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第37回:「看護とは何か」を考えることの意味

第37回:「看護とは何か」を考えることの意味

2025.12.11小林 幹紘(武蔵野大学看護学部看護学科 助教)

 大学院生の時の教授の言葉をきっかけに「看護とは何か」について考えた経験と、放課後等デイサービスで働いた経験が私自身の看護観に大きな影響を与えました。今年で大学教員になって5年目、「看護とは何か」と学生に問いながら、あらためてなぜこの問いについて学生に考えてもらいたいのか、私自身の経験を振り返ってみました。

初めて大学生の教育に携わった経験

 私が初めて大学生の教育に携わったのは、大学院生の時にTeaching Assistant(TA)として指導した3年生の臨地実習でした。大学院の基礎看護学の講義で看護教育とは何かを教わりながら、看護を教えるとはどういうことか考えながら実習指導をしていました。

 その中で、当時の基礎領域の教授から「まずは看護とは何か考えて、言語化したうえで実践ができないと学生への指導はできないよね。そして、教員になってからもずっと看護とは何かについて考えることが大切だよ」といわれました。私はちょうど自分の専門領域である小児看護の教え方に悩んでいたところで、看護教育の難しさを痛感するとともに、「看護とは何か」をしっかり言語化して考えるきっかけになりました。

 大学院在学中の5年間、試行錯誤しながらTAとして教育経験を積むことで、少しずつ自分の中で「看護とは何か」の言語化ができるようになっていきました。学生に対しても、小児看護実習での看護実践を振り返ってもらいながら「小児看護とは何か?」のテーマでカンファレンスをしてもらうなど、看護を言語化してもらう教育を意識しました。

学生の質問との対峙

 私は大学院に入るまで大学病院の小児病棟で勤務しており、TAとしての実習先も自分が勤務していた病院でした。慣れ親しんだ場所ですが、そこでもう一つ転機がありました。
 ある日、臨地実習中に重症心身障害児を受け持った学生から「小林先生、私が受け持っている子は、この先どうなるのでしょうか?」と質問されました。当初、私は学生の質問の意図がわからず、「治療を終えて元気になったら家に帰るでしょ?」と答えました。すると学生から「家に帰った後、重心児の子どもたちはどのような生活をしているのですか?大きくなって大人になったときはどういう生活が待っているのでしょうか?」と質問されました。

 私はこれまで重症心身障害のある子どもの在宅移行支援の経験はありましたが、その後、子どもが在宅でどのような生活をしているか考えたことがないことにそのとき気がつきました。これをきっかけに、大学院を卒業して大学教員として働く前に、「地域で生活する重症心身障害児の看護を自分自身で経験しないと学生に教えることができない」と考えるようになりました。

放課後等デイサービスで看護師として働いた経験

 学生の質問から数年後、大学院を卒業したタイミングで放課後等デイサービスに入職し、看護師として1年間働きました。これまで働いていた病院は大学病院だったので、治療をして元気に家に帰れるようにすることが目的で、そのための看護をしていました。しかし、放課後等デイサービスでは健康な重症心身障害児や発達障害のある子どもが看護の対象です。看護の目的は、健康の維持・増進をしながら発達を援助し、子どもが望む生活の実現と、家族の生活を支援することに変わりました。

 また、私が働いていた施設では、地域で生活する子ども、そして一緒に暮らす家族の周りに、  医師や看護師といった医療職だけでなく、保育士など多数の福祉関係の職種、さらには学校の先生や友達などがかかわっていました。私は保育士や児童発達支援管理責任者といった、地域で生活する子どもを支える多くの専門職者と意見を交わすことで、大学病院とは異なる、地域で働く看護師の役割についても考える機会がありました。 

 放課後等デイサービスでの経験から、これまで看護師として見ていた景色の狭さを実感し、自分の大学病院での看護に、やはり地域で生活する子どもの看護の視点が欠けていたことに気づかされました。いま振り返れば当然のことなのですが、病院で治療を受けている子どもたちには、これまでの生活背景があり、治療が終われば帰る場所があって、治療後にはこれから数十年の生活があります。私にとってこの一年間は学生の質問への答えを見つける1年でもあり、大学院で教わった「看護とは何か」を見つめなおす1年にもなりました。

「看護とは何か」を考える中で

 私の大学教育のスタート地点はTAですが、教育者としての根幹は大学院での学びにあります。そして、放課後等デイサービスでの1年間では看護観の大きな変化がありました。
 現在は大学教員となり5年目ですが、学生には「看護とは何か」を考えることだけではなく、その時々で自分が考えた看護を言語化して記録に残すように伝えています。これは、私自身が大学生の時に考えていた看護観や、臨床経験を積む中で変化する看護観を振り返られたらよかったと思うからです。大学で看護学を学ぶ学生の看護観がいい意味で変化することも期待しています。
 また、臨床で働いていると自分が何のために看護職者として働いているのかわからなくなることもあると思います。その時には、自分が考えてきた「看護とは何か」の変化を辿ることで、自分の成長に気づくことができると考えています。

 「看護とは何か」の問いの答えは、一生かけて探すことになるでしょう。学生にもこの問いの答えを模索する楽しさを伝えられるように、これからの講義や実習を工夫しながら学生の教育に携わりたいと思っています。

小林 幹紘

武蔵野大学看護学部看護学科 助教

こばやし・まさひろ/北里大学看護学部看護学科卒業。北里大学大学院看護学研究科家族・生涯発達看護学Ⅰ専攻博士課程修了(看護学博士)。北里大学病院小児病棟(2011年~2015年)、一般社団法人ラフレックス 放課後等デイサービス メルアンジュール(2020年~2021年)を経て、2021年4月より現職。趣味は子どもたち(2人の息子)と遊ぶこと。お酒を飲むこと。

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