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第39回:歯と社会参加との関係

第39回:歯と社会参加との関係

2026.10.15島谷 浩幸(医療法人恵泉会堺平成病院歯科 科長)

歯と社会のつながり

 日々患者の看護をする上で、患者との人間関係は人それぞれだと感じることがあると思いますが、歯の状態と社会参加に関係があることをご存じでしょうか。
 社会参加は地域の人とのつながりを構成する一つの要素であり、近年はこうした地域や社会の結束力が人々の健康に作用する可能性が指摘されています。
 社会参加はWHOが定めるActive Ageingの3つの柱の一つに数えられており、ソーシャルネットワークといった人々の交流の機会を増加させます。ネットワークの中で人々は周りの人々の影響を受けます。
 その結果、歯磨きなどの口腔保健行動や喫煙のような、歯や歯ぐきの健康に関与する生活習慣を改善するといった行動の変化が起きることが知られています。
 ネットワークの中で歯の健康に関する情報を共有したり、周囲からアドバイスを受けたりするなどして、気持ちや行動が変化することは大切だと言えるでしょう。
 今回は、歯と社会参加の関係性について、エビデンスをもとに論じます。

閉じこもりと口腔状態との関係

 家に閉じこもることにより、社会的孤立や身体活動量の低下など、健康への悪影響が引き起こされ、その結果として介護リスクや死亡率の増加、認知機能の低下などにつながる可能性が懸念されます。

◎エビデンス

 2021年に東京医科歯科大学(現・東京科学大学)と東北大学の研究グループが報告した研究では、高齢者の健康と社会性の関係を調べるため、高齢者の口腔状態と閉じこもり(外出頻度が週1回未満と定義)の関連性を調査しました1)。
 この研究では、26,579名の高齢者を6年間追跡調査することにより、口腔状態の4つの指標と閉じこもりの関係について解析しました。この4つの指標は、「歯の本数」および口腔機能として「咀嚼困難」「むせの経験」「口腔乾燥症」を表します。
 対象として、日本全国の13市町村が参加した日本老年学的評価研究(JAGES)のパネルデータを使用し、65歳以上の要介護状態でない高齢者が選ばれました。
 その結果、歯の本数が20本未満の場合、20本以上と比較して6年後の閉じこもりが1.42倍多くなりました。また、咀嚼困難の場合、咀嚼困難がない場合と比較して6年後の閉じこもりが1.28倍多いことが明らかになりました(図1)。
 その一方で、「むせの経験」と「口腔乾燥症」については、閉じこもりの発生と無関係でした(図1)。

図1 口腔状態と閉じこもり発生の関係
[Abbas H, Aida J, Kiuchi S et al: Oral status and homebound status: A 6-year bidirectional exploratory prospective cohort study. Oral Diseases, 2021より引用]

 また、逆の関連性については、ベースライン時点で閉じこもりであることは、6年後のフォローアップ時に「咀嚼困難」のリスク比が1.17となったほかは、特に関連性は認められませんでした。
 これらのことから、口腔の健康と社会的な交流に少なからず双方向性の関係が認められるため、両者を改善する際の介入に対して指針を与える可能性があることが示唆されました。

社会参加と歯の本数の関係

◎エビデンス

 2013年に東北大学の研究グループが報告した内容によると、社会参加と歯の本数との関連性について調べています2)。
 この調査はJAGESプロジェクトの一環として、2010年8月に宮城県岩沼市の65歳以上の高齢者全数を対象として、全身や歯の健康状態、生活習慣や社会参加状況などに関するアンケート調査を実施しました。
 対象人数は回答のあった5,058名(回収率59.0%)であり、これらの対象者のデータを用いて、社会参加と歯の本数の関連性を解析しました。
 社会参加の具体的な内容として、政治関係の団体、同業者団体、ボランティア団体、老人会、宗教関係の団体、スポーツ関係のクラブ、町内会、趣味の会が含まれました。
 その結果、性別や年齢、健康状態、生活習慣、社会経済状態などの指標に関係なく、社会参加していない人に比べて社会参加している人は、歯の本数が1.3倍多いことが明らかになりました(図2)。
 また、4つのグループに社会参加している高齢者が、最も歯の本数が多いことも判明しました(オッズ比:1.46)(図2)。

図2 社会参加と歯の本数の関係
[Takeuchi K,  Aida J, Kondo K et al: Social participation and dental health status among older Japanese adults: A population-based cross-sectional study. PLoS One8(4):e61741, 2013より引用]

 さらに、社会参加の種類に関しては、スポーツ関係のクラブもしくは町内会、趣味の会に参加している人は歯の本数が多い傾向があることが明らかになりました。
 一方、その参加頻度として、スポーツ関係のクラブは週2~3回、町内会は年に数回参加すると歯の本数が多くなり、趣味の会は頻度に関係なく参加すると歯の本数が多くなることがわかりました。

*      *   *

 Gさん(80歳代、女性)は3ヵ月ごとの定期検診で外来通院されている患者です。
 ある時、上顎の前歯の差し歯が取れたとの主訴で当院歯科を受診されました。「来週末、老人会の会合がありますねん。歯がないとカッコ悪いから、急いで来ました。」
 取れた歯のX線写真を撮って歯のチェックをすると、差し歯の土台の歯根に特に問題は認められませんでした。ただ、歯ぎしりが強いのか、噛み合わせがかなりすり減っており、差し歯に負担がかかっていた可能性が推測されました。
 そこで差し歯を再装着し、噛み合わせ調整をしました。
 「これで、会合で存分にしゃべれますわ」とご満悦のGさん。
 差し歯を取れたまま放置すると、隣の歯が傾斜するなどして再装着できないケースが少なからずありますが、老人会のおかげで早く来院され、早期対応できたケースでした。

文献
1)Abbas H, Aida J, Kiuchi S et al: Oral status and homebound status: A 6-year bidirectional exploratory prospective cohort study. Oral Diseases, 2021
2)Takeuchi K,  Aida J, Kondo K et al: Social participation and dental health status among older Japanese adults: A population-based cross-sectional study. PLoS One8(4):e61741, 2013

 

島谷 浩幸

医療法人恵泉会堺平成病院歯科 科長

しまたに・ひろゆき/大阪歯科大学卒業、同大学大学院博士課程修了。大阪大学微生物病研究所、京都文化医療専門学校非常勤講師等を経て、2019年より現職。歯科医師・歯学博士、野菜ソムリエ。TV番組『所さんの目がテン!』(日本テレビ)出演等のほか、著書に『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス、2008)、『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎ルネッサンス、2017/文庫改訂版2021)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版、2019)がある。雑誌掲載・連載多数。趣味は自然と触れ合うことと小説執筆、好きな言葉は晴耕雨読。ブログ「由流里舎(ゆるりしゃ)農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

企画連載

エビデンスでみる歯・口と健康のかかわり

歯の病気や口腔機能の障害・低下はさまざまな疾患や健康状態悪化の原因になります。また歯・口腔の状態は全身の健康状態や、さらには置かれている環境・社会状況などの映し鏡にもなります。本連載では、そんな歯・口と健康のかかわりを、エビデンスを基にわかりやすく紹介します。

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