現状です。皆さんは、どのような取り組みをされているのでしょうか。
かつての私が失敗してしまったこと
今回は、私の組織運営の失敗経験を書かせていただきます。
私は、看護教育に30年携わらせていただいていますが、最近迎えた定年退職まで転勤族でした。いくつもの看護学校で勤務しましたが、管理職として着任したある看護学校では、1年間、私の発言が非難されたり、拒絶されたりの連続、という経験をしました。その内容は、教育方法や学生募集の方法、教育内容の整理など多岐にわたっていました。私の発言に対して、「何を言っているのかわからない、それは別の学校だから成果があったことでしょう」という反応で、言葉が通じない、聞いてもらえないという状態でした。学校というのは、賢い人の集団だと思うので、自分の考えが古いのか、間違っているのか、前提の捉え違いをしているのかと悩みました。しかし、勉強しなおしても、他者に相談しても、私の考えは間違っていないように思えました。そこで、新しい方針や改善策を受け入れて、実践に移すまでのペースは人によって大きく異なるのだろうと考え、数人の教員に改めて私の考えを伝え、まずはその中のひとつについて理解してもらい、それに取り組んだら次に進む、というかかわり方に変えました。そのうち幾人かは教員として成長していったと思いますが、皆もともと柔軟性や学ぶ意欲が高い人でした。
結論を言うと、当時のその学校は心理的安全性の高い看護学校とは言えず、私の組織運営の方法論も良くなかったと反省しています。その原因の一つに、私が教員の抱える不安を捉えておらず、それに合ったコミュニケーションをとっていなかったということが挙げられると思います。少子化が進み、ほとんどの学校が学生募集に苦慮しています。また、教育現場の教員不足もあり、一人ひとりの教員の抱える業務は増すばかりです。これらを背景に学校がいつ閉校するかという不安もあります。教員たちのこのような不安を頭でわかっていたにもかかわらず、私は寄り添っていませんでした。そう言い切れる理由は、教員たちとのコミュニケーションが不足していた自覚があるからです。私は教員一人ひとりに毎日必ず声をかけ、年に2回以上の面談をしていました。しかし、その時の話題は業績評価項目である各自の目標達成状況や、未来のキャリア形成についてでした。教員たちは、気持ちを聴いてほしかったのではないでしょうか。
会議の運営についても、発言する人は固定されており、にもかかわらず当時の私が会議中一番気にかけていたのは時間でした。会議短縮の工夫ばかりしており、皆が自由に発言できる工夫が不足していました。
コミュニケーションは心理的安全性の“基盤”
当時の私は、「相手に間違いがあっても指摘しない」「嫌われないために自分の意見を言わない」という“ぬるま湯”な組織はよくないという考えに固執していました。また、当時から心理的安全性の高い組織について知ってはいましたが、「意見の対立が起こることでより良いアイデアが生まれる」「主張することでお互いの成長につながる」ということばかりに着目しており、教員たちが意見を言いやすくすることそのものの準備が不足していました。「自分の意見やアイデアを言ってもいいんだ」と思ってもらうためには、教員一人ひとりに自分の経験や価値観、強みを意識してもらう必要があったのではないかと思います。そして、日頃のおしゃべりの中で、お互いの考えを伝える“情報交換”という交流を持ってもらうことが必要だったのではないかと考えます。
コロナ禍で私たちは黙食というものに慣れ、それは今も続いています。以前は、食事時間は楽しくおしゃべりし、その中で自分の経験や考えを話すという交流の場がありましたが、今はその機会も大きく減りました。現代社会は、このことをリーダーが意識しなければならない社会となりました。
私は、これまでの経験の反省から、以下を意識して過ごしています。
・交流の場をつくる。つまり、少人数で話す機会をつくる
・会議では、均等に発言の機会をつくる
・上司が弱みを見せ、SOSを上司が発信する
:打ち合わせや会議の場で、自分が困っていることの現状を伝える
:自分に解らないことは「解らない」と表出し、「意見やアイデアが欲しい」など、具体的にどのように助けてほしいのかを伝える
・「相談していいですよ」が形だけにならないようにする
:執務室の入口ドアに2週間先までの予定と「welcome」の札を掲げ、入りやすくする
:可能な限りドアを少し開けておく
:学生や職員が入ってきたら、必ず座って話す
:話ができないときは「待ってください」とは言わず、いつなら大丈夫なのかという具体的な時間を示す
・ありがとうという感謝を表現する
心理的安全性の高い組織は、コミュニケーションが基盤です。コミュニケーションにより、心理的不安が解消され、安心して発言・活動できるようになると考えます。組織のメンバーにとって、自分自身が成長できると思えるような居場所を作っていきたいと考えています。



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