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第14回 文献検索はこう教えている

第14回 文献検索はこう教えている

2024.10.31宮下 光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授)

 前回の第13回「評価尺度の信頼性と妥当性」までの講義で医療統計学は終了しました。今回の講義は文献検索です。当然のことですが、研究をするにあたって文献検索はとても重要です。私は下のスライドのように、研究のすべてのプロセスで文献をレビューすることは重要であると教えています(図1)。

図1
 
 

 文献レビューで重要なことは「そのトピックスについてすべての論文を調べる」「都合がよい論文を適当に読むのではない」と教えますが、学生から「都合がよい論文を見つければよいと思っていました」という感想を毎年もらいます。おそらくレポートを書くときに、レポートの体裁を整えるために都合がよい論文を見つけて引用しているからだと思います。
 この講義は2年生の7月なので他の大学に比べると早いほうかもしれませんが、本来でしたら文献検索をもっと早い時期にしっかり教えて、しっかりとしたレポートを書けるようにしたほうがよいのでしょう。ついでに言うと、都合がよい論文を見つけて「……はこう述べている」と挿入する癖もやめさせたいものです。

医学中央雑誌(医中誌)を使った検索

 まずは定番の文献情報データベースに沿った文献検索について教えます。日本語のほうがとっかかりがよいので、まずは医学中央雑誌(医中誌)からです。本学は1年次からBYOD(bring your own PC)で学生が講義用のパソコンかタブレットを持っておりますので、この講義では必ず持ってくるように伝えて、実際に文献検索をしてもらいながら進めます(図2)。

図2
 
 

 文献検索の実際は、まずは「緩和ケア」などの用語で検索してもらい、その結果の見方、抄録や論文の種類(原著論文・総説等)によった絞り込みや履歴検索などをしてもらいます(図3)。

図3
 
 

 その際に自然語と統制語、シソーラスやシソーラスによるマッピング、さまざまな統制語のタグなどについても教えます。また、J-Stageなどにリンクして直接論文を読む方法も教えます(図4)。

図4
 

 

 

 

PubMedを使った検索

 医学中央雑誌で一通りのことをやったら次はPubMedです(図5)。

図5
 
 

 PubMedでも「Nursing」などの単語で検索してから、画面の読み方やMeSH、履歴検索の仕方、タグの付け方、電子ジャーナルとのリンクなどについても実際に手を動かしてもらいながら教えます(図6)。東北大学ではPubMedと電子ジャーナルがリンクしておりますので、ここでも直接論文を読む方法などについても教えます。

図6
 
 

電子ジャーナル、Google Scholar、Scopusを使った検索

 どこの大学でもそうでしょうが東北大学附属図書館の医学分館には東北大学からアクセスできる電子ジャーナルの一覧がありますので、電子ジャーナルの見方についても教えます。

Google Scholarを使った検索

 Google Scholarも結構使えると思います。とくに、該当論文を引用している論文を調べることやフルテキストへのリンクがなされていることなどから、芋づる式に論文を調べていくのによいと思っています。以前は論文は1つ見つけてから、その論文「が」引用している論文を過去にさかのぼって調べていくことしかできませんでしたが、近年ではさまざまなデータベースで、その論文「を」引用している論文を調べられるようになったので、最新の知見を探すのが容易になりました(図7)。

図7
 
 

Scopusを使った検索

 東北大学ではScopusも使えますので、Scopusについても教えています。Scopusの利点は引用数がわかることだと思います。引用数はGoogle Scholarでもだいたいわかりますが、ある分野や特定のトピックでよく引用されている論文=外してはならないキーとなる論文を探すのによいと思います。私も論文のイントロダクションを書く際などには、Scopusを使ってその分野のキーとなる論文を探すことが多いです。以下のスライドは「Nursing」で検索した例ですが、1万件を超える引用というのはすごいですね!(図8)

図8
 

 

 

 

一般的な文献検索のコツと私のコツ

 その後に文献検索のコツについて、一般的なコツ(図9)と私が実際にどうやっているか(図10)ということを少し話します。

図9
 
 
図10
 
 

授業の後半は、実例を2つ見せる

 ここまでで前半が終了です。だいたい1時間くらいでしょうか。時間があるので後半は実例を2つ見せています。

実例1 システマティック・レビューの方法

 1つ目はシステマティック・レビューです。システマティック・レビューやメタアナリシスに関しては別に回を設けてしっかり教えるのですが、この回ではシステマティック・レビューの実例を「早期からの緩和ケア」に関するコクラン・システマティック・レビューを例にして、どのようなデータベースを用いて、どのような検索ルールで検索すると何本の論文が出てきて、それをどのように絞り込んでいくかという話をします(図11)。

図11
 
 

実例2 1本のキーペーパーをどうにか見つけて、芋づる式によい論文を探していく方法

 2つ目の例では、1本のキーペーパーをどうにか見つけて、芋づる式によい論文を探していく方法です。最近使っている例は「中国人はオピオイド(医療用麻薬)に対する誤解がなぜ多いか」というトピックです。これは研究室のゼミでの中国人留学生の発言がもとになっており、中国ではオピオイドに関する誤解が多いが、そういう論文は見つけられなかったと言っていたので、その論文の見つけ方をゼミで話したことがきっかけでした。

まずよい論文を1本見つける

 論文を探すときに私が強調するのは、「まずよい論文を1本見つけること」です。研究をするときには1本もしくは数本のキーペーパーを横に置いて、それを参考にしながら進めることが多いと思いますし、何かを調べるときにはそのトピックの最新の知見や最も頼りになる論文を見つけることがいちばん大事だと思います。
 今回の例では、まずPubMedで検索しました。最初はChinese、 opioid、 concernで調べたのですが、1本目にまあまあの論文が出てきたものの、それほどよい論文が見つかりそうにありませんでした。そこで、Chinese、 opioid、 barrierで調べたところ、「これだ!」という論文が見つかりました(図12)。concern、 barrierなどの語の選択が難しいところですが、これは日ごろからどれだけ論文を調べて読んでいるかが問われるところだと思います。

図12
 
 

 この論文のキーワードをみているとQuestionnairesという語が出てきます。Questionnairesで調べていくのもよい戦略だと思います(図13)。

図13
 

 

 

 

1本見つけたら芋づる式に調べる―その論文「が」引用している論文を調べる

 最初の1本が見つかれば、次に行うのはその論文が引用している文献を調べていくことです。よい論文がいくつも出てきます(図14)。

図14
 
 
最新の論文を調べる―その論文「を」引用している論文を調べる

 次は最新の論文を調べていく作業です(図15)。

図15
 
 

 Scopusを使って、この論文を引用している論文を調べていきます。Google Scholarだと英語以外の論文も容易に調べられるのと、PDFに直接リンクして読めるのことが多いのがよいですね(図16)。

図16
 

 

 

 

著者名で調べる

 著者名で調べるのも有用で、筆頭著者、第二著者、もしくは研究グループのリーダーであることが多い最終著者や責任著者などの名前を使って探します。この論文では筆頭著者で参考になる論文がいくつも出てきました(図17)。

図17
 
 

 また、このトピックスで最も重要な論文などを調べることも必要です。そのためにはScopusで検索して引用数別で並び替えたり、Google Scholarを用いるのがいいでしょう。最初にPubMedで使った検索語を用いてその例を示しています。

少し広いキーワードで調べる―分野の全体像をみる

 次のスライドはもう少し広い「痛み」というトピックスの重要な論文を調べた例です(図18)。自分の研究をするときにイントロダクションで使えるような論文、その分野の全体像をみるための論文などを調べることができます。雑誌のインパクトファクターに関する知識もそのような論文を見つける際の助けになりますので、それについても少し話しています。

図18
 
 

おわりに

 そして「おわりに」のスライドです(図19)。最後は精神論になっていますが、やはり文献検索は経験と根性という気がします。講義では「あなたのお子さんが致死的な病気になったとする。しかし、世の中には治療法があって論文で発表されているとする。死ぬ気で探すでしょう?」という話をします。学生には「入試の問題がネットに落ちているという情報があったら死ぬ気で探すでしょう?」と言うこともあります。「死ぬ気で探す」ことが大事だと思います。

図19
 

 

 

 

 本連載は今回が14回目ですが、実際の講義はこれが13回目です。14回目の講義は「実験研究」ですが、私は実験研究はしないので、学内の実験研究をされている先生に講義してもらっています(本連載では紹介しません)。15回目は中間試験です。1年間にわたる講義ですのでここで試験を入れて夏休み前に復習してもらっています。これで前期の講義は終了です。次回連載から後期の講義に入っていきます。

宮下 光令

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授

みやした・みつのり/東京大学医学部保健学科卒業、看護師として臨床経験を経て、東京大学にて修士・博士を取得。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻助手、講師を経て、2009年10月より現職。日本緩和医療学会理事、日本看護科学学会理事、日本ホスピス緩和ケア協会副理事長。専門は緩和ケアの質の評価。主な編著書は「ナーシング・グラフィカ 成人看護学6 緩和ケア」(メディカ出版)、「緩和ケア・がん看護臨床評価ツール大全」( 青海社)など。

企画連載

宮下光令の看護研究講座「私はこう教えている」

 この連載は、私が担当している学部2年生の「看護研究」の講義の流れに沿って進めていきます。私の講義では、“判断の根拠となる本質的な点は何か”ということを中心に伝えています。あくまで私の経験に基づく、私はこう考えている、ということを解説していますので、読者の皆様には「個人の独断と偏見に基づくもの」と思っていただき、“学部生にわかりやすく伝えるにはどうすればよいか”を重視した結果としてお許しいただければと思います。自由気ままに看護研究を語り、そのことが何かしら皆様の看護研究を教える際のヒントになるのであれば、これ以上嬉しいことはありません。

フリーイラスト

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