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第3回 量的研究の「導入」はこう教えている―まずは因果関係、交絡、バイアスから

第3回 量的研究の「導入」はこう教えている―まずは因果関係、交絡、バイアスから

2023.03.02宮下 光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授)

はじめに

 第3回目の講義は量的研究の概論を話します。本当はエビデンスの信頼度のピラミッド(図1)に沿って、ランダム化比較試験から入りたいところです。

図1
 
 

 ですが、そこはぐっと我慢して、量的研究のデザインの分類、因果関係・交絡・バイアス、研究の内的妥当性・外的妥当性など、量的研究のデザインの詳細や医療統計に入る前に知っておきたい共通する基礎知識について話します(図2)。

図2
 
 

 前回の講義に対して「根拠の有無・程度を、何を基準に判断したらいいかわからない」という感想がありました。これに答えていくのが、今回の1つの目標です。

 

 

 

「量的研究のデザイン」は疫学的方法論による分類をメインに

 まず最初に研究デザインには、量的研究、質的研究、その混合(mixed method)があることを話してから、量的研究のデザインについての話をします。量的研究の分類方法には、疫学的方法論による分類、ディアーによる看護研究の分類などがありますが、私は疫学的方法論による分類(図3)をメインに説明します。

図3
 
 

 ディアーによる分類も簡単に話しますが、研究でデザインと1対1にリンクしないのでわかりにくいと思います。その点、疫学的方法論の分類はエビデンスピラミッド(図1)とリンクしているので初学者にはわかりやすいと思います。

 いくつかの例を挙げて疫学的な量的研究の分類を話したあとには、探索的研究と確証的研究の違いをしっかり話します。新しい治療やケアは多くの探索的なPhase(相)を経て、最終的に確証的研究(ランダム化比較試験)によって有効性を決定づけると話します。

 それと同時に臨床試験・臨床研究のPhase(相)の話をします(図4)。

図4
 
 

 この一覧はあまり正確ではないですが、看護研究でしたら第1相でパイロットを行うとともに、大きな有害事象を確認すると思います。看護研究なら第2相は飛ばすことがあるかもしれませんが、第3相の比較試験の大切さを話します。ランダム化できないこともありますが、比較するということはとても重要です。

 

 

 

因果関係と相関関係との違いについて教える

 次は、本日のメインイベントの因果関係と相関関係です。使う例は「朝食を食べると成績がよい」という文科省のデータです(図5)。相関関係とは「片方が上がれば、もう片方も上がる」ような変数の関係というふうに教えますが、ここで交絡(後述します)が起こっている可能性を考えてもらいます(図6)。つまり、成績が高い理由は、根本の正しい生活習慣の影響であって、朝食を食べていることは直接の因果関係はないかもしれないということです。

図5
 
 
図6
 
 

 その後に、「『原因と結果』の経済学」(中室牧子・津川友介著、ダイヤモンド社、2017年)から仕入れた相関(見かけ上の因果)を示す例をいくつか見せて、因果と相関は違うということを強く伝えます。

 その次は、因果関係の話をします。因果関係の基準はいくつかありますが、私はHillの9原則を使っています。

 
交絡について

 次は交絡の話をします。交絡の説明に使うのは、飲酒が肺がんのリスクになるかという古典的な例です(図7,8)。この例はわかりやすいだけでなく、今後、層別解析やロジスティック回帰の説明に使えるのがよいところです。スライドの仮想データはケースコントロール研究をベースにしていますが、ケースコントロール研究やオッズ比に関してはまだ誤魔化して教えています。

図7
 
 

 

図8
 
 

 交絡について教えにくいのは曝露と結果の中間変数ではないというところだと思います。私は、このパスの先が肝臓がんであったとして、飲酒-アルコール性肝障害-肝臓がんというパスが想定されれば、アルコール性肝障害は交絡変数とはいわないと教えます。

 

 

 

バイアス・誤差について

 次はバイアスです。バイアス(偏り)とは一般的な定義のように「系統的な真実とのずれ」と教えます。選択バイアスと情報バイアスに大きく分けて、ヘルシー・ワーカー・エフェクト、レスポンス・バイアス、診断バイアス、報告バイアス、サーベイランス・バイアス、測定バイアス、リコール・バイアスなどについても話します。選択バイアスがいちばんわかりやすく、たとえば東北大学看護学専攻の学生の身長の平均やアンケートの結果は、同じ大学生であっても一般化できないことを話します。私たちが持つ「偏見」や「先入観」もバイアスのようなものだと話します。

 そして、交絡・バイアス・誤差の違いについて話します(図9)。交絡は計画時に考慮するだけでなく、解析で補正が可能な場合があるが、バイアスは計画時に考慮しなければ一般的に解析時に補正はできないことを強調します。

図9
 
 

 また、バイアスと誤差の違いは体重測定の例を用いて話します(図10)。最近の電子体重計は誤差がかなり小さいので、昔のようにゼロ点調整をしたり、精密に測定できずに毎回の測定で誤差が生じたりするというところにピンと来ない学生もいるかもしれません。

図10
 
 

研究対象の適格基準と除外基準、研究の内的妥当性と外的妥当性について

 次はやや話が飛ぶのですが、研究の適格基準と除外基準について話をします。研究計画書を作成する際に、何が適格基準で何を除外基準にするかは悩むことが多いと思うのですが、私は以下のように話しています。

適格基準:この研究の結果を直接的にあてはめたい集団、もしくは結果を知りたい集団
除外基準:どうしても除かなくてはならないサブグループ

 

 

 

 たとえばがん患者の痛みの程度(分布)を知りたいとします。さすがにすべてのがん患者を対象とすることは困難なので最初にある程度絞ることになるでしょう。その結果として、適格基準をたとえば「20歳以上の入院中のがん患者」とします。本当はこの入院中のすべてのがん患者の痛みの程度を測定したいのですが、実際には「どうしても除かなくてはならないサブグループ」というのが存在します。たとえば「研究への参加を拒否する」「手術直後である」「一時的に痛みを感じなくなる薬を使用した」「身体的に重篤で調査に回答できない」「認知機能が低下しており調査に回答できない」などです。
 本当はこれらの対象のことも知りたいのです。しかし、これらの人のデータは真の値をゆがめてしまうので、断腸の思いで対象から外します。薬剤の介入研究では、腎障害、肝障害などがあると、予期せぬ有害事象で試験の遂行が難しくなることもあります。「本当は対象にしたいが、今回は省かざるをえない」のが除外基準です。

 何を適格基準にして、何を除外基準にするか悩むことが多いと思いますが、私はこのように使い分けています。ただし、ランダム化比較試験では「研究への参加を承諾した人」が適格基準にすることも多いと思います。ランダム化比較試験は「研究への参加を承諾した人」というある意味特殊な集団に対して行うものだからです。アンケート調査などは本当はそのような人のことも知りたいのですから、これは除外基準が適当でしょう。この辺の考えは人によって異なるかもしれません。

 そして、この話を研究の内的妥当性と外的妥当性の話につなげます(図11)。研究の内的妥当性というのはこの時点では学生にはわかりにくい概念だと思いますが、「研究そのものがよく計画されているか、1つの要素としてランダム化で比較可能性が保たれていること(因果関係の確信の程度)」と教えます。

図11
 
 

 他にも対象選択や評価尺度の妥当性など内的妥当性の要素は非常に多いのですが、1つ1つ教えることは現在はしていません。外的妥当性はわかりやすい考え方で、一般化可能性と教えます。外的妥当性が低い、一般化可能性が低いということは、そこで選択バイアスが生じていることにほぼ等しく、そうであれば研究の結果は限られた集団にしか適用できないことを話します。

 

 

 

評価尺度の信頼性と妥当性について

 次は評価尺度の信頼性と妥当性です。この項目は後日、1コマ使って話すので、ここでは簡単に評価尺度のもつべき性質として「信頼性」「妥当性」「感度/反応性」「実施可能性」という話と、実際の評価尺度の例について述べるにとどめます。
 評価尺度の信頼性・妥当性は、この段階ではあまり必要ないのかもしれませんが、妥当性が低いということがバイアスにつながりますし、信頼性が低いことが誤差につながるので、今後の講義でいろいろな研究の事例を出していくときのことも考えて簡単に教えています。

調査の方法について

 最後は調査の方法についてです。面接調査、郵送調査、集合調査、ネット調査、電話調査、留め置き調査などについて簡単にその特徴を話します。図12は最後のまとめで、少し雑につくったので異論もあると思いますが、最終的に大切なのは「回収率を上げること」「欠損を少なくすること」「偏りがない対象抽出ができること」として、端的にいえばバイアスがなく、一般化可能性が高い調査をすることと教えます。

図12
 
 

講義後のフォローアップ

 この講義の終わりには省察タイムとして「あなたの周りにある交絡について考えてみよう」「あなたの心の中に何かしらの『バイアス』はあるだろうか」という課題を出します。

 

 

 

ちなみに、この講義の感想は、以下のようなものが多いです。

講義の感想

・研究をするにはこんなにも考えないといけないことが多いとは思っていなかった。
・いままで朝食を食べると成績が上がると信じてきた。交絡の可能性というのを常に考えていきたい。
・世の中のアンケート調査の結果をみるときには、誰に対してどのような方法で行われているか、しっかり確認しないといけない、結果をうのみにしてはいけないと思った。
・誤差という言葉をいつもは曖昧に使っていたと思う。
・交絡因子の例として「〇〇〇」を考えた。

 次回からはエビデンスのピラミッドに沿って研究デザインの話に入っていきます。

宮下 光令

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授

みやした・みつのり/東京大学医学部保健学科卒業、看護師として臨床経験を経て、東京大学にて修士・博士を取得。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻助手、講師を経て、2009年10月より現職。日本緩和医療学会理事、日本看護科学学会理事、日本ホスピス緩和ケア協会副理事長。専門は緩和ケアの質の評価。主な編著書は「ナーシング・グラフィカ 成人看護学6 緩和ケア」(メディカ出版)、「緩和ケア・がん看護臨床評価ツール大全」( 青海社)など。

企画連載

宮下光令の看護研究講座「私はこう教えている」

 この連載は、私が担当している学部2年生の「看護研究」の講義の流れに沿って進めていきます。私の講義では、“判断の根拠となる本質的な点は何か”ということを中心に伝えています。あくまで私の経験に基づく、私はこう考えている、ということを解説していますので、読者の皆様には「個人の独断と偏見に基づくもの」と思っていただき、“学部生にわかりやすく伝えるにはどうすればよいか”を重視した結果としてお許しいただければと思います。自由気ままに看護研究を語り、そのことが何かしら皆様の看護研究を教える際のヒントになるのであれば、これ以上嬉しいことはありません。

フリーイラスト

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