前回の講義は質的研究概論でした。質的研究概論では質的研究の特徴やサンプリング、データ収集法、コーディングなどについて扱いました。今回から個々の方法論に入っていきます。質的研究の2回目の講義となりますが、主題分析(テーマ分析)・内容分析、グラウンデッドセオリーアプローチの3つを扱います。
まず質的研究の主題分析・内容分析の例を紹介する
以下が最初に出す主題分析・内容分析の例です(図1)。この例は私が2006年頃に行った「緩和ケア病棟に入棟することのバリア」に関するインタビュー調査です。患者・家族・医療者の計63人に対してインタビュー調査を行い、それをクリッペンドルフの内容分析的にまとめました。そのため、論文のタイトルも「内容分析」となっています。

ここで断っておきたいのですが、私の主題分析の教え方は少し間違っています。私はデータをカテゴリ化して抽象化していく作業を主題分析と教えています。本当の主題分析は単なるカテゴリ化によるデータの整理にとどまらず、データに潜む深層的な意味やパターンを解釈していくものです。ただ、過去にはデータのカテゴリ化を内容分析としている論文も見たことがあります。内容分析の本質は「頻度を数える」ことだと思っています。そこで、わかりやすさを重視して、古典的な内容分析に含まれるカテゴリ化の部分を主題分析と教えています。厳密に言うと明らかに間違った教え方なのですが、主題分析をどの範囲でとらえるかによっては、このように解釈して教えることもできると思っています。これには歴史的に内容分析のほうが早くに確立し、その後に主題分析の考え方が出てきたことが影響していると思います。
質的研究の主題分析はこう教えている
それでは主題分析(テーマ分析)に入っていきます。主題分析は図2にあるように「データの中にあるパターン(テーマ)を探り、分析し、報告する」方法と教えています。具体的には抽象化してカテゴリを作成してく作業と教えています。実際にはこの講義ではコーディングとカテゴリ化をもって主題分析としており(図3)、前回(第15回)の最後に扱ったコーディングの作業について、もう一度詳しく具体例を挙げて教えています(図4)。それ以上の深い概念については教えていません。最初に挙げた私の研究の例では、インタビューデータをコーディングし、カテゴリを作成していく作業の部分を主題分析と教えています。その細かなプロセスは今回の記事では割愛します。



質的研究の内容分析はこう教えている
次は内容分析です。私は内容分析を「頻度を数える方法」と狭義に定義して教えています(図5)。原則的にはカテゴリは既に作成されており、それに沿って頻度を数えていく方法と教えています(図6)。既に作成されているカテゴリの例としては、たとえば患者の苦痛を分析するには全人的苦痛の考え方から「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルな苦痛」の4つの数を数える、緩和ケアに関する論文のトピックを分析するなら世界的なテキスト「Oxford Textbook of Palliative Medicine」の目次に沿って分類する、などです。そして、既存のカテゴリ分類がないような場合には、予備的に主題分析を行うと教えています。私の研究の例では、既存のよいカテゴリ分類がなかったため、自分で主題分析を行いました。


内容分析は群間比較ができる
頻度の数え方には、出現する頻度をそのままカウントする方法と、インタビューなどの場合には個人を単位とする方法があります。新聞やインターネット上の膨大な情報から単語をカウントする場合には前者になりますし、インタビューデータなどに沿って何が話されていたかをカウントする場合には後者になります。ここは学生にはわかりにくいようなので、例をいくつか挙げて話しています。
内容分析の良さは量的研究のように群間比較などができることだと思います。図7では、前述の例について、患者・家族・医師・看護師でカテゴリごとの頻度を比較しています。ここで、内容分析で出てきた頻度が当てになるかといわれると、必ずしも当てにならないと話しています。これは極端な例ですが、私が以前に「望ましい死の在り方」についてインタビュー調査をしたときに、インタビューで「他人に感謝の気持ちをもって亡くなっていくこと」と答えた人は5%だけでした。しかし、その後に量的研究を行った際には92%の人がこの項目を重要であると答えました。インタビューガイドやインタビュワーの質にもよると思いますが、「言われてみれば確かに」ということはインタビューでは出てきません。内容分析は「語った人」の頻度を知るにはいいですが、「そう思っている人」の頻度を知りたいなら、その後に量的研究を行うことが必要だと思います。

質的分析のグラウンデッドセオリーアプローチはこう教えている
本講義の後半はグラウンデッドセオリーアプローチ(GTA)です(図8)。GTAは最初に「理論とは何か」から入ります。理論については図9のとおりですが、具体的には看護の大理論・中範囲理論、より個別的なプロセスを明らかにした研究などを挙げて説明しています(図10)。私はGTAは誇大理論(大理論、Grand Theory)との比較として、データを用いて理論を構築する方法と教えています。グレイザー流とストラウス流の違いについても少し教えますが、学生はあまり理解していないと思います(理解できるほど深く教えていません)。



グラウンデッドセオリーアプローチの分析方法
GTAの分析方法(図11)に関しては、主題分析と比較しながら以下のような図で教えています(図12)。


グラウンデッドセオリーアプローチのプロパティ・ディメンションについて
その後にプロパティ・ディメンションについて教えています(図13)。プロパティは変数、ディメンションはプロパティの分類または程度として教えています。そして、プロパティとディメンションに比較の軸を置いて行う分析を軸足コーディングと教えています。また、これらを実際のサンプリングと絡めて教えるため、具体例を挙げながらプロパティとディメンションをもとに行う方法などについても教えています(図14)。


そして、最後は選択的コーディングでカテゴリー関連図を書き、ストーリーラインを作成する手続きについて教えています(図15、16)。


GTAは理論構築まで行かない例も多いので、そのような例も話しています。
最後に修正版GTA(MGTA)についても少し話していますが、私自身があまり詳しくないので簡単にしか触れていません。また、質的帰納的分析という言葉についてもいちばん最後に少し触れていますが、これは定義があまりはっきりしないため、少ししか触れていません。主題分析もGTAも解釈学的現象学も質的帰納的分析の一部だと思いますが、間違っていますでしょうか。前述した内容分析の前段階として主題分析を行う部分は質的帰納的分析としたほうがいいのかもしれませんが、あまり自信がなく、その勇気が持てません。
質的研究の方法論にはそれぞれが開発された研究分野と歴史があるので、排他的に定義ができないことが教える立場としては難しいなと思っています。学生は排他的に定義していたほうがわかりやすいですから。単なるカテゴリ化、主題分析、GTA、質的帰納的分析を学生にわかりやすく、できるだけ排他的に教える方法はないものでしょうか。私もこの点はまだまだ未熟だなと思っています。